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水島精二監督が語る劇場版『鋼の錬金術師』
その4 映画のラストとオープニング


小黒 最初のプロットの段階から、ふたつの世界に別れた兄弟が再会して、最後にまた別れるかと思ったら、結局そうはならなかったという話ではあったの?
水島 そうですよ。
小黒 ああ、そうなんだ。最初に試写で観て、エドが現実世界に戻る事を宣言したあたりで「おお、やっぱり別れるんだ。さすがは會川脚本! 厳しいまとめ方だ。イカス!!」と思った。そうしたら、最後に再会したので、これは水島さんが「やっぱり再会させようよ」と提案したんじゃないかと思ったんだけど。
水島 あっはっはっは(笑)。いやいや、そうじゃないんですよ。本人に聞いたわけじゃないけど、もしかすると、會川氏が僕の好みを意識したのかもしれないですよね。ただ、自分のカラーを押し通すのではなくて「水島はこういう結論を選択するだろう」と思って書いてくれたのかもしれない。だって、それについては、俺もシナリオを読んでて意外でしたからね。「あ、きたよ。お別れか〜……あれ、再会しちゃったよ!」って(笑)。
小黒 ああ、やっぱりそう思ったんだ。
水島 『鋼の錬金術師』のTVシリーズをやっている時、どこまでユーザーの期待に沿うのか、期待を裏切るのかという局面で、常に僕はユーザーに寄った選択をしてきたんです。やっぱり1年続けてやった後だから、會川氏もその辺気にしてくれてるんだろうなあと思って。僕は割と感覚的な人間なんで、あのラストは、あれはあれでありかなと思いました。むしろ、その後の時代を生き抜いていくという事を考えると、アルはアルで厳しい思いをする事になるだろうから、あれも甘々なだけのラストではありませんしね。だから、シナリオを読んだ時に「あれ!?」と思ったけど、「俺が作るんならこっちの方がいいや」と思ったというのはあります。映画が公開した後で、ハイデリヒが死んだからアルが現実世界に来られたんだという意見を聞いて、「ああ、そうか、そういう捉え方もあるな」と思いました。そのつもりはなかったけどね。
小黒 エドが「等価交換か」と言うじゃない。TVで散々使って、一度は半ば否定した言葉をあそこで使ったのは効いていたよね。
水島 ハイデリヒが死んだから等価交換でアルが帰ってきて、エドが彼を受け入れたと思った人がいるらしいのよ。俺はそれ聞いて「違うんだよ〜。その捉え方!」と思った(笑)。
小黒 錬金術の力を失って、記憶を取り戻したから等価交換なんじゃないの?
水島 うん。そういう事ですよ。「(記憶が)戻ってきたみたいだ」というセリフを聞き逃した人が結構いらっしゃるようで。自分で言うのも変だけど、『鋼』って「えっ!」と思ったところで思考停止すると、どんどん話が進んでくじゃないですか。そのせいで分かりづらいところが生まれているのかもしれない。特に劇場版だと。
小黒 最初の、構成についてハラハラした話に戻るけど、錬金術世界にいたエドがの現実世界に来て、その後、いろいろあって錬金術世界に戻った。なるほど、これで弟と再会して、バトルがあって終わるのかと思った。だけど、門を開いた事によって人が死んでしまった。そこで、僕達はなんて事をしてしまったんだ、という問題が浮上した。あそこがいちばん驚いたよ。え〜、ここまできて、そんな話を始めるの? って。
水島 (笑)。そう思うでしょうね。実はまだ中盤だったのか? みたいなね。
小黒 まだ新しいテーマを語ろうとするのか! ってね。好みの問題かもしれないけど、あのシーンで死んだ人を見せる描写は、もっとバーンと派手に見せた方がよかったんじゃないの。
水島 あーあそこは僕もイマイチかなと思ってます。爆撃されている街に人がいるシチュエーションが描けてないんですよ。
小黒 逃げまどう人のカットはあったじゃない。
水島 それと別に爆撃が恐くて隠れてる人達みたいなシチュエーションかな、いや、それも違うな。もうちょっと何かやるべきだったと思うんですよ。いまだにどうやったらそれが上手くいったのかは思いつかないんですけど。
小黒 それで、アルが人の死と直面するシーンを入れたんだ。
水島 うん。アルは人の死に直面した記憶がなかったりするじゃないですか。エドと旅してた記憶がない分、そういう体験から遠ざかっちゃっているんです。自分が開けてしまった門によって何が起きているのかを、あの短い時間で感じさせる事はできないんだけど、それに近いショックを与えようと思って、死と直面する描写をいれたんです。あのシーンって、決定稿のシナリオにもないんですよ。
小黒 ああ、なるほど。
水島 考えに考えてあの表現にしたんです。今日中にここのコンテを出さなきゃいけない! という状況の中で決めたもので、自分でももっと上手い消化の仕方はなかったものかというのはありますね。街で人が逃げてるのも1カットだけでしょ。凄い爆撃なんだけど、それをたっぷり描写するとテンポも崩れるし、戦争物みたいになっちゃうからまずい。尺数も、その時点で予定よりオーバーしていたので、カット数を沢山使うわけにもいかない。それで頭の中で色んな事がグルグル回って。何で俺はスマートにまとめる事ができないんだ、バカバカ、俺のバカ、みたいな感じでやってましたね。
小黒 もう少し制作的な話も訊こうか。映画でのBONESの底力はどうでした?
水島 僕は他の現場で映画をやった事ないんで、比較はできないんですけど、個々のスタッフのスキルが高いなというのは実感しましたね。さっき言い忘れたけど、伊藤さんだけじゃなく、個々の作画監督の仕事も、本当に素晴らしかったですよ。それと、色彩設計の中山しほ子さんが凄かった。精神的にも実作業面でもスタッフの柱になってくれて。
小黒 と言うと?
水島 精神的な部分で言えば、(現場スタッフの中で)唯一、僕を叱ったり(笑)。実作業では、本当に最後の砦で、「もう一息」と思ったいろんな部分を、随分救ってもらいました。
小黒 あ、そうだ。オープニングの話もしなくては。素晴らしくかっこよかったよ。
水島 ありがとうございます。
小黒 あれは、どういう段取りで作ったの?
水島 元々は、本編に力注ぐから、オープニングはTVの素材を使って、ちょっとカッコイイ編集にして、総集編みたいにしようというプランがあったんですよ。だけど、TVの映像を軽く加工しただけだと観客に申し訳ないなと。ラルク(L'Arc〜en〜Ciel)もせっかくいい曲書いてくれているから。それで、モーション・グラフィックとか入れて、カッコイイ画が作れないかと画策したんです。TVの素材はデジタルで、レイヤー分けができますから、データを渡せば画をバラせるというのは分かっていたので、そういうやり方もあるな。カートゥーン・ネットワークとかでやっているステーションIDみたいに、画を分割して加工するとかそういう方法は採れないか、ちょっとPV風にできないかと話したんです。キャラクターを3Dで動かすとかではなくって、一枚画が切り替わっていくようなのをモーション・グラフィックをイメージしていました。で、勿論、それは自分だけではできないから、DVDのメニュー画面を作ってる望月(通隆)さんというディレクターにプランを出してもらったんです。彼の方からDVDのジャケット用のイラストを使うというアイデアがでてきて。しばらくしてから、彼がバニラという会社を巻き込みたいと言ったんです。そこはTVCMとかを作っている会社で、その人達にお願いしてできたのが、あのオープニングですよ。
小黒 画の使い方も、タイトルの出し方も格好よかったよね。アニメであんなの初めて観た。
水島 実は、CMとかでは結構ある手法なんです。僕、ああいうの好きなんですよ。ただ、バニラさんもアニメのオープニングだから、タイトルがちゃんと見えなきゃいけないだろうとか、色々気を遣ってくれて。最初にできたものは、もうちょい地味だったんですよね。だけど、そこが前に作ったCMとかを見せてもらっていたので「他の作品みたいにもっとレイヤー分けして、もっともっとクルクル回していいですよ。字なんて読めなくていいッスよ」と言って作ってもらった。後で(周囲に)クレジットが読めないって注意されましたけどね(笑)。横文字のやつが全く読めないんだけど。
小黒 最初に、パパパッっとクレジットが出たときには読めないよね。
水島 そうそう。でも、あれは決まり位置になった時に、漢字が読めればいいんですよ。上のローマ字は飾りだからと言って、通してもらって。
小黒 大体、スタッフ名はエンディングにもう1回出るわけだしね。
水島 もともと映画にああいったオープニングがついてる事自体が、構成として面白いところであるわけで、やっぱり目を引いて、なおかつカッコイイと言ってもらわないと意味がないから。だから、あそこは凄くこだわってやりました。こだわったと言っても、あの人達の力を借りたからできたんですが。
小黒 という事は、オープニングについては、アニメ現場の人が絵コンテ描いて渡したりはしていないんだ。
水島 あ、全くない。絵コンテはないです。カットのプランだけちょろっとメモ書きを渡したくらいで。あとはもう望月さんに動くコンテみたいなものを作ってもらって、構成や音とのシンクロについてやり取りをしたかたちですね。

●水島精二監督が語る劇場版『鋼の錬金術師』
その5 テーマの語り方と作品の語られ方 に続く

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(05.09.19)

 
 
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