web animation magazine WEBアニメスタイル

■『トップをねらえ2!』秘話
第1回
第2回
第3回
第4回
第5回
第6回
最終回
 
鶴巻和哉が語る『トップをねらえ2!』秘話
第5回 ノノはどうして立ち去ったのか


小黒 一回4話で話がリセットがかかって、5話から違う話が始まっているわけですね。
鶴巻 強弱の立場が入れ替わった事で本当の主人公がはっきりするという事ではあります。
小黒 あの展開には、ちょっと戸惑いました。あ、そうなるんだ、と。
鶴巻 5話まできて、これでようやく最初に描きたかった事が直接描けるとは思いました。でもね、4話でノノがバスターマシン7号だった事が分かったあたりでのファンのリアクションを見ると、ああ、みんなは本当はこっちの方をやってほしかったんだな〜って……。
小黒 そりゃそうですよ。
鶴巻 僕は2話の段階で、ノノがバスターマシン7号である事はもうバレているだろうと思っていたし……。
小黒 いや、そんな事ないでしょう。
鶴巻 4話の大きな部分は、宇宙怪獣とトップレスの意味が逆転するところであって、バスターマシン7号である事はとりたてて隠す事ではないと思っていたんですね。
佐藤 ノノがコックピットに乗り込むみたいな事は起こっても、ノノ自身がバスターマシンだとは思っていないだろうねえ。
鶴巻 そっか。
小黒 5話のドラマは、物凄く重たいじゃないですか。
鶴巻 重いですね。もちろん4話で、あそこまで『トップ』を踏襲しているんだったら、5話だって同じように。
小黒 ドッカンバリバリ!
鶴巻 ドッカンバリバリにするっていうのも、ありうるけど。でも、その事は考えていなかったな(笑)。前の『トップ』ファンに喜んでもらうのは4話で、5話以降はその先に行きますよというつもりだったんで。
佐藤 ファンの言葉ばかり気にしていてもしょうがないんだけど、ちょっと思った事があるんです。5話のあの展開も凄くいいと思うんだけども、お客さんがそれを“鬱展開”という言葉ひとつで切り捨ててしまっているのに、びっくりした。誰かが思い悩んで結論が出ないまま終わってしまう事って世の中に沢山あるし、そういうアニメも沢山あるはずだと思うんだけど、今は自分が楽しめないものだと、それだけで“鬱展開”という言葉で切ってしまう。鬱な展開=NG=終わり! みたいな。
小黒 5話で不満があるとしたら、むしろノノが何を考えているのか分からなくなっちゃったからじゃないかなあ。
鶴巻 それはありますね。
佐藤 とことん何考えているか分からない子に見えましたねえ。
小黒 ワケ分かんないなりに、ついてきてくれるっていうか、イチャイチャしてくれると思って観ていたら、本当に分からなくなっちゃって、消えちゃう。
佐藤 しかも、4話で本当は賢い(?)ところがバレちゃったからな。勿論、そういうストーリーを楽しんでくれる人もいるんだけど。
小黒 話的には、ノノに去られる事による喪失が必要だったっていうわけですよね。
鶴巻 ラルクは、ノノがなんでああしたか分からない、ノノの気持ちが分からないわけです。ラルクが5話から6話にかけて悩み考える事を、観ている人にも、そんで僕自身も考え感じてほしいという事でもあります。
 スタッフにも「ノノが何やっているか分からないですよ」と言われて、「いや、この時点では、むしろ分からなくていいんです」と答えました。まあ、冷静に考えれば、OVAという商品であるわけで、分からないものにお金を払うのは嫌という人がいるのも、それはそれで当然なんだけど……。
小黒 1本6000円ですよ!(笑)
鶴巻 僕は分からない事も娯楽として受け入れ可能なオタクだから。
佐藤 ツンデレ萌えなんて言ってるのに、実際好きなのはデレだけじゃん! って思うわけ。本当のツンデレを受けてみろ! みたいなところやね。
小黒 しかも、鶴巻さんは女性に関して、デレが要らないんだよ(笑)。
鶴巻 ツンだけで十分じゃないですか。
一同 (笑)。
鶴巻 商品なんだから、もうちょっと考えるべきだったかなあとも思うけど。
佐藤 えーっ!! 今になってそんな弱気な事を言う人は嫌いですよ。鶴巻監督を面白いなと思ったのは、そういうところを凄く考えているように見えて、趣味の作品にしているというところなんだから。
小黒 あの時にノノが行っちゃったのは、ラルクが自殺しようとしたからじゃないの? 死んでひと花咲かせるぜ、みたいな事を言ったから。
鶴巻 死ぬ事を嫌だと思っていないでしょう。それ自体を、気持ちいいと思っているでしょう! みたいな事かなあ。榎戸さんが、DVD4巻に入っていたインタビューで言っているけど、トップレスというのは、万能感のメタファーであって、万能感が過剰になっていくと気持ちがいいんですよね。気持ちがいい事を否定したくはないけど、「気持ちがいいんだからいいでしょ!」だけでは、立ち行かないなあというのがあって、ああいう展開になっていると。
小黒 特攻する事に対してウキウキして言っているから、「それは違う!」という事ですね。
鶴巻 もっと踏み込んで言えば、「それは『トップをねらえ!』を観ていた自分自身なのかも?」という事です。僕は『トップをねらえ!』を観ていると、凄く気持ちがいいんです。『トップをねらえ!』の最終話は本当に気持ちがいい。勿論、気持ちいい事は商品としては正解なんだけど、大事なテーマまで見失わせるほどの気持ちよさというのは、恐ろしいと思ったんです。
小黒 今の鶴巻さんの発言は、メタのレベルが上がっていて、ノノがどう思ったかではなくて、作り手がどう思ったかという話ですね。
鶴巻 勿論、ノノの想いでもあるわけです。『トップ』に限らず、主人公が全人類を救うために犠牲になるみたいな状況は、そこで本来描かれている主人公の苦悩とはまったく逆に、観客には快感を与えてしまう。それは怖いなあという事です。3話の事もあるように、快感を与える事が駄目だと言ってるわけではないし、大抵の場合、主人公の苦悩は言い訳であって、快感を描く事が目的なんだと思うけど、『トップをねらえ!』で本当に描いていた事ってどうだったのかなって。
小黒 最終回は宇宙スケールで展開しているのに、ラルク個人の話に集約されているじゃないですか。これは元々の狙いなんですか。
鶴巻 最終的には、榎戸さんがそういう流れを作ったという感じです。僕のプロットでは、そこまで個人的なものにはなっていなかったとも思う。例えば、冒頭の長老の人達とラルクが会話するシーンで「地球を犠牲にしてもいいのか?」と長老が言うと、ラルクが「人類を救うためにはそれしかない」と答える。あそこは、(プロットでは)もっと大局的にものを見ているラルクだったと思います。
小黒 なるほど。
鶴巻 あの言動は、(フィルムでは)ある種ラルクの自傷行為であって、自傷行為によって誰かに叱ってほしいとか、心配してほしいという事として描きました。ノノにとって、もちろんラルクにとっても大事な地球を傷つければ、ノノは出てくるだろうとラルクは密かに思っていた。ノノに捨てられたと感じているラルクは、ノノにどんな理由であれ、構ってほしかったって事です。
 あのシーンでも凄くでっかい事と、ちっちゃい事を同時に描いているわけなんだけども、僕は最後までそれでいきたいなあと思っていたんです。最後のノノとラルクの戦いも、人類を救う、地球を救うという大きな事態と、「何で私を捨てたんだ」というラルクとノノの個人的関係を同時に描きたいと考えていたけど、5話のノノとは逆に、ラルクの感情が分からなくなってしまうリスクを冒したくなかったので、一気に個人的なところに落とし込む事にしちゃいました。
小黒 個人でまとめていった事で、たぶん、今風になったんですよね。
鶴巻 まあ、それはありますね。
小黒 セカイ系と言われるものに繋がる感覚なのかもしれない。
鶴巻 樋口さんの「日本沈没」を見ても、そういう事としてしか描けないんだと思いました。「日本のために死ぬ」とは、やはり描けない。
小黒 それは昭和の映画と平成の映画の差だよね。
鶴巻 小野寺を特攻させるために、たくさんの仕掛けを作っているんですよね。例えば実家のお母さんのところへ行ったり、死んだ赤ん坊を抱きかかえながら彷徨う母親の脇を通らせたり、彼女がいたり、先に同僚が死んだり……。
佐藤 しかも家族持ちね。
鶴巻 そういう個人的な仕掛けをいくつも作らないと、観客に理解できる動機として小野寺は特攻に向かわないんだろうなとは思いました。


●鶴巻和哉が語る『トップをねらえ2!』秘話 第6回に続く


●関連サイト
『トップをねらえ2!』公式サイト
http://www.top2.jp/
[DVD情報]
「トップをねらえ2!&トップをねらえ!合体劇場版!! BOX 」(初回限定生産)
BCBA-2786/カラー(一部モノクロ)/(予)345分(本編DISC1:約95分+本編DISC2:約95分+特典DISC1:約95分+特典DISC2:約60分)
価格:15540円(税込)
発売日:2007年1月26日
初回特典:特典ディスク1『トップをねらえ! 劇場版』上映版ディスク、特典ディスク2(キャストインタビューをはじめとした映像特典ディスク)、ノリコ&ノノ フィギュア、ブックレット、収納BOX
発売・販売元:バンダイビジュアル
[Amazon]

[書籍情報]
トップをねらえ2! 画コンテ集 ガイナックス アニメーション原画集シリーズ (ムック)
A5版 888ページ
価格:3465円(税込)
発売中
出版社: ガイナックス
[Amazon]
●関連記事
【artwork】『トップをねらえ2!』 キャラクターデザイン・1 ノノの巻 (05.11.02)
【artwork】『トップをねらえ2!』 キャラクターデザイン・2 ラルクの巻 (05.11.04)
【artwork】『トップをねらえ2!』 キャラクターデザイン・3 チコ達の巻(05.11.07)
【artwork】『トップをねらえ2!』 キャラクターデザイン・4 トップレスの巻(05.11.08)
『トップをねらえ2!』完成披露試写会レポート(04/10/08)


(07.01.29)

 
 
  ←BACK ↑PAGE TOP
 
   

編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
Copyright(C) 2000 STUDIO YOU. All rights reserved.