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鶴巻和哉が語る『トップをねらえ2!』秘話
最終回 「オカエリナサイ」の「イ」の字は?
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小黒 5話も6話も、相当話が詰まっていますよね。情報を間引く事ができなかったんですか?
鶴巻 いや、大分、間引いているんですよ。カシオの事もディスヌフ(バスターマシン19号)の事も相当間引いちゃったから。ニコラかカシオは、どちらか一方だけにしておけば……と、今なら思うけど、両者描きたかったんだからしょうがない。
小黒 封印されていたもうひとつのコックピットは、あらかじめ決まっていた設定ですか?
鶴巻 ないです。
小黒 最終回に突然生まれたんですか。あれにはびっくりしました。
佐藤 しかも、シナリオ打ち合わせの時にどうしたら上手く収まるか決まらず、逆算的に思いついたネタだったです。
鶴巻 最終回で、ラルクにTOP部隊のレオタードコスチュームを着せたいっていうのは、榎戸さんから提案されていたんですが、それはギャグになりかねないからと、一回切り捨てたアイデアだったんですが、結果的には本当のコックピットが現れて……いつの間にか復活していた。
小黒 あれはトップレスの能力の人が現れる前のコックピットであるわけですね。旧ガンバスターに近い。
佐藤 努力・根性マシン。
鶴巻 ディスヌフ自体はトップレス駆動マシンとして作られたわけですが、バスターマシン公社の企画設計局には別の意図、というか「願い」があったという事かな。本来のバスターマシンは「縮退炉」を搭載し、「努力と根性」を理解している搭乗者が動かすべきだという思想が、設計には込められていたという事ですね。その象徴がブラックボックスになっていた人工頭脳の中に隠されていた本当のコクピット。
小黒 こじつけみつたいな話になっちゃうけど、トップレス能力がオタクのメタファーだとしたら、かつては努力と根性で動かしていたものが、オタク能力で動くようになったという事?
鶴巻 『トップをねらえ!』の中で言われている「努力と根性」は、あの時代のオタク力の事なんじゃないかな? 昔は、オタクだって努力と根性を必要としたんじゃないですか。インターネットがない時代に、オタク的な知識欲を満たそうとすれば、それには膨大な努力が必要だったし、根性も必要だった。当時は、楽しくて行動してただけだから、努力だなんて思ってなかったけど。
佐藤 アニメ様には身に詰まされる話だね。
小黒 え、なんで?
鶴巻 だって、昔からオタクやっている人にとっては、悔しい状況だと思うんだよね。
小黒 それはそうだけど、当時はメディアが少ないから、逆に情報収集が楽だった。チェックすべきポイントが少なかったから、その気になれば全ての情報をチェックできた。
佐藤 大阪のデパートで富野さんが3日間講演して、でも1日しか行けない……残りの2日間はどうやら言っていた事が違うらしい。そうしたらもう気になって気になってしょうがないんだけど、どうしようもないんだよね。
小黒 今だったら、ブログで誰かが書いたレポートを読めるかもしれない。
佐藤 そういったところが楽ちんだよね。まあ、それが悪い事だとは言わないけど。
鶴巻 そうやって楽にオタクやってると、「オタクの努力と根性」も変動重力源化しちゃうんじゃないの?
小黒 なるほど。こんな事、今さら訊いちゃいけない事かもしれないですが、どうして、最初に出ていたのが宇宙怪獣だと思ったら、バスター軍団だった、という構成になったんですか。
鶴巻 『フリクリ』の時に、「ナオ太のいたあの星が、実は火星でした」っていうネタをずーっとやりたかったんだけど、最終的には落としたんですよね。ビックリさせるだけでテーマにも物語にもさほど絡まないし。でも、僕個人はそういうのが好きなんですよね。見慣れている思っていたものが実は違っていたんだと分かった瞬間、「あーーーっ」ってなる感じ。
できれば、より大掛かりに、宇宙全体、世界全体を巻き込んでいる仕掛けみたいなものですね。「今いる世界は宇宙人によって支配されている鳥籠の中の世界であって」みたいな事は好きなんです。「夢オチ」でさえ大好きなくらいです。
そんな事を今回はぜひやってみようと思っていた。物語やテーマ性にも絡むかたちで最も効果的にやるにはどうすればいいだろうと。
それとは別に、『トップをねらえ2!』の敵は宇宙怪獣じゃないと嫌だっていうのと同時に、『トップをねらえ!』で宇宙怪獣はノリコたちが退治したという前提があるわけです。退治したはずなのに『トップをねらえ2!』の第1話で宇宙怪獣と戦っていたら、ノリコたちの行動は無意味になっちゃう。それははマズい、というのがあって。宇宙怪獣と戦わせた上で、戦っているのが宇宙怪獣ではないという状況は作れないかと考えた結果です。
小黒 変動重力源についてですが、『トップをねらえ!』の宇宙怪獣も変動重力源だという解釈なんですよね。
鶴巻 そうです。5話で名前を入れ替える事も考えたんです。5話以降は変動重力源の事を宇宙怪獣と呼ぶ事に戻して、宇宙怪獣の事はバスター軍団と呼ぶ事にするプランも考えたんですが、戻さないのもSFっぽくていいかと思ったんですね。同じものを全然別の呼び方しているっていうのも、面白いと思って、強行してみました。榎戸さんとも相談して、どうするのが視聴者が混乱しないのか悩んだ結果です。
小黒 バスター軍団だと分かっても、劇中では、宇宙怪獣と呼び続けていたという事ですね。変動重力源は『トップをねらえ!』の生き残りなんですね。
鶴巻 生き残りですね。今回、大掛かりな変動重力源は2体しか出てこない。タイタンにいたやつと、ブラックホールの中にいたやつ。タイタンに埋まっていた方は、火星沖会戦の生き残り、ブラックホールの中にいた方は、太陽系絶対防衛戦でブラックホールに吸い込まれたやつの生き残りという設定です。『トップをねらえ!』の最終話以降では宇宙怪獣は退治されたと考えています。
小黒 全滅したんですね。
鶴巻 実際はネクストジェネレーションでも宇宙怪獣は出てきたりするから、完全な全滅ではないでしょうけど。
小黒 『トップ2!』は1万2千年後の話ですよね? 正確には1万2千マイナス10年。
鶴巻 そうですね。
小黒 最後の「オカエリナサイ」で「イ」の字が逆になっていた理由はなんだったんですか。
鶴巻 それは知りません。
小黒 あの時代には「イ」の字が逆になっているという伏線が、どこかに引いてあるかと思った。
鶴巻 『トップをねらえ!』のエンディングで、地球の周りにリングがあって輝くんだけど、それがなんなのかは、榎戸さんが山賀さんから託されたという話は聞きました。それは壊れたドゥーズミーユのパーツだったという事なんだけど。「イ」が逆になった理由は、今回描かなかったんだけど、それは『トップをねらえ3!』で、誰かが描いてくれるのではないでしょうか(笑)。
小黒 カタカナが正しく残っていないくらい、文化が違うものになってしまったという意味ですよね。
鶴巻 『トップ2!』では、文字が判別できるかたちで画面に出てこない。そこは徹底してやってました。
小黒 なるほど。最終的に「オカエリナサイ」に至るわけだから、劇中で文字を出すわけにはいかないんですね。ちゃんとした「イ」がモニター上に出た瞬間にもうおしまいだから。
鶴巻 ですよね。そういう部分もちょっと苦しかったなあ。
佐藤 英語表記すら、無理だと思ったからね。
鶴巻 演出上、書類出したりとか、看板出したりとか、やりたいんだけど、それがまったくできなくなっちゃって。
佐藤 1話で酒のラベルが出てくるんだけど、上手く見えないようにちょっとハングルっぽいのを描いて、塗りつぶしたり。
小黒 今回アニメーターさん達はいかかがでしたか。
鶴巻 主力にガイナ生え抜きの、すしお、錦織、柴田(由香)を据えて……柴田は動画時代にガイナに来たんで純粋な生え抜きではないんだけど、彼らの代表作みたいなものになればいいなあと思っていた。
『トップ』にはわざわざダサくというか、古い手法で描くというのがあるじゃないですか。デザインにしても、動かし方にしても、そういう部分が『トップ』らしさのひとつである事は分かっているんだけれど、今どき、そんな事を言っても「そんな格好悪いのは嫌だ」で一蹴されちゃうだけなんです。彼らの持っている得意なものを引き出すのは可能だろうし、それによって最大限の力を発揮するだろうけど、持っていないものや、不得手な事で勝負しようとするのは得策じゃないとは考えていました。
小黒 作画に関して、抑制が利いていて、キャラクターの作画に関してもハッチャケ系ではない。かなり丁寧でしたよね。
鶴巻 そこら辺は『トップ』になるために頑張ってもらった。でもね、第1話は予想より相当ハッチャケていて、それで第2話以降、もっと落ち着けなきゃいけないというのはありましたね。
小黒 第1話がハッチャケているというのは、過程が? 仕上がったものが?
鶴巻 1話制作途中ですでに、キャラの表情や芝居についてもっと落ち着けようと、あわてて指示してましたね。第2話以降ではもう少し細かく指示を出しています。
小黒 フィルムとして、キッチリしたものを作りたいという意識は強いんですか。
鶴巻 他の監督達に比べたら、僕は圧倒的に薄いと思いますけど、そういう僕でさえ、『フリクリ』よりはキッチリしようという意識があった、という事ですね。
小黒 今石さんが参加していても、どこをやっているのか分からないくらいでしたものね。1話は分かるけど。
鶴巻 今石君にも「これは『トップ』だから」とだいぶ釘を刺しておいたし、すしおにも、1話からずっと「『トップ』はもっとこうなんだ」と、言い続けていた。6話でようやくかたちになったかなあという感はありますね。いいアニメーターを育てようとするなら、好きな事を好きなようにやらせた方が伸びると思っている。だから、ガイナックスではアニメーターにあまり規制をかけず、やり方やスタイルを強制しないように育てているつもりです。結果、優秀なアニメーターが何人も育っている一方で、こういうスタイルを限定したい作品になると苦しいというのはあります。今ガイナックスで『王立』や『エヴァ』を作るとすると、もっと苦しい事になるだろうと思いますね。昔は作品に合わせて、スタイルを変える事もアニメーターの楽しみのひとつではあったんですがね。
小黒 『うる星やつら』なら『うる星』なりの、『王立宇宙軍』なら『王立』なりの、その作品で望まれる作画をしていたという事ですね。
鶴巻 まあ、当時だって、それが実践できたのは一部の適応力に優れたアニメーターだけだったでしょうけど。
佐藤 自分の好きな方向性が決まってくると、それ以外の事にチャレンジしなくなるのかな? 描いた事のない絵柄に対しての挑戦を楽しんだりというのは、もっとあると思うのですけどね。
鶴巻 そうは言っても、実際、過去のガイナ作品と比べたって遜色のない出来になっているのは、さすがと思います。かわいかったり、動いていればそれで神、という低レベルな話ではなく、快感のある動き、艶のある表情がきちんと作られていた。そういうアニメーターは業界でもほんのひと握りしかいないんですから。
小黒 全体的な話になりますが、『トップ2』を作っていて、何が一番大変だったんですか。観ていると、SFをやって、ドラマもやって、オリジナリティも出しつつ、旧『トップ』ファンへのサービスまでやっていて、大変な事をやっているなあと思ってましたよ。そこまで誠実にならなくても、と思いながら観ていました。
鶴巻 ……まあ、そうかも。Mっ気みたいのもあるから(笑)。わざわざ苦しいところに立って、辛いんだけどそれがイイ、みたいに感じていたのかも。正直、僕が『トップをねらえ!』のファン過ぎたんだと思います。『トップ』のキャラや世界をぶち壊し台なしにしてでも、出し抜いてやろうと思ったり、「『トップ!』って実はノノが観ている劇中アニメだったんです」くらい図々しくできたら、楽しかったのかもなあと思うけど(笑)。足枷は全部自分自身でつけた枷なんです。自分で自分を縛り上げて「うがーっ、身動きとれないー」みたいな感じになって、1人で苦しんでいたっていう事はあったなあ(笑)。
佐藤 ひとりSM状態(笑)。
小黒 最終回を観て最初に思ったのは、次はもっと楽に作れるものをやってもらいたい(笑)。
鶴巻 次はもっと楽しく作りたいね、楽に作りたいとは思わないけど。それは、頑張ってくれたスタッフについてもそう思うんです。すしおや柴田は、彼らの好きな事、得意な事をやらせたら、もっともっとすばらしい作画ができるだろうに、今回「それは『トップをねらえ!』ではないから」って、制限かけた中でやってもらっているのが、ほんとうに心苦しかった。
小黒 当面、次回作は思案中ですか?
鶴巻 監督としてのは思案中ですね。監督以外の仕事は決まっていて、来年(2007年)一杯くらいかけてやります。
●関連サイト
『トップをねらえ2!』公式サイト
http://www.top2.jp/
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[DVD情報]
「トップをねらえ2!&トップをねらえ!合体劇場版!! BOX 」(初回限定生産)
BCBA-2786/カラー(一部モノクロ)/(予)345分(本編DISC1:約95分+本編DISC2:約95分+特典DISC1:約95分+特典DISC2:約60分)
価格:15540円(税込)
発売日:2007年1月26日
初回特典:特典ディスク1『トップをねらえ! 劇場版』上映版ディスク、特典ディスク2(キャストインタビューをはじめとした映像特典ディスク)、ノリコ&ノノ フィギュア、ブックレット、収納BOX
発売・販売元:バンダイビジュアル
[Amazon]
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[書籍情報]
トップをねらえ2! 画コンテ集 ガイナックス アニメーション原画集シリーズ (ムック)
A5版 888ページ
価格:3465円(税込)
発売中
出版社: ガイナックス
[Amazon]
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