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『時をかける少女』応援企画

初心者のためのホソダマモル入門・その2
『デジモンアドベンチャー』で泣け!

タライふゆ  

 どうも! 細田守親衛隊隊員、ふゆです。最近の私的なトピックスは……この1週間で『時をかける少女』公開がさらに近づいた事ですね。それから――そんなものですかね。有意義な人生です。
 今回は前回に引き続き、『デジモンアドベンチャー』の劇場版第1作と、TV版21話にスポットを当てて紹介していきます! これらはかなり個人的な思い入れが強いので、前回ほど冷静に語れないかもしれませんが、ご容赦ください!
 今回取り扱う2作では、いずれも「避けられない別れ」が描かれています。このテーマでの細田作品はもうホントに泣けます! 紹介する2作も自分はつい目頭が熱くなりまして……是非オススメしたい詩情に溢れた傑作なのです! もちろん、細田守を語るならばけして外してはなりません……おおっと、いきなり息巻いてしまいました。落ち着いて、と。では、まず劇場版第1作からお話しましょう。

 劇場版『デジモンアドベンチャー』は、TV版『デジモンアドベンチャー』のプロローグ的な位置づけ。TVアニメ本編より時間軸的には少し前の話で、幼い主人公である太一と妹ヒカリが、初めてデジタルモンスターに遭遇します。
 まず、大きなトピックスはなんといっても細田守劇場デビュー作である事! 映画監督としての細田守はここから始まったわけですから、本作なければ『時をかける少女』もなかったかもしれません。いや、そもそも映画監督、細田守も存在しなかった可能性だってありますね。記念すべき作品です。
 ただ、この映画、尺数が20分なんです。これはTVシリーズの1回分よりも短い。でも映画として成立するものにしたい――劇場1本目にして、かなり制限された条件だったと言えるのではないでしょうか。そんな中で、果たしてドラマを生み、作品として成立させることができるのか? ……といえば、成立させちゃったんですね、これが。

●面白さその1 大迫力の怪獣映画!
 とにかく、怪獣映画としての魅力がたっぷり! おっきなデジモンたちが大暴れで大興奮!
 ……と書くと、ただのバカみたいなので(バカかもしれませんが)、もう少し利口そうに書きますね。この作品が凡百の自称「怪獣映画」と大きく異なるのは、デジモンが主人公はもちろん、視聴者にとっても訳が分からない存在として描かれている事。これが秀逸! 細田演出の特徴である定点観測のごとき客観的なカメラワークが、デジモンの内面に踏み込む事を許しません。デジモンの巨大感や圧倒的な強さ。そして何より、異質なものとしての恐怖! さらに、第1回でもお話ししたカッチョいいレイアウトが、それを支えているのです。デジモンという異質なものが、しかし確かにそこに存在している、という感じ――実在感! 圧倒的な迫力にワクワクしてください!

●面白さその2 ラヴェルのボレロで盛り上がれ!
 みなさんは無人島に漂流したとして、ひとつだけ音楽を持っていけるとしたら、何にしますか? もし、この映画を見たならば、その候補としてラヴェルの「ボレロ」が挙がる事でしょう! それほど、本作で使われている「ボレロ」は印象に残ります。何より、本編で使われているBGMはこれ1曲というのがすごいのです。
 ボレロというと、繰り返すフレーズと、少しずつ盛り上がっていく旋律が特徴です。これが本作とぴったりマッチ! 変化しながら繰り返すフレーズは、デジモンの進化と変化に合わせて用いられ、まるでデジモンという存在そのものを音楽で表現しているようです。細田演出における特徴のひとつ「繰り返し」が音楽において効果的に使われている、とも言えるかもしれません。
 そして、ドラマが展開するとともに盛り上がっていく旋律。想像してみてください。デジモンとの好奇心たっぷりの出会いは、ボレロ冒頭の静かなピアニッシモ。そして、圧倒的な怪獣同士のクライマックスシーンで、あの迫力ある旋律がフォルテシモでガンガン流れる! これがもう、興奮を引き立ててくれるのですよ!! カッチョよすぎて、ボレロが大好きになること間違いなし! 細田のテーマとして毎日でも口ずさんでください!

●面白さその3 出会いの物語として切なくなれ!
 本作はデジモンと、太一との出会いの物語ともいえます。冒頭のモノローグ「あれは早すぎる出会いだった」と、ラストの台詞からもそれが窺い知れますが、この「出会いの衝撃と、そこで起こった太一の変化」がたった20分の本作を映画たらしめています。
 冒頭、出会ったデジモンとの接触に、少し年長の太一は不安げながらも惹かれますが、ヒカリはもっと単純に興味津々です。ところが、愛らしかったデジモンが進化していくにつれ、それは訳の分からないものへと変わっていく。興味は恐怖へ。そして、再度進化したデジモンとの最後の瞬間に、不安を抱いていたはずの太一は大きな転換を迎え、何かを感じとる……。しかし、すでにデジモンはそこにいないのです。
 全編にわたって引きぎみのカメラアングルと、台詞の極端な少なさから、本作は独特の情感漂う作品となっています。そして、「デジモンは消えてしまったけれど、太一はきっとデジタルワールドへ行くのだ」という予感を感じさせられる見事なラスト。私が泣いてしまうのは、この言いようのない悲しい別れと、希望ある出会いに対してです。
 ……って、さすがにこれはちょっと踏み込みすぎ? 切ない物語だと、個人的には思うんですけどねえ……。
 まだまだ言い足りないけど、次行ってみましょう!

 さて、負けず劣らず面白いのが、TV版21話「コロモン東京大激突!」です。
 細田守は『デジモンアドベンチャー』TVシリーズは、この21話にしか参加していません。スポット参戦、といってもいいでしょう。「太一がデジタルワールドから現実世界へと少しだけ帰還を果たし、なおかつ本編においてヒカリが初登場する」という非常に重要な話を担当しています。
 この21話は、初めて劇場版第1作とTV本編とが、はっきりと交錯するという意味でも重要な話です。出てくるキャラクターも、劇場版と同じく、太一とヒカリとコロモン。ボレロもやはり使用され、劇場版を想起させる作りになっています。
 と、実に色々な要素が詰まったエピソードなのですが、それが最終的に「避けられない別れの物語」という物語に収束していく点が素晴らしい。
 作風は『ウォーゲーム』とも、劇場版第1作とも違う、非常に幻想的なもの。レイアウトはやはり精緻ですが、これまで紹介してきた2作品に比べて、現実感のない白日夢のような感じが強く押し出されています。そもそも全体に白く飛んだような画面が印象的です。
 戻ってきたはずの現実が非現実的とは、大層な皮肉ですが、太一にとってはそこが地に足のつかない、でもけだるく落ち着ける平和な場所と映るようです。そこに現れるヒカリ……。
 そう! ここが重要! 本作の見所は圧倒的に太一の妹ヒカリです。このヒカリがTVアニメ史上類を見ない色っぽさ! これはすごい! 事件です!
 特に初登場シーンは必見です。そのしどけた感じがもう……どんな情事が始まるんだ!? って感じです。子供向け番組なんだから「情事」はないだろ、と呆れた方。いや……あるんですよ、情事! ジョウジ!
 もちろん、あからさまではありませんが、太一とコロモン、そして妹のヒカリとのやりとりは三角関係としか見えません。ヒカリは長年連れ添ってきた太一にとって、落ち着けるはずの、言うなれば本妻。一方、コロモンは若い愛人です。しかし、太一にとっては愛人の方が、現実感を伴っている、という生々しい状況が展開されます。
 ヒカリは、戻ってきた太一に、静かな懇願をします。本来あるはずだった普通を取り戻す、ただそれだけの事を願って。
 そのためにヒカリは、時にコロモンに、太一がおねしょをかばってくれた話をし(絆の深さをアピール)、スイカを全部あげる(から別れてね)と念を押し、さらには、コロモンもこの世界にとどまっていてもいいから(太一を連れて行かないで)と、表情を曇らせます。いや、カッコ内は私が勝手に考えた妄想ですが。しかし、そんな妄想を抱かせるものが、フィルムに込められている気がするのです。ぜひ実際に鑑賞して、ヒカリの静かながらも鬼気迫る「何か」を感じてください。
 そして、そういった前提があって描かれる、太一とヒカリとの避けられない別れ……。幻想的な世界観とも相まって、必見の名シーンです! ハンカチの用意は絶対忘れてはいけませんよ。

 上記2作のように、世界観、空気感までも作り出せる演出家は、なかなかいないのではないでしょうか。『時をかける少女』でも、独特の空気を匂わせてくれるに違いありません。楽しみですね!
 次回は、初期傑作にスポットを当ててみることにします! 細田守のルーツを探ってみましょう!

●初心者のためのホソダマモル入門・その3へ続く

●DVD情報
「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!/デジモンアドベンチャー」
DSTD02003/カラー/60分/片面1層/MPEG-2/ドルビーデジタル/16:9(レターボックス)
価格:4725円(税込み)
発売日:2001年1月21日
映像特典:細田守監督・関弘美プロデューサースペシャルインタビュー、メイキング、劇場予告・TVスポット
製作元:東映ビデオ株式会社
発売元:東映株式会社
[Amazon]

●関連サイト
『時をかける少女』公式サイト
http://www.kadokawa.co.jp/tokikake/

『時をかける少女』公式ブログ
http://www.kadokawa.co.jp/blog/tokikake/

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