細田守作品逆ロケハン戦記
第8回 静かなる家屋への訪問! 「屋内」での戦い

どうかんやまきかく

 大変恐縮だが、はじめに前回の内容を訂正させていただきたい。お気づきの読者も多いとは思うが、「筆者は恥を忍んで『逆ロケハンしてるからそこどいて!』と叫ぶ」つもりなど毛頭なかったのだ。それは筆者が小心者だから、ではなく、他所様に迷惑をかけないのが「逆ロケハン」の掟だからだ。観光客の皆さまの楽しいひとときを邪魔する行為は、この掟を破ることに他ならない。
 「他所様に迷惑をかけないのが『逆ロケハン』の掟」──こんなことを書くと「細田ファンふぜいが、何をそんなお上品なことを……」と顔をしかめる向きもあるかもしれない。確かに細田作品はお上品とは言えない。コロモンがウンコして、功介がちゃんとオナってきたかを確かめるのが細田作品だ。だが敢えて言おう、この掟は品の問題ではなく制約の問題であると。そう、1秒間は8コマ! 色数は120色! 動画枚数は3000枚! 制約があるからこそ独自の技法が発展した日本のアニメの歴史を本連載の読者なら知ってるはずだ。すなわち、この掟は「逆ロケハン」の独自の発展を促すため、携わる者が自らに課すべき制約なのだ……!
 か、どうかは筆者にはよく分からないが、この掟の存在を最も意識せざるをえないのは、これまでのような「野戦」ではなく他所様の家屋の中、つまり「屋内」での戦いであることだけは間違いない。今回はこの「屋内」での戦いを報告したい。
 まずは久しぶりに『時をかける少女』から。終盤、千昭が真琴にある重大な事実を告げるカット〔69:36〕を逆ロケハンしたのがSHOT 22である。場所は劇中にもいくつかその描写があるように東京国立博物館の本館だ。

SHOT 22

 なんと、黒い長椅子の位置も形も劇中カットと違うではないか! 実はあの長椅子はフレームの外に移動されていて、新しい長椅子が増えていたのだ。きっと館員さんが、もっと多くの人が休めるようにと気を利かせてくれたのだろう。「善意はときに仇になることもある、それも含めて善意なんだ」(『時をかける少女NOTEBOOK』)とはこのことだったんですね、監督! しかしながら劇中カットと可能な限り同じ構図にするには、あの長椅子をこっそり……否! 他所様に迷惑をかけないのが「逆ロケハン」の掟! ここで掟を破る者には「何度観にきてもあの絵は修復中」の刑に処せられるに違いない。
 次は『ぼくらのウォーゲーム!』から。本作は主人公が自宅から一歩も出ないという点でも屋内を語るにふさわしい。と言いつつ、SHOT 23はコンビニエンスストアの店内〔05:37〕である。

SHOT 23

 なんと、陳列されてる商品が劇中カットと違うではないか! いやそれは当然と言えば当然ではあるか。しかしながら劇中カットと可能な限り同じ構図にするには、商品全部ごっそり……否! 他所様に迷惑をかけないのが「逆ロケハン」の掟! ここで掟を破る者には「チョコレート1点で1,000,125円」の刑に処せられるに違いない。
 最後は『おジャ魔女どれみドッカ〜ン!』第40話「どれみと魔女をやめた魔女」から取り上げよう。今はフリーのアニメ演出家である細田守だが、もともとは東映アニメーションに所属していた。さらに東映からスタジオジブリに出向していた時期もあったのだ。2002年の11月に放映された本作は、出向から戻ってきた細田守が最初に手がけた渾身の一作である。主人公のどれみが偶然出逢った不思議な女性、未来さん。彼女は言葉で、そして彼女自身の生き方をもって、どれみに人生の選択を迫る。「未来さん! わたし来たよ! 未来さん!! わたし……!?」と、いった主人公が採った驚くべき選択は「逆ロケハン」にとってさしあたり重要ではない。重要なのは「少女」と「老女」と「女の人生」、それがテーマってやっぱり『ハウ……おっと! そうじゃなかった、背景美術だった。
 さて後半、吹きガラスに励むどれみとそれを見守る未来のシーン〔89:52〕を逆ロケハンしたものがSHOT 24だ。ただ劇中カットは写真よりずいぶんアッサリしている。それはもちろんTVシリーズでこの密度を描くには工数がちょっと厳しかったから、ではなく未来さんは「先週越してきたところだから」まだ年季が入ってないことを演出したかったに違いない。

SHOT 24

 ところで、本作で屋内と言えばもうひとつ印象的なシーンがあった。たくさんのステッカーが貼りつけられたスーツケースに、和室に立てかけられたチェロ、そして乱雑に置かれた女物の靴とその空箱……未来の家の中を写すシーンである。
 かつて他人の部屋の映像からその部屋の主人を推理するというバラエティ番組があった。これが成立するのは、個人の部屋が主人という人間そのものを表しているからだ。そこに置いてある物はあなたの職業が、あるいはあなたの趣味がそこに置かせているはずだ。よく整理された物も、雑然と散らかった物も、あなたの性格がそうさせているはずだ。未来の家の中にあった物も、彼女の抱える何かが、そこにそう置かせているはずなのだ……!
 と、いった具合に演出家はキャラクターを表現しようとしているらしいぞ。きっと他人の部屋を観察しては、いちいち主人の職業や趣味、性格と照らしあわせているに違いない。そう、ここで掟を破る者には「演出家に自分の部屋を観察されて、いちいち職業や趣味、性格と照らしあわされ、引き出しのひとつにストックされる」の刑に処せられるに違いない。

第9回へつづく

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(09.08.24)