第210回 池田憲章さん
この連載では、基本的に敬称を略しているのだけど、今回は「さんづけ」にする。そうでないと居心地が悪い。池田憲章さんは、特撮やアニメの世界で活躍しているライターだ。「第143回 僕のアニメ史(番外編6)」で「(自分が)大学生の頃、ライターとしての大先輩である池田さんに、何度か話をうかがった」と書いた。どうしてそういった事になったかというと、僕の母親と、池田さんのお母様が知り合いだったのだ。僕が住んでいたのは埼玉県の所沢で、池田さんのご実家も所沢。歩いていける距離だった。多分、母親が、アニメばかり観ている息子の事を心配し、何か役に立つかもしれないと考えて、アニメや特撮を仕事にしている人を紹介してくれたのだろう。記憶をたぐってみると、それは1984年の事だったようだ。
その前後に、僕の友達が、池田さんをストーキングするという事件があった。友達が電車の中で、アニメ雑誌の最新号を読んでいる池田さんを発見。「あれは池田憲章ではないか?」と思った彼は、そのまま池田さんの後をつけていった。駅を降りて、どこかの編集部に入ろうとしたところで、そこで友達は、つけていた相手が本物の池田憲章である事を確信して、「池田憲章さんですね」と声をかけた。池田さんも驚かれただろうなあ。本当に本人をつけていったのはやり過ぎだったけれど、当時の僕達(アニメ・特撮も好きで、その雑誌も好きな連中)にとって、池田さんは仕事を追いかけたくなるような相手だった。ちなみにその友達も、後にアニメ雑誌のライターになっている。
「ファンタスティックコレクション」等のムックの仕事も目にしていたが、僕にとって印象的なのは「アニメック」の連載「日本特撮映画史 SFヒーロー列伝」、「アニメージュ」の連載「池田憲章のいいシーン見つけた!!」だった。「SFヒーロー列伝」は過去の国産特撮ヒーロー番組を取り上げ、「いいシーン見つけた!!」は現行のTVアニメの中から各エピソードを取り上げていた。作品のよいところをすくい上げて、その素晴らしさについて書いていた。その文章は情熱が迸っており、パワーがあった。池田さんの文章には「そんなに素晴らしい作品なら観てみたい」と思わせる力があった。
これは当時のファンではないと、ピンとこない話かもしれないが、池田さんの原稿はアニメや特撮作品に対するラブレターであり、同時にそのファンに対する応援歌にもなっていた。極端な例になってしまうが「俺はいい歳をして、子供向きのアニメとか特撮を観ていてバカなんじゃないか」と思っているファンに対して、「君が好きな作品は、子供騙しなんかじゃない。こんなに素晴らしいものなんだ!」と言って肯定してくれる。そんなところがあった。それが池田さんの仕事の素晴らしいところだったと思う。
池田さんの仕事の問題点は——と書くと偉そうだけれど——原稿に力があり過ぎるという事だった。作品そのものよりも、池田さんのその作品を取り上げて書いた原稿の方が面白い、という事が何度もあったのだ。地方の友達に「キカイダー01」のビデオを観せてもらった事があった。ビジンダーとワルダーといったキャラクターが絡んでいるあたりを観て「くだらねー」なんて言って笑っていたのだが、そのすぐ後で、池田さんが「SFヒーロー列伝」で「キカイダー01」を取り上げた。その原稿には、いつもの池田節で「これは素晴らしい人間ドラマ!」などと書かかれていた(手元に「アニメック」がないので、記憶で書いている。実際にはその表現は使ってないかもしれない)。僕は、その記事を読んで「俺はあの作品のよさを分かっていなかったのか」と反省して、慌てて「キカイダー01」のビデオを観直してしまった。観直したら「SFヒーロー列伝」を読む前よりも立派な作品のような気がしたのだった。そのくらい池田さんの原稿には力があった。
話を戻すと、大学1年の僕は、母親に紹介してもらって、ご自宅に行って、池田さんに話をうかがった。池田さんは、放映中の作品や過去の作品について、色々と話してくれた。印象に残っているのは、『聖戦士ダンバイン』の「ハイパー・ジェリル」についての話と、「宇宙刑事シャリバン」のベル・ヘレンが死ぬ回についての話だった。池田さんの生トークは熱かった。原稿以上に迫力があり、圧倒された。今までの人生でアニメや特撮について、誰かがあそこまで熱く語っているのを観た事ないかもしれない。今でも「ハイパー・ジェリル」や「シャリバン」を観ると、耳元に池田さんの声が聞こえてくるような気がするくらいだ。
その時、僕はまだアニメ雑誌では仕事をしていなかったが、今思うと、その体験がアニメ雑誌ライターの入り口になっていたような気がする。
第211回へつづく
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(09.09.14)