アニメ様365日[小黒祐一郎]

第240回 『宮澤賢治 銀河鉄道の夜』もう少しだけ

 前回(第239回 杉井ギサブローと『宮澤賢治 銀河鉄道の夜』)で触れた、杉井ギサブロー監督の監督としての個性についても、前々回(第238回 『宮澤賢治 銀河鉄道の夜』)で引用した「この人に話を聞きたい」で、本人にうかがっている。興味がある方は、バックナンバーをチェックするのもいいかもしれない。
 『宮澤賢治 銀河鉄道の夜』について、もう少しだけ続ける。僕がこの作品について書いたのは、今回の一連の原稿が初めてで、書いてみて、自分がこの作品に思い入れがある事が分かった。この思い入れは『宇宙戦艦ヤマト』『機動戦士ガンダム』に対するものとは、ずいぶん違う。
 前々回に触れたように、自分にとって『宮澤賢治 銀河鉄道の夜』は、今ひとつ分からない作品だった。凄い作品である事は分かったけれど、どう凄いのかを自分の中で整理がつかず、モヤモヤしていた。前回の原稿を書いた後で思いついたのだけれど、僕はこの作品に凄味を感じたのだと思う。作り手の真剣さに凄味を感じた。凄味まで感じたのに、どういった作品なのかを言葉にできなかった。だから、モヤモヤしていた。
 それから、これは半分は僕の妄想かもしれないが、この作品は大きなところを相手にしている。アニメファンだけ、その当時の一般的な観客だけを相手にしているわけではない。10年後、100年後の観客も同じように鑑賞できる。海外のどんな国に持っていっても通用する。作り手は、そういった普遍的な作品を狙って作り、達成している。それはロードショーで初めて観た時に理解できた。「自分達が映画という媒体でできる最大限の事をしてみよう」。そのくらいの意識が、作り手にはあったのかもしれない。
 シンプルな内容のものなら、普遍的な映画を作るのはたやすいかもしれないが、『宮澤賢治 銀河鉄道の夜』が描こうとしたものは複雑なものだ。作り手が伝えたいものは難しい内容であったのだけれど、それが誰にでも伝わるように作れている。勿論、僕がそうだったように、観客は自分が受け取ったものが何だか分からない場合も多かったのだろうけれど、確実に何かが伝わる映画だったと思う。
 今振り返ると、なおさら、凄いと思う。

第241回へつづく

銀河鉄道の夜

カラー/107分/片面2層/スクイーズ
価格/4935円(税込)
発売元/朝日新聞社(総販売元:アスミック)
販売元/角川エンタテインメント
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(09.10.30)