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COLUMN
アニメ様の七転八倒[小黒祐一郎]

第72回 「この人に話を聞きたい」打ち明け話(1)

 皆さん、もう「この人に話を聞きたい」単行本は手にとっていただけただろうか。僕にとっては、これが初の本格的著作となる。編集した本は沢山あるけれど、著書は初めてなのだ。この単行本では「アニメージュ」の同名インタビュー連載の第1回から第30回の内容を再録した。自分で言うのもなんだけど、結構読み応えのある本になっていると思う。
 今日から数回に分けて、「この人に話を聞きたい」単行本の記事についての思い出をお話しする事にする。

第1回 南雅彦
 第1回に登場してもらったのは、プロデューサーの南さん。彼は、当時すでに『カウボーイビバップ』や『機動武闘伝Gガンダム』等、意欲的な作品を発表していた。第1回に出てもらったのは、彼がサンライズから独立して新しいスタジオを設立するという話を聞いたからだ。ただ、まだ時期が早いという事で、独立そのものの話題は記事にしなかった。テープを止めた後で、南さんが「新しい会社の名前をどうするのか考えているんだ」と話していたのを覚えている。その後に南さんが株式会社BONESを設立し、『機巧奇傅ヒヲウ戦記』『鋼の錬金術師』『交響詩篇エウレカセブン』等を手がけたのは皆さん、ご存知の通り。
 連載が始まってしばらくしてから、知人に「第1回に南さんを取り上げたのが、この連載の方向性を決めましたね」と言われた。監督やキャラクターデザインではなく、取り上げられる機会の少ないプロデューサーを最初に取り上げたのが、この後、色々な人を取り上げる事になるこの連載らしいという意味だ。僕自身は、後の事までは考えていなかったが、最初から、南さんが1回目に相応しいだろうとは思っていた。

第2回 ワタナベシンイチ
 ナベシンさんとは、この時が初対面。アフロヘアーに真っ赤なジャケット、青のシャツという、あまりに派手な出で立ちに驚いた。顔を合わせた途端に「すいません。この連載は写真が白黒なんですよ」と謝ったら、ナベシンさんは「じゃあ、帰ります」とそのまま、僕らに背を向けて帰る素振り。勿論、それも冗談。ノリのいい人だ。ま、それはそれにして、この回の写真はカラーでお見せしたかった。ちなみに、取材場所にアンナミラーズを指定したのもナベシンさんだった(笑)。
 「この人に話を聞きたい」は、いつも1万2千文字前後で本文の原稿をまとめているのだが、この回は、普段より2千文字ほど多い。だから、歴代の記事で一番本文が長いのがこの回だ。連載が始まったばかりで、まだ色々と試しながらやっていたのだ。
 
第3回 桜井弘明
 僕は『赤ずきんチャチャ』で活躍していた大地丙太郎、桜井弘明、佐藤竜雄の3人に注目していたのだけど、『チャチャ』放送中は雑誌で記事を担当する機会がなく、いつかこの3人を取り上げたいという野望を持っていた。大地さんの取材は「MEGU」ですでにやっていたので、この桜井さんの取材は野望達成に向けての第2段階となる。
 当時、桜井さんは、劇場版『アキハバラ電脳組 2011年の夏休み』の絵コンテを執筆中。僕は『2011年の夏休み』では広報の仕事をしており、その前のTV『少女革命ウテナ』でも、桜井さんとご一緒させてもらっていた。第10回の大月俊倫さんの回で「この連載で初めて、僕が直接、仕事をしている人に話を聞きに来ました」と言ってるけれど、よく考えたら、桜井さんの方が先だった。間違ってました。ごめんなさい。メインの写真では、当時の桜井さんのトレードマークだったウクレレを持ってもらった。

第4回 湯浅政明
 第4回にして、早くも湯浅さんの登場。彼はまだ短編の監督作品も発表していない時期で、一応、「アニメージュ」編集部に「いいですか?」と相談してから、アポをとった。「この人に話を聞きたい」が何年も続くとは思っていなかったので、気になる人は早めに取材をしておこうと思ったのだ。『THE八犬伝[新章]』4話の話を細かく聞いたり、うつのみやさとるさんからの影響を確認したりと、相当にマニアックな内容となった。
 この連載での取材が初めてのインタビューであった人は何人かいるはずだが、湯浅さんもその1人だ。後に『MIND GAME』の宣伝や関連記事で、湯浅さんは「天才」がキャッチフレーズとなっていた。彼が天才と呼ばれるようになったのは、初のインタビューだったこの記事がきっかけなのだそうだ。
 記事の最後で「なんかオリジナルのアニメとか、僕にやらしてみようっていう人はいないのかな」と湯浅さんは言っているけれど、まさか、彼の初のオリジナル作品である『ケモノヅメ』を自分で手伝う事になるとは、この時には思わなかった。

第5回 諏訪道彦
 記事中でも話題にしたけれど、特番で紹介された諏訪さんの部屋、イラスト入りのカバンを見てから、一度諏訪さんに話を聞きたいと思っていた。お話をうかがうと、諏訪さんの作品への入れ込みは予想以上のもので、僕はこの取材で局プロデューサーへの印象が変わったなあ。
 『名探偵コナン』について、番組フォーマットの作り込みについて細かく聞いたり、「アバンの前のバージョンで『あなたと一緒でホントによかった』っていうセリフがありましたよね。あれはどういう意味なんですか」とか「高木さんがやってる高木刑事は、どうして高木って名前なんですか」とか、作品の細かい部分について質問しているのが、我ながら可笑しい。それだけ『名探偵コナン』はイケてる作品だったし、僕は注目していたのだ。この時に聞けなかった事は、7年後、第91回のこだま兼嗣さんの回で聞いている。
 実は「この人に話を聞きたい」の歴史の中で、取材と撮影にかけた時間が一番短かかったのが、この取材だった。お忙しい中、時間をとってもらったのだ。取材時間は短かったけれど、話は密度的には問題なかった。写真はもっと時間をかけたかった。

■第73回 「この人に話を聞きたい」打ち明け話(2) に続く
 

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(06.10.20)

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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