細田守作品逆ロケハン戦記
第4回 青空に描く航跡! 「飛行機」との戦い
どうかんやまきかく
第2回、第3回と劇場版『デジモンアドベンチャー』逆ロケハンの戦いを報告してきたが、今回から戦場を光が丘からお台場に移したい。今回取り上げるのは『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』、細田守が手がけたもうひとつのデジモン映画である。劇場公開は2000年春の東映アニメフェア。TVシリーズでの冒険も終わり、それぞれの春休みを過ごしていた太一たち。ところがネットに新種のデジモンが現れる。ヤツのイタズラはどんどんエスカレート。しまいには核ミサイルが発射されてしまう。迫るタイムリミット! だがヤツの力は圧倒的だ! 太一たちになす術はないのか!? そこに奇跡が起きる……!!
と、いった世界中の子どもたちの思いが生んだあの奇跡は「逆ロケハン」にとってさしあたり重要ではない。重要なのは前作とは打って変わってエンターテインメントに徹したハリウッド的サスペンス、ではなく背景美術である。
さて、今回のテーマは「飛行機」である。細田守作品ではたびたび登場し、20度とも30度ともつかぬあの絶妙な角度でさり気なく画面を横切っては白くまっすぐな航跡を残してゆく、奥ゆかしくも印象的な名脇役と呼ぶにふさわしい存在だ。
それではSHOT 10から見ていこう。これは冒頭のシーンからの逆ロケハン写真である。よく晴れた日の平和な団地の光景、にそぐわない様子でうつむいた少女、空が歩いているところ〔00:28〕だ。
SHOT 10
なお、劇中では青空に飛行機雲が伸びていくが、それを逆ロケハンするのは無理だった。
SHOT 11も冒頭のシーンから。自室でパソコンを操作する光子郎、の前のカット〔01:41〕である。
SHOT 11
なお、劇中では青空に飛行機雲が伸びていくが、それを逆ロケハンするのも無理だった。
SHOT 12は中盤、太一が災害用伝言ダイヤルセンターに伝言を入れるシーン〔18:29〕から。
SHOT 12
なお、劇中では青空に飛行機が飛んでいくが、それを逆ロケハンするのも無理だった。
以上、3戦3敗。では次回をお楽しみに。
……いや、筆者とてカメラを構えた瞬間には「もしかして偶然飛行機が通らないかな」とかちょっぴり期待しないこともなかった。それで少し待ってもみたりしたが、炎天下のこと、すぐに諦めざるを得なかった。そもそも何もない中空を必死の形相でじーっと見つめ続けるのはなんだかとってもアレなので、小心者の筆者は周囲からの視線に耐え切れなくなっちゃうのである。
何やら今回は言い訳がましい内容となってしまった。そう、何を隠そう筆者は言い訳をしているのである。正直、この勝負は戦う前から負けが分かっていたようなものだ。あきらかに劇中は飛行機が飛び過ぎなのである。どう見たって演出家が勝手に飛行機を飛ばしている。本作を一度見れば、お台場に行かずともそれは分かるだろう。どこにでもある自動車とは訳が違うのだ。
それでもお台場で逆ロケハンをしてみて分かったこともあった。確かにそう都合よく飛行機は飛んでくれない。でも飛行機がよく飛んでいるのは事実なのである。お台場は羽田空港に近い。離着陸前後の低空を飛ぶ飛行機がよく目につくのである。
アニメスタイルイベントでの細田守の言によれば、当初核ミサイルは発射されない展開だったという。なぜ発射されることになったかは知る由もないが、晴れたお台場という日常を象徴する飛行機雲と、世界の危機という非日常を象徴する核ミサイルとで織り成される相似と対比の面白さが、結果として本作のエンターテインメント性に一役買うことになった。そしてその由縁は、現実のお台場にあるのではないだろうか。ロケハンとは、必ずしも風景だけをハントすることではないのだろう。
第5回へつづく
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