細田守作品逆ロケハン戦記
第6回 勝利を導くランドマーク! 「商店」との戦い
どうかんやまきかく
ゆりかもめのすばらしさは前回だけではとても語り尽くせない。前回触れることができなかったゆりかもめのすばらしさ、それは撮影地点を探すときの有力な手がかりになるということだ。たとえばSHOT 16を見てほしい。
SHOT 16
これは「コロモン東京大激突!」の冒頭、ここがお台場であることを太一が確認するカット〔49:58〕だ。ここはその直前のカットで明記されているとおり、都営バスの「お台場海浜公園駅前」停留所である。これを手がかかりにすると、ここがゆりかもめ「お台場海浜公園」駅直近のバス亭だとアッという間に分かってしまう。なんてすばらしいゆりかもめ!
ところでSHOT 16の写真をよく見ると、もうひとつ手がかりがあったことに気づくだろう。写真左上、某スーパーマーケットの旧ロゴだ。劇中では微妙に形が変わっているため、このカットに限って言えば手がかりにするのは難しいかもしれない。だが、こうした商店の意匠は逆ロケハンの戦いにおいて有力な武器になったのだ。今回のテーマは「商店」。今回は趣向を少し変えて、撮影地点を探すまでの戦いを報告したい。
まずは同じく「コロモン東京大激突!」から。SHOT 17は、地中から現われたドリモゲモンを見て、あわてた太一たちがたどり着いた交差点のカット〔62:54〕である。
SHOT 17
左奥にパレットタウンの大観覧車が見えるが、大観覧車まではそれなりに距離があるのでお台場のどこから見ても同じように見えてしまう。撮影地点の手がかりとしては今ひとつだ。そこで手がかりになったのが右のコンビニである。劇中のカラーリングは現実の某コンビニチェーンとよく似ている。そしてそのチェーンのコンビニはお台場に1店しかない。ゆえに撮影地点はアッという間に分かってしまう。
素晴らしき哉、商店! カーナビでも大活躍する現代日本のランドマーク! 劇中カットに商店さえ入っていれば楽勝だ! とか思ったあなたはまだ青い! 「お台場に1店しかない」と書いたように地域をある程度限定する必要があるのだ。『ぼくらのウォーゲーム!』では劇中で「島根」としか呼ばれていない地域の電器店が登場する。ところが東京都港区台場の面積が約0.6km2なのに対し、島根県の面積は約6,700km2だ。「どうやってその一店を見つけんだよっ!」「それは……1店ずつ回っていくしか……」「そんなことしてたら、日がくれちまう!!」
そんな折、当時の筆者は書店で珍妙なアニメ雑誌を見かけた。何が珍妙かと言うと表紙に「細田守」の名前があったのだ。いや、今となっては珍妙でもなんでもないのかもしれないが2000年当時はとても珍しい、というかおそらく唯一だったのだ。内容はまさに『ぼくらのウォーゲーム!』に関する監督へのインタビュー記事。しかも島根について「ロケハンした三刀屋町や木次町には」と語っていた。三刀屋町……! そして木次町!! これで日がくれちまうことなくあの電器店にたどりつけるのではないか……!?
こうして島根での戦いの幕は切って落とされた。夜行バスを降りて最初にしたのは公衆電話を探すことだった。それはもちろんヤマトたちに連絡をとるため、ではなく公衆電話に据え置きされている地元版のタウンページで劇中と同じ名前の電器店を探すためだ。なにせネットはあっても「ググる」なんて言葉はなかった時代の話だ。そんなこんなでアッという間ではなかったが撮影地点にたどりつき、収めた写真がSHOT 18である。劇中とはひさしの色などが異なるが、まごうことなきあの電器店〔21:31〕だ。
SHOT 18
余談だが、もしあの珍妙な雑誌がなければ、ここまでたどりつくことはできなかったわけだ。この雑誌の編集部には感謝せねばなるまい。ちなみにその雑誌の表紙には「第2号」とも書いてあったのだが、第3号は9年経った今でも出てないそうだ。これもまた珍妙な話である。
第7回へつづく
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