細田守作品逆ロケハン戦記
第5回 新交通システム! 「ゆりかもめ」との戦い
どうかんやまきかく
連載も5回目を迎えたが、細田守作品「逆ロケハン」の戦いはまだまだ終わらない。今回の戦場もお台場だ。『ぼくらのウォーゲーム!』と同じくここを舞台にしているのが、TVシリーズ『デジモンアドベンチャー』全54話で唯一の細田守演出作、第21話「コロモン東京大激突!」である。異世界・デジタルワールドでの冒険のさなか、突如現実世界に戻ってきてしまった太一とコロモン。しかし、それはつかの間の休息に過ぎなかった。妹をひとり残し、再び旅立つ決意をする太一。一歩踏み出したそのとき、妹の両手が兄の右腕を掴む。「……必ず……戻る」「!」
といった運命に翻弄される兄妹のドラマは「逆ロケハン」にとってさしあたり重要ではない。重要なのはただの兄妹以上の何かを匂わせる妹の態度、ではなく背景美術である。
さて、前回とりあげた飛行機のほかにも、劇中のお台場にはいろいろなものが登場する。そう、勘のいいあなたはもうお分かりだろう。自動車に飛行機ときたら、次はもうアレしかない。そう、列車だ! お台場といえば「ゆりかもめ」。
モノレールとはちょっと違うこの「新交通システム」は、お台場をはじめとする臨海地区を訪れる人の多くが利用する交通機関だ。盆や暮れに乗ったことのある読者も多いに違いない。
そんなゆりかもめだが、自動車や飛行機と比べると環境ばかりか逆ロケハンにもやさしい乗り物だ。なにしろ列車は定時運行だ。走る時間も場所も決まっている。ではまずSHOT 13を見てみよう。劇中では、太一が自宅に戻る途中の一連のカットのひとつ〔50:28〕だ。止まっていた列車が発車する様子がロングショットで描かれ、まさに太一が戻ってきた「現実の」「日常的な」光景と言えよう。列車が駅に停車するのを待って、パチリと撮影したのがこの写真だ。
SHOT 13
いつやってくるか分からない自動車や飛行機を待ち続ける必要はない。なんてすばらしいゆりかもめ! しかし、そんな定時運行が身上の列車だからこそ、一度ダイヤが乱れると『ぼくらのウォーゲーム!』の丈センパイ〔02:48〕のように大慌てになるわけだ。
SHOT 14
ちなみにSHOT 14の劇中カットをよく見ると、車体に大きく「08」と書かれている。これは、現在28編成ある列車のうち、第8編成という意味だ。そう、筆者は当然のように第8編成が来るのを待って撮影したのである。確かに、いつどこを第8編成が走るかは、ゆりかもめの運行情報を入手しなければわからないから、待つしかない。だが第8編成が故障でもしてない限り、最悪でも全線を往復する時間だけ待っていれば来るのは間違いない。自動車や飛行機とは違うのだ。なんてすばらしいゆりかもめ!
最後に取り上げるのも『ぼくらのウォーゲーム!』から。太一が171に伝言を入れる一連のカットのひとつ〔18:18〕を逆ロケハンしたのがSHOT 15だ。ゆりかもめ駅構内の電光掲示板である。
SHOT 15
当然、これも劇中と同じ午前11時25分頃を狙って撮影した。ほら見ろ、見事に時計の針まで劇中そっくりだ! 当然、表示されている列車の出発時刻も劇中そのまんま……じゃない! なぜだ! 劇中にある11時28分発新橋ゆきは実在しなかった。しかし、これ以上どうしろと言うのだ。ダイヤは筆者がどう頑張っても劇中と同じにはできないではないか。列車は定時運行だ。決められたとおりに走るものなのだ。自動車や飛行機とは違うのだ。筆者はいさぎよく諦めることができた。なんてすばらしいゆりかもめ!
このように、列車は逆ロケハンをしてみると「現実」と「劇中」との差異が非常に明確な対象である。列車は、決められた場所を決められたとおりに走る乗り物だ。とても厳密に「現実」が定められているのである。光が丘では自動車が「現実」を描く道具だった。しかし『ぼくらのウォーゲーム!』では、新種デジモンによって「おかしくなった現実」を描くために、列車を暴走させたわけだ。「現実」が厳密に定められてるからこそ、その異常が際立つ。自動車が暴走しても、さほど印象的ではなかったに違いない。
第6回へつづく
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