animator interview
橋本敬史(3)代表作になるはずだった『YAMATO 2520』

小黒 例えば映画の『SILENT MOBIUS(THE MOTION PICTURE)』2作などで、ここだというシーンはあります?
橋本 1作目は冒頭ですね。カット1から20カットぐらいやったんですかね。バーンと撃たれて、爆縮するところとか。『2』は作監で、原画はやってなかったような気がする。
小黒 あ、そうなんですか。立ち位置としては、やっぱりメカ作監なんですか。
橋本 そうですね。中村プロを辞めてAICに来た村木靖君が、やっぱりメカが得意だったんですよ。だからメカ主体のところ──例えばスピナーとかは彼がやってくれて、私はどちらかというとモンスターとエフェクトのほうを。当時、ファンタジアで『MADARA』をやっていたりしたので。
小黒 モンスターって、わりとニョロニョロ動く感じの。
橋本 そうそう、そうです。
小黒 ああいうのって、なんか橋本さんのイメージじゃないんですけど……。
橋本 そうですか?
小黒 グニャグニャしたものも得意なんですか。
橋本 得意でした。グニャグニャ、好きでしたねえ。
小黒 ああ、もう「好き」なんですね。あれって後半ずっとグニャグニャしてますよね。
橋本 してますねえ。そういうのが好きでした。『MADARA』の作監をやってた時、ちょうど大平君が『(THE)八犬伝』をやっていて。ちょっと特殊な体液とか、血の描き方をしてたじゃないですか。
小黒 どろりとした感じの。
橋本 そうそう。それがちょっと業界的なブームになってる感じだったので、そういう血の描き方とかをエフェクティブな方向でやってみたいと思って。順序は逆なんですけど、そのエフェクトを描くためにモンスターがついてくるみたいな感じで。
小黒 当時はそういう大平さんチックな、ああいうヌルッとした感じのものを描きたかった?
橋本 そうですね。
小黒 『MADARA』でもそうなんですか?
橋本 ええ。『MADARA』を見ると、もう大平君リスペクトな血がいっぱい出てきます(笑)。
小黒 主に「血」なんですね。
橋本 血とか体液とか、動かし方も真似していたような。『八犬伝』の原画もいっぱいコピーしましたね(笑)。それを見ながら描いていたような記憶があります。
小黒 橋本さんは、うつのみや理さんの影響はないんですか。
橋本 うーん……どちらかというと、うつのみやさんの影響を受けていた田中タッちゃん(達之)とか、戸倉さんとか、そっちからの影響はあるのかもしれない。というのは、当時やっぱり晋治君があまりにも突き抜けちゃってたじゃないですか。うつのみやさんよりもっと凄い画を描いていた。青で色トレスして、黄色で塗るというような事を、同じような画で同じような筆圧でやってるんだけど、晋治君はあまりにイッちゃってた。それを見て、「これはこのまま行くと、もしかして危険ゾーンじゃないのかな」と思ってですね(笑)。ただ、業界全般にプラプラブームがありましたよね。それは私も例に漏れずプラプラしてたような気がします。
小黒 えーと、すいません。ちゃんと言葉で聞いたのは初めてなんですけど、あれは「プラプラブーム」だったんですか。キャラクターが立ち上がったりする時、手から腕にかけて、力が入ってないようにこう揺れる……
橋本 そうそう。手が揺れるやつです。で、倒れると手が3回くらい地面にリバウンドする、みたいな。そういうのが業界全体のブームだったじゃないですか(笑)。大平君の『(夢枕獏 とわいらいと劇場)骨董屋』も凄かったでしょう。プラプラプラプラ。
小黒 倒れた時のドンドンドン、っていう手ですよね。
橋本 そうそう。
小黒 あの頃『らんま1/2』でもゆらゆらしてましたよね。『スケバン刑事』とか相当なもんでしたよ。
橋本 ああ、そうですね。『スケバン』と『らんま』は、ちょうど自分達で「画房雅」というスタジオを作った頃なんですけど。その時、雅の高橋しんやさんの友達で、小林正之さんという方がいて。もうアニメーターは辞められたみたいなんですけど、その人がとにかく流れた画を描く人だったんですよ。
小黒 というと?
橋本 例えば『スケバン刑事』だと、フレームに肩からインするのは分かるんだけど、鼻インとか耳インとか。あれは松本(憲生)さんよりも凄まじい、なんというか、人間液状化現象とでも言おうか(笑)。『らんま』もやられてましたけど。松本さんも『らんま』描かれてましたっけ。
小黒 松本さんは、TVシリーズ前半と劇場版に参加していますね。
橋本 じゃあ多分、小林さんと松本さんって、同時期に同じスタジオで、同じようなアクションシーンをやってたんだと思いますね。
小黒 なるほど。そういうプラプラブームがあり、その後は『ジャイアントロボ(THE ANIMATION 地球が静止する日)』とかに入っていくわけですか。
橋本 そうですね。ちょうど雅を作って──当時、アニメーターが自分達のスタジオを作るのが流行っていたというか、多かったんですよね。自分の周りだと、うるし原(智志)君とよしもときんじ君の(オフィス・)アースワークという会社があって、馬越軍団の馬場(充子)さんとか、阿部邦博君、桜美かつし君がいたりして。そこと対角線上に(スタジオ)ゑびすというスタジオもあって、実は両方とも誘われてたりしてたんですけど、お金がなかったりして無理だったんですよ。その後、先ほど言った『SILENT MOBIUS』のために上京してきた柳沢君、小森君、AICにいた外丸(達也)君なんかと一緒に、自分達もスタジオを作ろうと。で、ようやく会社に仕事がグロスで入ったりとかするようになった時、『ジャイアントロボ』の依頼もあったのかな。だいぶ記憶があやふやなんですけどね、その辺は。
小黒 『ジャイアントロボ』は拘束だったんですか?
橋本 拘束的な感じでしたね。ただ、そんなにまだ企画が動いてなかったので、『(超神伝説)うろつき童子・未来篇』のモンスター設定とかを描いたりしつつ。『うろつき童子』は、当時ムーというスタジオにいた人達がやってるんですけど。山下(明彦)君とか、さとうけいいち君とか、羽山賢二君とか、小曽根(正美)君とか。確か後藤圭二君もいましたね。それで『ジャイアントロボ』というか『YAMATO』が始まるのでそっちに呼ばれた、という感じです。
小黒 『ロボ』自体は、そんなには参加していない?
橋本 いや、結局3本か4本はやっています。ペンネームで名前が載っているものも含めて。いつになったら『YAMATO』が動くんだろうと思っていたら、『ロボ』の方が先に動いたので。多分、1巻からやってるんじゃないのかな。あんまり覚えてないんですけど。
小黒 まとめてやったシーンとかあるんですか。
橋本 ……ないかもしれない(笑)。結局、人がこぼしたやつを大急ぎでやってくれ、みたいな感じでしたね。どっちかというとポジション的には『YAMATO』で待機の『うろつき』要員だったので、『ロボ』は間に合わない部分を主にやっていたような気がします。例えば(前田)真宏さんがレイアウトだけやって、原画まで描けなかったところとか。山下君のレイアウトのところとか。ロボが涙を流すところって、ありましたっけ?
小黒 ありますね。3話のラストでしたっけ。
橋本 大怪球に挑みかかって手が壊れちゃうところとか。そこら辺は結構まとめて、20カットぐらいやりましたね。あれは同じ会社なのに『YAMATO』班には言っちゃダメだよって事で、アルバイト扱いでやりました(笑)。あと、カエル君みたいなロボットが出てきて、ロボと押し合いをしたりするところとか。そこは結局『YAMATO』が忙しくなっちゃって、レイアウトはやったんだけど原画は3カットぐらいしかできなくて、山下君が原画をやってくれたんじゃないかな。その時はちょっと混沌としてたんですね。
小黒 『YAMATO』は、ご自身の中でわりと大きな仕事になるんですか。
橋本 そうなる予定だったんですけどね。
小黒 全3巻のうち、1話では大勢いる作監の中の1人で、2話でメイン作監になるんですか。
橋本 うーん……なんかね、『YAMATO』は言えない事が多すぎて(苦笑)。多くのスタッフが途中で抜けてしまったんですよ。結局メインで1巻から最後まで残ったのが、増尾(昭一)さんと、私と、小林誠さんだけ。自分が最後まで残る条件として言ったのは、「全話の絵コンテに口を出させてくれ」という事。戦闘シーンとかは全て自分でコンテを見て、直したりしています。3巻の戦闘シーンは自分でかなりコンテを描いているんですよ。プロローグのところとか。
小黒 そうなんですか。
橋本 それから、「自分も西崎(義展)さんと話ができる立場にしてくれ」と言ったんです。間にいる人達をすっとばして、直接こちらから口を出せるようにした。そんなわけで、西崎さんが私を総作画監督という肩書きにしたと思うんですよね。別にキャラ作監はしていないんだけど。
小黒 じゃあ、実際にはメカ作監なんですね。
橋本 メカ作監と、メカデザインと、あとはスタッフ選びもやってます。原画さんを呼んできて「この人を拘束で参加させてくれ」と言ったりとか。
小黒 1巻のプロローグは「過去にこんな戦争がありました」という事を説明する内容で、戦闘シーンがたっぷりありますよね。あれは増尾さんの原画なんですか。
橋本 いえいえ。派手なところは結構私がやってますよ。増尾さんは、星がドカーンと爆発したりとか、いわゆる「増尾爆発」のところをやっています。
小黒 増尾さんの役職は、ビジュアルエフェクト演出でしたよね。作画監督というよりも、スーパーバイザー的な感じの参加だったんですか。
橋本 増尾さんは撮影に関するディレクションをかなりされていたんです。例えば「こういうマスクを作ってくれ」という指示とか。あとはやっぱり、戦艦の描き方が圧倒的に巧いので、そういう部分の作り込みをやってくださってます。
小黒 なるほど。
橋本 私はわりとトリッキーな動くところを──手前に戦艦があって、奥から戦闘機が来てババババッと撃ったりとか、戦闘機が落っこちていって戦艦に当たって爆発したりとか、戦艦の第三艦橋に弾がドカーンとか。
小黒 はい、はい。
橋本 あと、迫るセイレーン軍の黒い戦艦に、手前から弾を撃って爆発したりとか。かなりのところは自分が原画をやってます。
 プロローグ部分は、かなり力が入ってましたね。なぜかと言うと、同時期に『MACROSS PLUS』が動いてて、親友でライバルでもある村木靖君が参加していましたから。こっちにも誘ったんですけど、彼は『MACROSS』の方に行ったんです。それで、1巻が出る前に予告編みたいなものを見せてもらったら、とてつもない画を描いてた。「こんなのやられたら、負ける!」と思って、それで頑張ったんです。最初に『MACROSS PLUS』をやると聞いた時は「え、今『MACROSS』?」って、ちょっと思ったんですよね。あと、自分がD.A.S.Tに机をいただいてた頃、ちょうど板野さんは画を描かなくなった時期で、あの憧れの板野さんがこんなに画を描かなくなっちゃったんだ……っていう。
小黒 監督業にシフトしていた頃ですよね。
橋本 それが個人的にとても残念だったという実感もあったので、今度の『MACROSS PLUS』も、その前の『マクロスII(超時空要塞マクロスII -LOVERS AGAIN-)』みたいに、作画的な盛り上がりが少ない感じになるんじゃないかなあと思ってたんですよ。私も『マクロスII』の原画やってるんですけどね。そしたら『PLUS』はとてつもなく凄いものになりそうだったので、『YAMATO』はなおさら頑張ったんです。枚数も無尽蔵に使えると言われていたので。
小黒 いや、凄く見応えがありましたよ。
橋本 顔は知っていたけど仕事はした事がなかった増尾さんともご一緒できたし。庵野(秀明)さん直系の弟子みたいな方なので、凄いテクニックをどんどん教えてくれるんですよ。小林さんからは、ディテールの描き込みについて教わったり。美術をかなり学んでらっしゃるのか、空間的な表現のテクニックを熟知されてる。例えば巨大なものがあると、普通は影をちゃんとつけたくなるんですけど、奥になればなるほど空気遠近で色が薄れていくじゃないですか。それをセルとして表現するために「奥の方はもうフラットな色づけや処理でいいんだよ」みたいな。あと、線の減らし方ですね。「設定そのままに線を描かなくても、こうやれば巨大感が出る」とかいった事を、お2人からもう毎日のように、ホントに冗談じゃなく半ベソかきながら(笑)、喧嘩しながら教えていただいてました。濃い〜時期でしたね。
小黒 なるほど。じゃあ『YAMATO』の橋本さんのお仕事は、金田系ではなく庵野秀明系なんですね。
橋本 うーん、そうなんですかねえ。できるだけリアルにはしたいなーとは思ってましたけどね。あと、1巻で一緒にメカ作監をやった竹内敦志君の影響も多々あるんですよ。彼はホントにもう、超リアルなものを作りたいという人なので。

●「animator interview 橋本敬史(4)」へ続く

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