animator interview
橋本敬史(7)3DCGと作画アニメの橋渡し役として
小黒 『STEAM』以降はエフェクトのみの仕事が増えていますよね。
橋本 そんなんばっかりですね(笑)。圧倒的にエフェクト仕事が多い。まあ、たまには女の子のキャラを描く仕事も来たりしますけどね。
小黒 え、そうなんですか?
橋本 なんか昨日もそんな依頼があって、美少女が魔法を使うと体が花びらになって舞っていくとか……って、それもエフェクトか(笑)。でも、こないだの『喰霊 ─零─』ではキャラクターのシーンをやりましたよ。
小黒 どんなところですか?
橋本 鵺みたいなのが出てくるところで、まあそれもエフェクト絡みだったかな。その方が自分としてもやりやすいんですよね。自分の色を出しやすいというか、『STEAM』をやってスタイルがかなり確立できたんです。やっぱり作品の中で「自分はここをやったぞ」と主張できるのは、エフェクト主体になるじゃないですか。だから、なるべくそういう仕事を選ぶようにしてます。
小黒 『プラネテス(ΠΛΑΝΗΤΕΣ)』のオープニングなんかも「煙なら俺に任せとけ」みたいな感じで?
橋本 いや、あれはメカも自分ですよ。クルクル回ってる衛星とかも描いたし、ロケットの対比表とか止めのメカも描いたし、犬も描いたし、猿も描いたし(笑)。30数カットやりましたよ。着陸船が月に降りるところとか、ロケット発射シーンもアポロは私です。他のロシアのソユーズとかは中田(栄治)君かな。
小黒 『(映画)犬夜叉 紅蓮の蓬莱島』はどこを描いてるんですか?
橋本 あれは冒頭なんですけど、井上さんの後なんですよね。犬夜叉が敵キャラに刀でビュッと攻撃するんだけど効かない、というあたりまで井上さん。それから縦PANでキャラクターを映して、もういちど刀をビュッとやるところから私です。で、エフェクトいっぱいになって、崖の向こうまで光が走っていって、敵の首に当たって海に倒れてザバーン、というあたりまでの10数カットですね。
小黒 ははあ、なるほど。後半の雷は描いてないんですか?
橋本 あれは松田(宗一郎)君じゃないかなあ。海岸のところは外丸君だと思うんですよ。『STEAM』にいた人達は、終わった後で大体みんな『犬夜叉』に行ってるんですね。
小黒 なぜ映画の『犬夜叉』はこんなエフェクト祭りになっているのか、という(笑)。
橋本 それは完全に『STEAM』の流れですね。その後で『NARUTO』に行くという感じだと思うんですけど。
小黒 9年かかった『STEAM』が終わった後、主な仕事場はどこになるんですか。
橋本 『STEAM』が終わる直前、これからどうしようかと思っている時に、『ジャイアントロボ』を一緒にやっていた山下君から誘いがあって、初・宮崎(駿)作品に行くんですよ。
小黒 『ハウルの動く城』ですね。
橋本 そうです。それまでずーっとカタい画を描いていたんですけど、元々は柔らかい作品もやっていたので、そっちもまたやりたいなあと思って。やったらそれなりの手応えもあって、宮崎さんも結構認めてくださって。ギザギザ煙を真似してくださったり。
小黒 えっ、そうなんですか?
橋本 カルシファーが怒って頭から湯気が出るんですけど、それがギザギザしてるんです。あとで聞いたら、私の原画を見て真似して描いたんだ、みたいな事を言われて(笑)。
小黒 『ハウル』では、崩れた城が再生するところですか。
橋本 そうですね。カルシファーが変形して城を押し上げるところまでは別の人で、次にカメラが外に出るところからですね。城から四つ足が出てきたりする界隈を、20カットぐらい。それを3ヶ月ぐらいやって、結構いい雰囲気でやれたんですよね。その途中、これまた『ロボ』繋がりで、さとうけいいち君から電話があって『KARAS』に誘われたんです。ただ、その時には『NARUTO(大活劇!雪姫忍法帖だってばよ!!)』のエフェクト作監の仕事が決まっていたので、それも大体3ヶ月ぐらいだろうから、それが終わったらやりますよ、と。
小黒 『KARAS』では特技監督、友情作画監督、特技コンテなど、様々な役職で参加されているわけですけど、主にはどんな仕事を?
橋本 CGのモーションを監修しつつ、そのCGに付随する作画監督も同時にやるという人は、業界にはあまりいなかったと思うんですよ。GONZOさんとかでも、CGはCGの監督が見て、作画は作監が見るというスタイルだと聞いた事があるんですけど。『KARAS』はそういうやり方ではなく、「手描きアニメとCGをいい具合に融合させたいので、そこは同じ人に兼任してほしい」と、さとう君に言われて。
小黒 それが「特技監督」ですね。
橋本 ええ。3DCGのモーションを見つつ、当然コンテに合わせたエフェクトを描かなくてはいけないから、きっとこういうエフェクトが入るだろうと想定しながらのモーションづけをしていく。3Dスタッフの人達も、ゲーム業界上がりの人が多かったので、もうちょっとアニメーション寄りの動きにできないかと注文したり。要するに、さとう君とCG班との間の潤滑油みたいな感じですよね。それは『STEAM』でもさんざんやっていた事なので、まあ時間がなくても橋本がやればなんとか上がるだろう、という信頼をみんなから得て(笑)。それと、やっぱり3D的な見せ方ができていないコンテもあったりしたので、そこは自分で戦闘シーンの絵コンテを描いたりしました。村木君が『(交響詩篇)エウレカセブン』でやっていたような事ですね。
小黒 実際に、橋本さん自身がパソコンでCGを動かす、という作業ではないんですよね。
橋本 ではないです。口頭での注文ですね。1日の半分は、3Dスタッフの人達の後ろで「ここはもうちょっと、こういうタイミングで」「角度はこうして」「枚数を抜いてくれ」とか指示をする。最初はラフ原を描いたりしていたんですけど、だんだんスタッフの方も要領を飲み込んできたので、口頭で言ったほうが早いだろうと。そこで私が見た後に、演出さんと監督さんが来て、さらに注文をプラスしていく。だから、いわゆる3D監督ですよね。
小黒 ちなみに1話の「友情作監」という役職は?
橋本 契約上、1話はやる予定ではなかったんですけど、作監と原画を手伝ってくれと言われたので、そういう表記になってるんです。
小黒 『KARAS』はご自身にとって、かなり大きな仕事になるんですね。
橋本 そうですね。これがあったので、3Dに付随するアニメーションに特化した人材だという事が、業界的にも認められてきたというか。その系譜として『FREEDOM』があり、押井(守)さんの『スカイ・クロラ』があり。そういう仕事がだんだん多くなってきましたね。
小黒 つまり、3DCGに作画的なテクニックやニュアンスを入れたり、作画によるエフェクトでディテールアップを施していったり。
橋本 そうですね。『スカイ・クロラ』でやったのは10カットぐらいなんですけどね。ホントはもっとやりたかったけど、時間切れで。私のところに来るのはもう順序的に最後の最後なので、カットが来たら「あと3日で上げてくれ」とか、そんな感じでした。時間との戦いでしたね。
小黒 どうやって3Dに手描きのエフェクトを足していくんですか? まず、タップ穴がないじゃないですか。
橋本 いや、ありますよ。全フレームをプリントアウトしたものが連番で来るんです。
小黒 あ、なるほど。橋本さんが作業する時には、もうタップ穴がついてるんですね。
橋本 そうです。『FREEDOM』も同じやり方でした。ただ、『FREEDOM』と全然違ったのは、『クロラ』は1コマ作画で、しかも尺が6〜8秒分と長いので、そのプリントアウトを見るだけでも大変だった(苦笑)。もちろん一緒にムービーが来るので、パソコン上で動きをチェックしつつ、1枚1枚に画を乗せていったという感じです。
小黒 タブレットとかじゃなくて、手描きで紙に描いていく?
橋本 紙です。動画用紙に、1枚1枚。
小黒 『FREEDOM』の方はフルアニメじゃないんですね。
橋本 あれは2コマです。2コマベタですね。もうひとつ違う点は、『クロラ』の方はカメラが回転したりして、さらに背景が空なので目標点がないというか。山とかあればどれぐらい動いているのか分かりますけど、それが全然なかったので少し苦労しました。
●「animator interview 橋本敬史(8)」へ続く
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