animator interview
橋本敬史(4)『エヴァンゲリオン』と磯光雄ショック

小黒 『(超時空世紀)オーガス02』ではどのようなお仕事をされたんですか?
橋本 『オーガス』は、ほとんどペンネームですよね。『YAMATO』とほとんど同時期で、「プロジェクトが始まったばかりなのに」と思ったので、とりあえずペンネームで。
小黒 ああ、そうなんだ。
橋本 そのうちもう開き直って、本名で出てますけど(笑)。
小黒 最終回には橋本さんの名前で普通に出てますよね。じゃあ、実際はわりとまんべんなく参加してるんですか?
橋本 そうですね。メインキャラのデザインは川元(利浩)さんがなされてたじゃないですか。
小黒 原案は美樹本(晴彦)さんですよね。
橋本 そうです、そうです。で、メインキャラ以外のデザインは、全部私がやりました。
小黒 えっ、そうなんですか!?
橋本 40体とか50体とか作りましたよ。メインキャラは10体ぐらいしかいないので。
小黒 ああ、そうか。「デザイン協力」って、メカかと思ったらキャラなんですね。
橋本 キャラです。だから、コスチューム替えとかも全部自分が作りました。ただ、話数によって、4〜5点は吉成弟(吉成曜)に頼んでるみたいです。
小黒 デザイン協力で名前が出てますよね。
橋本 そもそもは(J.C.STAFFの)松倉友二君から、アースワークの阿部(邦博)君と私とで、「2人でメカ作監やってくれないか」という話があったんですよ。松倉君ではなくて、上司の方かな? どちらにしても松倉君は絡んでたと思うんですけど。
小黒 この頃は松倉さんはまだ20代前半とかだから、プロデューサーじゃなくて一介の制作スタッフですよね。でも『オーガス02』に関しては相当、積極的に動いたらしいですね。確か「この作品で開眼した」みたいな事を言ってましたから(編注:アニメージュ2005年10月号「この人に話を聞きたい」第80回で、『オーガス02』で高山文彦監督と仕事をしているうちに「アニメが楽しくなって」と語っている)。
橋本 そうそう。私と阿部君でさんざんコキ使ったので、開眼したのかも(笑)。高山さんという難敵もいたので。それでまあ、阿部君と2人で交互にメカ作監をやろう、と。1巻は阿部君、2巻は私という感じで交互にやりつつ、「オープニングの原画を全部をやってくれ」と言われたので、それも私が。
小黒 えっ!? あのオープニングも僕は庵野さんライクというか、ガイナックス風だと思ったんですけど、あの感じが橋本さんなんですね。
橋本 全カット、自分の原画なんです。
小黒 ああ、素晴らしい! あれが橋本さんの感じなんですか。
橋本 そうかもしれないですね。ちょっと今に近くなってきている頃なのかもしれません。
小黒 なるほどー。やっぱり聞いてみないと分からないもんだ。
橋本 ハハハハ(笑)。
小黒 オープニング全原画という事は、キャラも描いてる?
橋本 もちろん。アップだけはキャラ作監の人に、西井(正典)さんかな、ちょろっと入れてもらったんですけど、原画時は、もう全部NO作監ですね。まんまやるような感じでした。各話もポイントで原画をやったりとかしてましたね。最終回も、前半のほうを吉成君と村木君とで分け合ってやったりとか。作監も同時にやりつつ。
小黒 じゃあ、最終回のメカ戦も何割かは描いてるんですか。
橋本 まあ、派手なところは吉成弟がかなりやってると思うんですけど。『オーガス』は面白かったですね、うん。やっぱり高山さんのコンテが素晴らしいので、当時のアニメとはちょっと一線を画する感じがありましたから。確か『YAMATO』をやりつつ、『ロボ』をやりつつ、という時期ですかね。
小黒 時期で言うと『ロボ』で拘束されてる時に、『オーガス』をやってるんじゃないですか?
橋本 そうです、はい(苦笑)。なんかまだ他にもいろいろやってるような気がするんですけど。
小黒 ライバル視していたとおっしゃっていた『MACROSS PLUS』でも、原画を描かれてるじゃないですか。
橋本 ああ、それはファンタジアのグロス回で、雅に原画の依頼があったんです。巨大な怪鳥が飛んでるシーンを描いてます。
小黒 ご自身にとってはそんなにボリュームのある仕事じゃないと思うんですが、TVの『(新世紀)エヴァンゲリオン』ではどこを描いてるんですか?
橋本 えーとね、ジェットなんとかっていうロボットが出てくる回……何話でしたっけ。
小黒 第七話ですね。ジェット・アローン。
橋本 あ、そうです。ジェット・アローンが起動するところは違う人なんですけど、それがチャッチャカ走るところ。
小黒 手をプラプラさせて、夕日をバックに走るシーンですね。
橋本 そうです。それが止まるところまで、キャラを抜いて全部ですね。
小黒 エヴァの手のひらにミサトが乗って、ニューッと手前にくるカットは?
橋本 それは橋本浩一君だと思います。
小黒 あ、そうなんですね。
橋本 私はもう、キャラといったら手の上に乗ってる米粒大の画しか描いてません。キャラも込みでやった方が楽だし、儲かるじゃないですか。それで打ち合わせに行ったら「もうキャラは全部ない」って言われて(笑)。「えーっ、せっかくキャラも描けると思ったのに、この設定を描くの〜?」と思いつつ。
小黒 じゃあ、動いてるジェット・アローンは、ほぼ全部描いたんですね。
橋本 そうですね。最初、鈴木(俊二)さんのアタリが入っていて、「もっと重たい動きで」と言われてたんですけど、庵野さんは「いや、普通に歩いてるのに、エヴァが後ろから走って追いつかないのはおかしい」とかいう話になって。「じゃあどうするの?」って訊いたら、「手に関節がいっぱいついてるので、なんかプラプラさせていいよ」と言われたんですね。だから、あの走りは自分で勝手につけたもので、あとで庵野さんから電話があって「アフレコではみんな大笑いで、大ウケだった。よかったよ」なんて言われて(笑)。結果オーライでよかったと思いましたね。
小黒 あそこは妙に特撮っぽいんですよね。
橋本 そんな感じでやってくれと、庵野さんからオーダーがあったかもしれませんね。打ち合わせに行くと、「ウルトラマン」の何話のどの場面みたいな感じで、とか言われたり。ビデオを見せられながら。
小黒 見せられるんですか(笑)。
橋本 まあ、いつもの庵野さんの感じですけど。あとは「第拾九話 男の戰い」ですね。合田さんがやった、使徒の首をギュギュギュギューッてやるところの直後です。顔に手が巻きついて、ブンッとか放り投げられるところの界隈を、数カットやってます。もう1週間ぐらいしか時間がないからという事で、摩砂雪さんから電話があって。自分としては、もっと派手な──その時は煙が大好きだったので、煙のあるようなところをやりたかったのに、そういうのがやれなくて鬱々としていたんです。そしたら『STEAM BOY』をやってる時、摩砂雪さんだったか庵野さんだったか、また電話がかかってきて。「今度は派手なアクションがあるから」と。
小黒 旧劇場版ですね。
橋本 ええ。それで前半のコンテを見ると、磯(光雄)さんのやった界隈とかがあるわけじゃないですか。「ああ、今回は凄く派手なアクションで楽しみだなー」と思ってたら、また違ってて、どうでもいい感じのところのメカをやらされて(苦笑)。串刺しになって、磔になるところとか。
小黒 (笑)。26話「まごころを、君に」のほうですね。
橋本 そう。「ずっと待ってたのにそれか!」って。あとは、槍が飛んできてエヴァの喉の手前でキュッと止まるところとか。最後の方でエヴァが石みたいになって、宇宙に行って、地球にヒューッて落ちていくところとか。そんなところしかやってないですねえー。
小黒 盛り上がんないっすね(笑)。巨大綾波とか描いてないんですか?
橋本 描いてないですねえ。で、「騙されたー騙されたー」と言い続けて(笑)、やっと前回の『ヱヴァ(ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序)』に繋がるわけです。あの1万円の本(「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 全記録全集」)に、庵野さんが私へのコメントを書いてくれて。「橋本君にはなかなかいいカットを与えられなかったんだけど、今回やっと叶った」って。
小黒 なるほど。さっき、磯さんの名前がちょっと出ましたけど、橋本さんは磯光雄ショックはあったんですか。
橋本 何回かあるんですけど、この辺だと『(電脳戦隊)VOOGIE's ANGEL』で改めて磯さんショックがあったんですよ。
小黒 そうなんですか。そもそも、最初の磯さんショックはどこなんですか?
橋本 やっぱりガンダムの『0080(MOBILE SUIT GUNDAM 0080 ポケットの中の戦争)』の冒頭ですよね。知り合いが参加していて、サンライズから磯さんの分の原画をゴッソリ持ってきたんですよ。残りの原画もある人が持っていて、そのふたつを合わせれば、ほぼ全カットが揃うという。
小黒 ほお(笑)。
橋本 まあ、あらかたコピーはさせていただいたんですけども。やっぱり、なんといってもリアルじゃないですか。中には「こんなに原画を描かなくても同じような画面にはできるよ」と言った人がいましたけど。ただ、原画力であそこまで、しかも画面に見えないところまで表現する──例えばワイヤーが弾けた時にワイヤーの動きが一瞬見えなくなったりとか、あと弾が当ったんだけど残像だけで処理してたりとか、そこが凄くショックだった。それこそ『A-ko The ヴァーサス』の頃かな。見よう見まねで原画を描いてみたりとか、シートもあったので、タイミングも真似しようとしたりしましたよ。全然、追いつかなかったですけどね。それをD.A.S.Tに持って行って大平君に見せたら、やっぱりショックを受けてて、彼もコピーしてました。まあ、本人は影響を受けたとは言わないでしょうけど。
小黒 まあ、言わないでしょうねえ。
橋本 多分、それで「骨董屋」に磯さんを誘ったりしたんじゃないですか。もちろん2人とも『御先祖様万々歳!』をやっていたという関係もあると思いますけど。それで、『VOOGIE's ANGEL』で森久司さんが金田チックな画を描いてたり、山下(高明)君もそっち系の画を描いてたのに、磯さんだけは突然もの凄い原画を描いてて。
小黒 それは、どんなところにインパクトが?
橋本 えっ、全てが凄いじゃないですか。なんていうかなあ……考え方はシンプルだと思うんです。フォルムも決して目新しいわけでもない。どちらかというと『0080』のほうが、新しいエフェクトとかフォルムを描いていたと思うんですけど、『VOOGIE』はなんというか、カットのひとつひとつに驚くような仕掛けが入ってるんですよね。ブワーッと動いてた煙が、突然カッと止まって逆方向に動くとか。全原画で地面がドワーッとめくれ上がったりとか。実はコンテもそういう風にはなってるんですけど、今までそこまで明解なビジュアルで描いている人がいなかったのと、『BLOOD(THE LAST VAMPIRE)』に続くエフェクトの叩き台みたいな実験を、結構してたりするんですよね。戦車みたいなのが壁に当たって爆発する画とかも、全原画で描いてる。いわゆるアニメの爆発じゃなくて、ホントに実写の爆発をロトスコしたような描写になってる。画面だと暗くて分からないんですけど、原画を見ると本当にもの凄いんですよ。「これは真似しなきゃ!」というか、勉強しなきゃと思って、コピーは全カットもらいましたけど(笑)。いまだに自分は、あのあたりの磯さんの影響下にある感じですね。
小黒 『エヴァ』の磯さんはいかがでしたか?
橋本 やっぱりTVの第壱話は凄いなー、と思いましたけどね。
小黒 これはみんなに聞くんですけど、どのカットですか?
橋本 ミサイルを撃つ時の噴射のフォルムとか、手前にシンジ君がいて、ミサイルがビルの谷間をキュキュッと曲がるところ。コマ送りすると、結構凄いんですよね。飛行機が落っこちるところなんかも、凄すぎて普通に見えちゃう。それが凄いなあ、って思うんですよね。
小黒 劇場版はどうですか?
橋本 劇場版はね、もちろん凄いんですが、なんというか、やる気が見えすぎてて……(笑)。公開前に原画を見たせいもあって、こっちも最初から驚くのが前提で、構えちゃった感じがするんですよね。
小黒 なるほど。第壱話はわりとアッサリしてるんですね。
橋本 してるけど、その中に凄さがあるというか。
小黒 ミサトの車のバウンドとか、よく話題になりますよね。
橋本 あれも凄いですよね〜。なんであんなものを考えられるんだろうと思う。原画を見るとシンプルなんですけど。拾九話も、言わずもがなみたいな感じですよね。実はそれと、磯さん自身は覚えてるかどうか分からないけど、「ドラゴンクエスト デスパレス」というボードゲームのCMで、ファンタジア時代に自分が作監をやったものがあるんです。
小黒 へえー。
橋本 『ドラクエ(DRAGON QUEST)』のTVシリーズをやってた時で。その中で磯さんが1カットやってくださって、それもまた自分が原画を持ってるんですけどね。
小黒 生原画があるんですか?
橋本 ありますね。
小黒 おおー。
橋本 凄いですよ。なんかこう、地面があって、城が建ってるんです。すると城がグワーッと背動で下がっていって、樹を抜けて、湖を越えて、墓場を抜けて。ずーっと下がっていくと、突然その奥にある城の地面がグワーッとめくれ上がって、その城が実は巨大スライムの王冠だった事が分かる。そのスライムが地面から出てくるところで、タイトルが入るというカットなんですけど、それは本当にショックを受けましたねー。『御先祖様』の頃かなあ。だから、都合3回、磯さんショックがあるんです。
小黒 それは、カットの構築がしっかりしているとか?
橋本 それと、テクニックも凄く入ってるし、あとは生画の画力というか。たまに原画を引っ張り出してきて、地面の破片とかを参考にしたりしてます。実はつい先月頃にも……すいません、そんな事ばっかりやってて(苦笑)。
小黒 いえいえ。話が逸れましたね。じゃあ、また『ロボ』『YAMATO』の頃に遡って。

●「animator interview 橋本敬史(5)」へ続く

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