animator interview
橋本敬史(5)『STEAM BOY』への道のり

橋本 『ジャイアントロボ』と同時期にやっていたのが『(バトルファイターズ)餓狼伝説』かな。これもペンネームだったような気がする。
小黒 映画の方ですか?
橋本 いや、最初のTVスペシャルです。それも大張さんから依頼があって、外丸君と2人でパート作監をやったような感じです。
小黒 それはどんなシーンなんですか?
橋本 アクションは大張さんのパートだったので、意外と普通な、おちゃらけのところだったような気がする。それはちょうど、カミさんと結婚を前提につき合い始めた頃で……いきなり私生活の話をしちゃいますけど(笑)。カミさんの家が仙台だったので、東京で1ヶ月、仙台のカミさんの家で1ヶ月仕事をするというのを、1年間続けてたんですね。
小黒 へええー。
橋本 透過台を首からぶら下げて新幹線に乗って、向こうの家で仕事をやるという。ホントに作品数が多かったので、何をやってたかよく覚えてないんですけど。ああ、『BASTARD!!(暗黒の破壊神)』が同時期じゃないかな。『YAMATO』はまだ始まってなくて、『BASTARD!!』と『ロボ』と『うろつき童子』と『餓狼』を、新幹線で行き来しながらやっていたような気がする。
小黒 『MEMORIES』はその後ですか?
橋本 ああ、そうですね。それが『YAMATO』の頃ですよね。「彼女の想いで」と「最臭兵器」、両方やってます。最初は『YAMATO』が始まる前に、「彼女の想いで」をやってました。クライマックスの崩壊するところ──ビームを撃って、ピアノがドカーンとなって、吸い込まれていく界隈をやってほしいと言われたんですけど、森本(晃司)さんが描いたレイアウトがあまりにも細かくて。これはちょっと動かせないと思って、確か吉田徹さんがやったんだと思うんですけどね。私はその前後、ビームを撃って、ドカドカドカーッと崩れながらフォローしていく界隈と、あとはタイトルですね。
小黒 ああ、あれもそうなんですか。
橋本 奥からビームが来て、ドカーンと廃宇宙船が壊れて、爆縮して破片が吸い込まれていって、タイトルが入る。まあ『SILENT MOBIUS』と同じなんですけど。その6カットぐらいかな?
小黒 じゃあ、重たいところだけやった感じなんですね。
橋本 そうですね、もう最後の最後に。その時に、井上俊之さんがアニメオタクだったという事を初めて知って、ビックリしたんです。
小黒 (笑)
橋本 あんな神様みたいな人が私の作品歴とかを全部知ってて、「あのシーンやりましたよね」とか「ちゃんと覚えてますよ」みたいな事を言われたので、「なんて怖い人だ」と思って(笑)。それで「彼女の想いで」が終わって『YAMATO』が始まった時、仲盛文さんから「最臭兵器」をちょっとだけやってくれ、と電話があって。煙とミサイルと爆発を描いたんですけど、爆発ばっかりのアニメなので、どこのシーンだとは言えないんですが(苦笑)。
小黒 じゃあ、数カット単位なんですね。
橋本 そうです。なんか、巨大な送風機みたいな謎の機械がありましたよね。それが爆発したりするようなところを。
小黒 川尻(善昭)さんが原画を描いた、トンネルの中に行く前後あたりですかね。
橋本 多分そうですね。道をPANしながらドカーンドカーンドカーン、というのを描いたのと、その機械が爆発したりするあたり。それを『YAMATO』の合間にやってました。実はそこから『STEAM BOY』に繋がるんですけど。
小黒 ああ、なるほど。
橋本 「彼女の想いで」の終盤で、宇宙船のコックピットが壊れて、消火器でシューッてやったりする界隈を、外丸君が結構やってるんですよね。『STEAM BOY』をやる事になった時、確か井上さんが外丸君を作監として推薦してくれたんです。それで、外丸君の周りでメカをやってるのは私か村木靖君しかいなくて、村木君はどちらかというとロボ系の人だったので、エフェクト系の私に依頼が来たという事ですね。
小黒 大友(克洋)さんとは、それまで特に接点はなかった?
橋本 一切なかったです。『MEMORIES』の打ち上げで、遠くの方でなんか輝いている人がいるなー、と思ったぐらいで(笑)。
小黒 「最臭兵器」で橋本さんが描いた爆発で認められた、というわけでもないんですか。
橋本 全然、違います。井上さんには確認をとってたみたいですけど。
小黒 『銀河お嬢様伝説 ユナ(ORIGINAL VIDEO ANIMATION 銀河お嬢様伝説 ユナ[哀しみのセイレーン])』で、オープニングの作画をされているとありますけど、これはオープニングを丸々描いたりされてるんですか?
橋本 その予定だったんですけどね(苦笑)。その頃は松倉君がチーフになってるのかな?
小黒 役職的には、まだ制作担当とかじゃないですかね。
橋本 松倉君の中では、私と村木君と阿部君が「メカの三羽ガラス」という事になってるらしいんですけど、『ユナ』の時は、私と阿部君に「2人でコンテを描いて、全部2人で原画をやってくれ」と。そしたら2人とも、キャラのコンテが描けないという事になってですね(苦笑)。メカシーンは散々出てくるんですけど。
小黒 ああ、要するにコンテで、どうキャラを入れるかという部分のアイデアが出なかった、と(笑)。
橋本 そうそう。それでまあ、2人で「ごめんなさい、やっぱりできませんでした」という話になって、結局、高山さんがコンテを描かれたのかな? 「請けたんだから少しは原画をやってよ」という事で、数カットやったという。
小黒 なるほど。あんまりカッコいい話じゃないですね。
橋本 ハハハ、そうですね(笑)。
小黒 『(戦—少女)イクセリオン』のメカデザインというのは、どこからどこまでやってるんですか。
橋本 メインは全部、森木(靖泰)さんなんです。それはホントにコンセプト的なものだったので、それを全部リライトしました。やっぱり大張さんあっての『イクサー』の流れだと思ったので、大張さん風のディテールにリライトするというか。だから、前の『彈劾凰』で、河森(正治)さんの画を大張さんがリライトしたみたいなもんですね。それが実際に始まってみたら、『校内写生』みたいなエロ主体の作品だったんでねえ(苦笑)。
小黒 別に、エロ主体とまでは思わないですけど……。
橋本 いや、私は言います!
小黒 あ、そうですか(笑)。
橋本 だって、最初はもっとハードなものになるって言われたんですよ。
小黒 確かに、90年代美少女アニメになってましたよね。やっぱり最初の『イクサー1』には、かなり思い入れがあるんですか。
橋本 ありますねー。先週も観ました。
小黒 あ、観返したばっかりなんですか(笑)。
橋本 今、次の『ヱヴァ』をやってるんですけど、隣の席が柿田英樹君で、2人の中で80年代ブームがきてるんです。それで毎日のように、昔のアニメを引っ張り出しては観ている。『マドックス(METAL SKIN PANIC MADOX-01)』とか『DRAGON'S HEAVEN』とか。
小黒 ああー。
橋本 今、『鉄人(28号[新])』をMXテレビでやってるので、山下さんの回を観たりとか(笑)。やっぱり、バリ(大張)さんの画って突飛だと思われてるけど、意外とこう、普遍的なヒントが隠れてたりするんですよね。あの動きをそのまま『ヱヴァ』でやろうとは思わないけど、結構テクニックとしては参考になったりするんですよ。
小黒 で、そろそろ『STEAM BOY』の時代に入ってきましたが……その前に、劇場版の『ウテナ(少女革命 ウテナ アドゥレセンス黙示録)』では、車を描いてるんですか?
橋本 なんか、ゴキブリみたいな車ありませんでした? トンネル内のアオリのショットで、ちっちゃい車がこうよけると、でっかい車がドドドドーッと来たりとか、派手じゃないけど面倒くさかったところだったような。壊れたウテナカーも描いたような気がするんですけど。
小黒 その頃にはもう、実は『STEAM』をやってるんですよね。
橋本 ああ、そうですね。やってますねえ(笑)。
小黒 不思議なのは、例えば他の『STEAM』メインスタッフの方、総作監の外丸さんとか、美術の木村(真二)さんとかはずっと『STEAM』三昧で、もはやアニメ界から遠のいてるみたいな感じなんですけど、橋本さんは毎年ずっと何かしらやってるんですよね。
橋本 すいません、って謝るしかないんですけど(苦笑)。ただ、別に『STEAM』を休んでやっていたわけじゃなくて、時間外労働可という事でやってましたから。許してもらってるんだか、もらってないんだか分からないですけど。いろんな方向の仕事をしてないと不安なんですよ。自分の技術が世間から取り残されちゃうような気がして。『蒸気探偵団(快傑蒸気探偵団 TV ANIMATION SERIES)』なんかもそうですね。
小黒 『蒸気探偵団』に至ってはメカデザインですよ(笑)。あと、ご自身にとって大きい仕事かは分からないんですけど、『フォトン』も結構やってるんですか?
橋本 ああ、やってますね。わりと派手なところを。1話は冒頭部分の戦闘シーンと、キャラクターもかなりやってますよ。
小黒 1話は相当な作画アニメですよね。
橋本 そうですね。当時はCGのような作画をしたいなと思っていて。確か冒頭で、変なオッサンが機械の上に乗って宙に浮いていて、回り込むみたいなカットがあるんですよ。
小黒 ああ、山寺宏一が声をやってるヘンな敵役。
橋本 そうそう。そこに光が集まっていて、それも回転してるように見えなくちゃいけないんですけど、全部手描きで描いたんです。画面で見たらちゃんとCGみたいに見えたので、「よし、やった!」とか思った覚えがありますね。あと、『ARMITAGE(III)』でも、デジタル世界で球体が突然パカッと割れる画があって、まあ「トロン」みたいな昔のポリゴンっぽい画面にしたかったんですけど、それも自分としては「やったな」と思ったような気が(笑)。『フォトン』はそれと最終回ですね。
小黒 はい、はい。終わりの方ですね。
橋本 細田(守)さんにも言ったんですけど、『(デジモンアドベンチャー ぼくらの)ウォーゲーム!』と同じような事をその時にやってるんですよ。ビームを撃って、PANしながら戦艦がドカドカドカーッと爆発していくような。そういうところを20カットぐらいやりましたね。もうAICには「派手なもの要員」としていたので、そういうものばっかりやってました。
小黒 『ウォーゲーム!』で担当されたのは、クライマックスのオメガモンの攻撃シーンですか。
橋本 そうですね。あの界隈は全部。
小黒 オメガモンに合体した後?
橋本 後です。手が刀になるのが先でしたっけ。そこから大砲を撃って大爆発があって、敵を全部やっつけちゃうところまでですね。
小黒 最後の、額にグサッとやるところは違う?
橋本 そこは違います。
小黒 あの、ダダダダッと爆発していくあたりは、『トップをねらえ!(Gun Buster)』を意識してるんですか?
橋本 だって、コンテがそうじゃないですか。
小黒 あれはコンテのせいなんですか(笑)。
橋本 そうですよ。最初に振られたのが、確か伊東伸高君がやってる、電脳世界ですれ違いながら……みたいなところだったんですよ。それで多分「あんまりやりたくないなあ」とか言ったんですよね。それで「どんなのがやりたいの?」って言われたので、「爆発が描きたい」と。そしたら「じゃあ、そういうコンテにしてあげる」と言われて、2〜3週後に描き直したコンテを渡されたんですよ。見たら「えーっ、『トップをねらえ!』と同じじゃん! カット割りまで似てるじゃん!」とか言ったんだけど(笑)。まあ、それでも細田さんの頼みなので。
小黒 細田さんとはどこで接点があったんですか。
橋本 それはホントに偶然で、ある日、たまたまAICで『デジモン』の1本目(『デジモン アドベンチャー』)を観たんですよ。そしたら、もの凄い面白くて。「なんじゃこのアニメは! なんでこんな作品が世の中に出てないんだ」と思ってですね。多分、当時は誰も観てなかったじゃないですか。それでショックを受けた次の日に、劇場『ウテナ』の打ち上げがあったんですよ。確か吉祥寺の焼鳥屋さんでやったと思うんですけど。
小黒 ほうほう。間違いなく僕もその場にいますね(笑)。
橋本 そこで周りの友達に「『デジモン』観た? 凄いんだよ! どうしてあんなのが世の中に出てないんだろうね」って言ったら、前にいた人が「あ、その監督、僕です」と(笑)。それが初めての出会いだった。それで「今、新作のコンテを描いてるからやってくれ」と言われて。だから、その打ち上げに行かなかったら、細田さんとの付き合いはいまだになかったであろうという、凄く奇跡的な出会い方なんです。

●「animator interview 橋本敬史(6)」へ続く

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