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『スカイ・クロラ』公開記念
押井マニア、知ったかぶり講座!
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第2回 映画監督としての原点、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』
「押井マニア、知ったかぶり講座!」第2回の今回は、押井守にとって最初の大きな転機となった『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』を取り上げよう。この『ビューティフル・ドリーマー』こそ、映画監督・押井守の原点。もしかすると「原点にして頂点」と思っている人も多数いるはずの大傑作。
……が、その説明をする前に、『うる星やつら』以前の押井守のプロフィールの中でも覚えていたほうがいいポイントを手短に挙げておこう。次の5ポイントを知ってるだけで、キミの押井力はぐぐっとアップする、はず。
・東京学芸大学出身。映研の後輩に「DEATH NOTE」などの金子修介監督がいる。
・学生時代には年間1000本映画を見たというシネフィル(映画狂)。
・1977年に竜の子プロダクションに入社。この前後に同社に入社したうえだひでひと・西久保利彦(瑞穂)・真下耕一とともに、タツノコ四天王と呼ばれ、若手演出家として同社を支えることになる。
・押井が師匠と呼ぶのは『科学忍者隊ガッチャマン』などの鳥海永行。
・鳥海の下について勉強できる、ということで竜の子からスタジオぴえろ(現・ぴえろ)に移り『ニルスのふしぎな旅』に参加。
さて、以上の5ポイントの中にもあるとおり、押井の原点はまず「映画青年」という部分にあるわけ。これは最重要事項のひとつ。まずはここから『ビューティフル・ドリーマー』を解説していこう。
「映画青年」の押井は、当然「映画」を作ることへのあこがれも強い。押井は初劇場監督作品となった『うる星やつら オンリー・ユー』について、「全体が映画になっていないことがショックだった。ただのテレビのでかいものであって、それがショックだった」なんて手厳しく語ったりする。本人的には同時上映の「ションベンライダー」が、相米慎二監督らしい、自由奔放に撮られた映画だったこともショックだったそうで。
だからこんなショックが『オンリー・ユー』完成後の宮崎駿監督との対談で「ぼくにとって次のが一本目という気持ちでやりたいです。自分としては何としてもリターン・マッチをやらずにはおかないという気持ちです」という宣言につながるわけだ。
そういえば別のインタビューではこの時期に出崎統監督の劇場版『エースをねらえ!』を繰り返し見て、「アニメで映画をつくるとはどういうことか」を研究したとも語ってる。
ところで、ここで押井が言う「映画」ってなんなの? 映画館でやれば映画じゃないの? っていう疑問を持つ人もいるだろう。
この質問はとても答えにくい。答えにくいけれど、あえて書くならば、ここでいう映画とは「ストーリーではなく“間”で語るもの」であって、それは同時に「“間”で語るだけの画面を構築している作品」ということにしておこう。ずばり、ではないかもしれないけれど、かなり当たっているんじゃないかと思う。
少なくとも押井は「涙を誘う人間ドラマ」や「度肝を抜くようなスペクタクル」といった要素を「映画的」とは微塵も思っていない(←ここ重要)。これは押井作品を見たときの「なんでこんなに地味なシーンが長いんだ」という感想と裏表なわけで。
と、以上のような前史の上でスタートした『ビューティフル・ドリーマー』は、確かに非常に(押井が語る意味で)映画的な作品に仕上がった。
たとえば深夜に車で信号待ちをしていると、彼方からチンドン屋がやってきて通り過ぎていく場面。あるいは登場人物たちが友引高校から帰ろうとしても、なぜかどうしても帰れず友引高校へと戻ってしまう一連の場面。そのほかにもまだまだあるけれど、いずれの場面も、セリフやキャラクターの演技を魅せるのではなく、画面全体の雰囲気と音響効果で魅せる場面になっている。
もちろんそういう場面で大きな役割を果たすのは美術。『ビュユーティフル・ドリーマー』の美術監督は超ベテランの小林七郎。最近のファンだと『少女革命ウテナ』の、といえばわかりやすいかしらん。
小林の名前は、この後また『天使のたまご』でより重要なポジションで再登場するので、頭に入れておいてもらえるとうれしい。
さて「映画的」というキーワードとは別に、もう一つ『ビューティフル・ドリーマー』(と押井守)を語る上で、忘れてはならないキーワードがもうひとつある。
それが「虚構と現実」だ。
『ビューティフル・ドリーマー』は、そのタイトルが暗示するとおり、諸星あたるを初めおなじみのキャラクターたちが、ラムの夢の中に閉じこめられてしまう、という物語。その中で、荘子の「胡蝶の夢」――蝶になった夢を見て目覚めた男が、本当の自分は蝶の見た夢の中にいるのではないかと自問する話――が、印象的に言及されている。「虚構と現実」がまるでウロボロスの蛇のように絡み合って一種の迷宮を作り出しているのが『ビューティフル・ドリーマー』といえる。
もちろん「自分が現実と思っているものが実は虚構(夢)なのではないか」という問いかけにも前史がある。この問いかけが初めて登場したのは『うる星やつら』中、最大の問題作(?)である第99話『みじめ!愛とさすらいの母!?』においてのこと。あたるの母が主役というだけでも猛烈に異色作である本作は、その「虚構と現実」の入れ子構造から、『ビューティフル・ドリーマー』のパイロット版的な存在として位置づけが可能。押井は同話で脚本を担当したが(絵コンテ・演出は『ビューティフル・ドリーマー』にも参加する西村純二)、その時にスタッフから得た手応えが『ビューティフル・ドリーマー』を作る上でのきっかけになったという。
そして押井は、『ビューティフル・ドリーマー』以降、「虚構と現実」というテーマを変奏しながら映画を作っていく。
というわけで、次回は、主要作品で「虚構と現実」という題材がどんな具合に、手を変え品を変え取り扱われているかを見てみよう。
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●関連サイト
『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』公式サイト
http://sky.crawlers.jp/
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