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『スカイ・クロラ』公開記念
押井マニア、知ったかぶり講座!
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第5回 「鳥・魚・犬」、それぞれの役割
今回のお題は「鳥・魚・犬」。
この3種の動物は、押井守監督が作中でよく登場させる動物として有名だ。非常に意味ありげに登場するこの3つの存在が、どんなふうに使われてきたのか、そこに注目したいと思う。
たとえば「評論」だったら「鳥・魚・犬」をなんらかの象徴ととらえて解釈するのが正道だろう。でもこの連載は「評論」じゃあない。あくまでも「知ったかぶり講座」なので、「鳥・魚・犬」についても、「押井作品にはこんな入り口がついているんだよ」という方向で話をして、何を意味しているか、みたいなところには踏み込まないつもり。そういう解釈はそれぞれの人がそれぞれに考えるから楽しいわけで、あとはその入り口を活用して、アナタが押井作品と戯れてもらえるとうれしいな。
さて、「鳥・魚・犬」の中でいちばん特別な位置にあるのは「犬」なので、これは後回しにして、まず「魚」と「鳥」を見てみよう。
たとえば押井のスタート地点『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』。
この映画で「魚」というとまず、中盤に出てくる、水たまりの中を魚が身を躍らせてキラリと過ぎていくカットが印象的だ。それからやはり忘れるわけにいかないのが、ドラマの上でもポイントとなるラムの回想シーン。これが水族館を舞台として描かれているのだ。ただし、この場面では魚のイメージ以上に、透過光で水槽を描き、水槽の存在を前面に出した画面作りをしている。
「水族館」といえば、『機動警察パトレイバー2 the Movie』にも登場する。こちらでは、事件の鍵を握る荒川と後藤隊長が密会する場所として水族館が使われている。
「水族館」が映像的におもしろいのは、画面の中では「水槽」がモニターに似ているところ。「水槽」の平面的な表面に、魚が映し出されているように見えるのだ。どうやら押井作品の「魚」は「平面性」と近しい関係にあるようだ。
たとえば、そのままずばりモニターに映し出される魚。『GHOST IN THE SELL[攻殻機動隊]』の冒頭に出てくる部屋は、窓にあたる部分がモニターになっていて、そこでアロワナが泳いでいた。『INNOCENCE』に登場していた、アロワナが映し出されるボールも、この延長線上にあるといえる。
で、平面性と魚の組み合わせでいえば忘れてはいけないのが『天使のたまご』。街の路面や建物の壁面を、影だけになった魚が静かに泳いでいく名シーンがある。
では「鳥」はどうか。
「魚」と同様にまず『ビューティフル・ドリーマー』を見てみると、冒頭にカモメが登場して、そこから廃墟となった友引町の俯瞰が映し出される。鳥という空の主の存在を示した上で、俯瞰(というか鳥瞰)の画面をつくるというのは、一つのオーソドックスな演出手法ではある。
押井はこの鳥瞰をもうちょっと理念的な意味で使いたいようだ。
「鳥は結局アウトレンジするっていうか、物語と距離を取りたいときっていうのがあるんです。観ている人間をストーリーの外側から眺める視線みたいなものが欲しいときがあるんです。特に鳥は演出家とかデザイナーと同じで俯瞰する。そういう視点は自分の中に抜き難くあるみたいですね」
と、こんなふうにもコメントしている。こうした鳥の使い方は『機動警察パトレイバー[劇場版]』にも見ることができる。
一方、『天使のたまご』と『GHOST IN THE SELL[攻殻機動隊]』では、鳥のイメージは時に天使に接近し、逆に『御先祖様万々歳』ではむしろ世俗的で、毎話冒頭でギャグ混じりに紹介されるさまざまな鳥の習性が、各話で描かれる家族のドラマのポイントを指し示すという構成になっている。
これだけバリエーションがあると、各作品のその場面で、鳥がどういう狙いで投入されているか、その意図を考えながら見るとおもしろいかもしれない。
と、ここで思い出すのは「迷宮物件 FILE538」。この作品でもっともインパクトのある映像が、飛行機が突如として錦鯉へと変貌していく場面だ。これはよく考えると「鳥」から「魚」への転換とも解釈できそうだ。この部分に注目することで「魚」というモチーフと「鳥」というモチーフをつなぐ作品として、「迷宮物件 FILE538」を解釈し直すこともできるかもしれない。
というわけで「犬」。
押井作品が犬というモチーフをどう扱ってきたかは、大きく3つの段階に分けられる。
まず犬のモチーフが前景化したのは『紅い眼鏡』から。ここで興味深いのは、「紅い眼鏡」の時点では、犬の対として猫が設定され、、物語は犬と猫の対立を軸に展開している点だ。押井が自らのシンボルを犬としているように、「紅い眼鏡」の脚本の伊藤和典は猫がトレードマークだが、それだけが理由とも思えない。
「犬対猫」のモチーフから犬が独立して、「野良犬」という形をとって一人歩きしはじめるのは、漫画「犬狼伝説」(原作・押井守、絵・藤原カムイ)を経て制作された実写映画『ケルベロス 地獄の番犬』からのこと。
諸般の事情でアクション映画からロードムービーとなった『ケルベロス』は、かつての先輩・都々目紅一を探し求める後輩・乾の物語。ここで乾は主人を失った野良犬になぞらえられている。
そしてこの「野良犬路線」が、いわゆる「ケルベロスサーガ」で、漫画「犬狼伝説」で固まった設定をベースに、映画『人狼』をはじめ漫画、ラジオドラマなどで展開され、根強いファンを得ている。
そして「野良犬路線」の次が「ガブ期」だ。
ガブとは押井の愛犬の名前。ガブは、バセット・ハウンドのメスで、押井はことあるごとにガブへの愛情を公言してきたが、2007年にこの世を去った。
押井にとってガブの存在が大きかったとわかるのは、『GHOST IN THE SELL[攻殻機動隊]』あたりから、犬の代表格としてバセット・ハウンドが頻繁に登場するようになるからだ。そしてそれに合わせて、「野良犬」だけではない犬の側面にスポットがあてられる。
それは「生のよすが」という部分だ。
『Avalon』と『INNOCENCE』はまさにその典型。どちらの主人公にも目の前の現実に対してリアリティを感じられないという共通点がある。そして2人ともバセットを飼っており、映画ではそれを世話する行為が丁寧に描き出される。まるでバセット・ハウンドだけが現実であるかのように。おそらく愛犬への愛情を、「犬という存在の意味」まで掘り下げ、純度を高めたのが「生よすが」である「ガブ期」の犬なのだ。
以上、「鳥・魚・犬」の使われ方を俯瞰してみた。次回は、これまで何度か言及してきた押井の実写映画を取り上げてみたいと思う。
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アヴァロン
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音声/1.日本語 ドルビーTrueHD(ロスレス)/6.1chサラウンド 2.日本語 DTS HD マスターオーディオ(ロスレス)/6.1chサラウンド 3.日本語 ドルビーデジタル/6.1chサラウンドEX 4.日本語 DTS-ES/6.1chサラウンド
字幕/1. 劇場公開時字幕 2.日本語字幕 3.英語字幕
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●関連サイト
『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』公式サイト
http://sky.crawlers.jp/
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