第184回 『愛・おぼえていますか』とアニメブーム
劇場で『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』を観た時の事は、よく覚えている。多分、初日か2日目に観に行ったのだろう。他の劇場がどうだったかは知らないが、僕が行った映画館は満員で、これから始まる映画に対する期待で、熱気に満ちていた。自分のアニメ鑑賞史の中では、劇場版『銀河鉄道999』ロードショーと近いものを感じた(前にも書いたように、僕は『さらば宇宙戦艦ヤマト —愛の戦士たち—』は公開後しばらくしてから観たので、熱気に満ちた劇場を体験していない)。「この感じは久しぶりだな」と思ったのを覚えている。他の観客も、久しぶりのSF宇宙大作アニメに、期待していたのだろう。
『愛・おぼえていますか』は内容も詰まっていたし、見せ場も多い。前回「『愛・おぼえていますか』のビジュアル」で書いたように、映像も素晴らしいものだった。基本的には楽しんだのだが、何かひっかかるものがあった。そのひっかかりの正体が分かったのは、数年後だった。要するに『愛・おぼえていますか』は、アニメブームが終わっていた事を示す作品だったのだ。
アニメブームがいつ終わったかについては諸説ある。どんな視点で歴史を捉えるかによって、変わってくるのだろう。僕の感覚で言えば、アニメブームは『わが青春のアルカディア』が公開された1982年夏に終わった。『幻魔大戦』『宇宙戦艦ヤマト 完結編』『CRUSHER JOE』が公開された1983年春で終わったという意見もあるだろうが、『幻魔大戦』はブームの「次の時代」の作品という印象だし、ブームは終わっているのに、まだブームのシンボルだったタイトルが続いていたのが『宇宙戦艦ヤマト 完結編』だったのだろうと思う。
ただ、当時の僕達は、アニメブームが終わった事には気づいておらず、「最近は派手な作品がないなあ」なんて思っていた。そして『愛・おぼえていますか』に対して、『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』『機動戦士ガンダム』に続く、アニメブームを担う役割を求めていたのだろう。それを求めたのは、この映画が『さらば宇宙戦艦ヤマト —愛の戦士たち—』や『銀河鉄道999』と同じ、夏のSF宇宙大作アニメだったから、というのもある。
作品の魅力、あるいは商業的な成果だけを見れば、『愛・おぼえていますか』は『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』に匹敵する作品だったかもしれない。だが、作品傾向が違っていた。『愛・おぼえていますか』は、明らかに『宇宙戦艦ヤマト』に始まったアニメブームの中の1本ではなかった。多分、それで僕は、少しだけ戸惑った。
作品傾向の違いについて説明しよう。『宇宙戦艦ヤマト』をはじめとするアニメブームで主力だった作品はシリアスを基調として、感動をセールスポイントにしていた。『愛・おぼえていますか』にも感動的な場面はあるが、それを売りにしていたわけではなく、シリアス一辺倒の内容でもなかった。恋愛を物語の中心に置き、アイドルソングが戦争の勝敗を分けるというアイデアで作られており、チャラチャラしたところがあった。そして、戦争というものを茶化している感覚があった。それがアニメブームで主力だった作品との最も大きな違いだろう(一応、言っておくと、『愛・おぼえていますか』は、TVシリーズ『マクロス』よりは、ずっとアニメブームの主力作品に近い)。
もう一つは、『愛・おぼえていますか』が、『宇宙戦艦ヤマト』をはじめとするTVアニメを観て育った若いスタッフが作った作品だったという事だ。『愛・おぼえていますか』で描写されたキャラクターやメカの、イラストのような美麗さ、呆れるほど描き込みは、若手スタッフの情熱によるものだ。今の言葉で言うなら、オタク世代ならではの執着が実ったものだ。一世代前のスタッフには『愛・おぼえていますか』は作れなかっただろう(さっき『幻魔大戦』を「次の時代」の作品だと書いたが、『愛・おぼえていますか』と比べれば、『幻魔大戦』は前時代のアニメと地続きだった)。
だから、『愛・おぼえていますか』には「自分達の世代はここまでやれるんだ」という感動があった。初見時にはそこまで思わなかったかもしれないが、公開の数年後には、この作品に、そういった誇らしさを感じていた。「自分達の世代はここまでやれるんだ」と思えたという意味では、僕の中では『DAICON IV OPENING ANIMATION』と通じるところのある作品だ。そういった意味で、少なくとも僕にとっては、アニメブーム時の主要タイトルとは明らかに違うタイプの作品だ。
勿論、チャラチャラしたところがあったり、戦争を茶化したところがあるのも、若いスタッフが作っているからだ。公開当時はそれを言葉にできなかったが、『愛・おぼえていますか』は、新しい時代が到来した事を告げていた。「愛のドラマ」に感動して泣く時代は終わっていた。僕が戸惑いを感じたのは、『宇宙戦艦ヤマト』からずっと続いていた「シリアスな戦争」が、いつの間にか終わっていたからかもしれない。
第185回へつづく
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(09.08.07)