第233回 『カムイの剣』と『ボビーに首ったけ』
『カムイの剣』と『ボビーに首ったけ』は、どちらも非常に格好いい映画だ。映像も格好いいし、映画としても格好いい。作品そのものの出来で言えば『幻魔大戦』に始まる一連の角川アニメの頂点だろう。1980年代前半に、マッドハウスは『夏への扉』『浮浪雲』『ユニコ(劇場版第1作)』『ユニコ 魔法の島へ』と傑作を連発しているが、その集大成にもなっている(この時期のマッドハウス作品については、第86回「マッドハウスの2度目の黄金期」でまとめて書いた)。フィルムを観れば、スタッフがノリにノッているのがよく分かる。
『幻魔大戦』は大人向けのアニメーションを狙ったところがあった。実際に仕上がった映画が、大人向けになっていたかどうかは別にして、アニメブームの主流であった『銀河鉄道999』『機動戦士ガンダム』よりも、少し上の年齢を狙っていた。中高生だけでなく、大学生や20代の観客を視野に入れた映画だったと僕は認識している。
『カムイの剣』と『ボビーに首ったけ』は、さらにその路線を押し進めた作品だ。資料にあたらずに印象だけで書いてしまうが、『カムイの剣』のメインターゲットは18歳以上だろう。子どもやティーンの観客も楽しめるように作ってはいるが、それはメインの客ではない。角川映画のアクション映画——例えば「戦国自衛隊」や「里見八犬伝」と同じような、大人向けの作品だ。『ボビーに首ったけ』は青春映画ではあるが、あのタッチは若者向けではないと思う。どちらかと言えば、大人が青春時代を懐かしむタイプの映画だ。やはり対象年齢は高い。
2作とも「アニメアニメしたところ」が少ない作品だ。2作ともアニメの映像表現を極めた作品であり、その意味では立派なアニメではあるのだが、狭義のアニメファン(今で言うところのオタク)が好むような甘ったるさ、心地よさが少ない。『ボビーに首ったけ』のお洒落な感覚や、劇中で描かれている爽やかな青春は、アンチアニメファン的なものだったかもしれない。
最近、関係者に聞いたばかりだが、この2本立ては作品の完成度とは裏腹に、興行的にはよい結果を残さなかったらしい。おそらく、1985年当時にヒットさせるには、一般の観客とアニメファンの両方をゲットする必要があったのだろう。
今、観返しても、この2本は格好いいと思う。作品自体も格好いいし、大人向けの作品を作ろうとして、作りきっているところが、また格好いい。
第234回へつづく
(09.10.21)