web animation magazine WEBアニメスタイル

 
REVIEW
DVD NAVIGATION

第23回
「鮮烈なる色味のショック!
 オリジナルカラーの再現性が、感興を新たなものに」
(宇宙戦艦ヤマト TV DVD-BOX[初回限定生産])

氷川竜介(アニメ評論家) 

 「ついに……」というのがBOXを入手して盤を再生して最初に出た感激の言葉だ。
 あまりにもよく見知ったセル画そのままの画質で、動く映像として眼前に現れたのだから。長年の願望が、またひとつかなえられた。
 1974年に最初にTV放送された『宇宙戦艦ヤマト』は、歴史的な作品である。中学生・高校生以上がアニメに熱中するということ自体を大きく進展させたという点で、現在のアニメの発展状況すべてのルーツと言って良い。という定番の話は今さら言葉を重ねるまでもないからここまでにして、以下は私的な今回のHDリマスターBOXのみどころ、特にそのオリジナル色調の再現性への感慨に絞って語ってみたい。

 そもそも私が現在でも抱き続けているアニメ制作技法への興味は、『宇宙戦艦ヤマト』のスタジオ見学によって培われたものである。本放送当時(34年も前!)、東京の練馬区桜台にあった制作現場(オフィスアカデミー)に行ったのが、つまるところ人生の誤り始めであったというわけだ。
 見学の動機は、もちろん好きな作品の工程を知りたいということだが、実は下心もあった。それは、「セル画が見たい」「できれば欲しい」ということであった。
 セル画はもう少し後にファンの間で高値で取引されるようにもなっていく。やがて虫プロダクションで『セル画盗難事件』が発生するなど、「価値」が社会的にも認知されてから値付けはエスカレートしていくが、まだセルは撮影が終われば産業廃棄物扱いであり、ファンにも「おみやげ」として配っているという時代だったのだ。アニメ雑誌が創刊される前だから、それも口伝的な情報だけが頼りである。
 ではなぜセル画が欲しかったか。それはもちろん「セルが美しいから」である。透明感と鮮やかさを兼ね備え、なおかつ少ししっとりと湿ったような感触もある艶やかな質感。「画材としてセルとセル絵の具の表現は素晴らしい」と、ある著名な作家も語ってくれたことがあるので、単なる私の思い込みではない。色データを配置したデジタル映像上の虚像と違い、「リアル世界に出てきたキャラクター」としての存在感もある。映画俳優の写真に近いものでもあり、名場面を切り取った一服の絵画としても楽しめる。
……とまあ、実際のセル画に触ったことがあれば、実はそんなに良いセルばかりではないのは御存知だろうから、これは少し言い過ぎ(笑)。まあ、アニメを作り上げるパーツだから当然なのだが、でもやっぱり究極のアニメグッズなのである。

 実は私にはもうひとつ、セル画が欲しくなる堅実な動機があった。それは、「プラモデルを正確に塗装したいから」である。
 なにしろまだ「TVまんが」の時代だ。当時出た『宇宙戦艦ヤマト』のプラモデルは、ヤマトの艦底部にゼンマイがついたり、コスモゼロに謎の分離・合体機構がついていたり、徹底的な児童向けアレンジが施されていた。工作技能を獲得した中高生以上のファンにとって、そのゼンマイ部をおもむろにニッパーでバリバリと切り裂いてプラ板をハメて改造するのは、往年の通過儀礼みたいなものだったのだ。
 という流れの中で、「いったいヤマトやコスモゼロは、本当は何色なんだ?」というのは、非常に知りたいことのひとつだったのである。ヤマトはプラモのように水色じゃないし、コスモゼロが成形色の銀じゃないのは、もうさすがに当時のTVでもはっきりしてた。とはいいながら、当時の放送やTV受像器の状況だと、グレーにしてもいったいどういう色味なのか、TV画面を写真に撮っても色は転んでしまう。雑誌の印刷の色が「転ぶ」のも知っていたから、「本当の色」を知るには「撮影される現物」、つまりセルにあたるしかないと思っていたわけなのだ。

 現実にセル画を入手してからは、プラモのことはどこへやら。懸命にその「本当の色」を後世に伝えるために保存しようとした。何しろヤマトは「ヤマト色」で塗られているという衝撃の事実が分かってしまったのだ。ヤマトの上側の色指定は「Z」という特色の番号でシリーズ化され、赤い部分は「ZR」(Rはレッド)で指定されている。しかも、その色味は回を重ねるごとにだんだん濃くなっているという。そう、プラモの色の水色とは、実はZの明るい方の色だったということまで分かってしまった。
 こうやって入り口は「プラモの色」なのに、探求はどんどん濃くなっていくというわけだ。カラー写真自体、高くてそんなに使えない時代だったのに、無反射ガラスを買って、太陽光(デイライト)の500wのライトを買って、三脚でカメラを固定してレリーズで手ぶれを防ぎ、ものすごい苦労をして「セル撮」の写真を遺そうとした。それは『ヤマト』のセルの色が、本当にきれいだったからだ。その感動を残そうとした。ただし、「10年後に残ればいい」というぐらいの読みだった。19歳か20歳だと10年でも長大な時間なのだ。
 これほどまでに「セルの色味、それ自体を保存したかった」というファンもこの世の中にそんなにいないと思うのだが、そんな私が、「まさか、こんなにオリジナルのセルの色のまま再現できる時代が来ようとは!」と涙にむせぶほどの再現性である。しかも机上のノートPCで再生できるわけだから、まさにリマスター万歳である。

 この34年間、ずっと追い求めていたある種の理想の状態がようやく手に入った。見慣れているはずの映像なのに、初めて見るような感慨で楽しむことができる。
 まず注目してほしいのは、故・槻間八郎氏の華麗なる美術である。特にガミラス星やイスカンダル星関係の、アバンギャルドでファンタジックで、しかもSFアートとして一級の美術は、今回の再現性の良いDVDで初めてその真価が分かるのではないか。思わぬところに原色っぽい色を配置させながら、緑や紫、あるいは黄色などフィルムで発色しにくい微妙な色味がデジタルの威力で鮮明に再現され、見ているだけで美的な感動を覚える。まさに「美術」なのである。
 では、セル画はどれくらいセルの色の再現性がいいのか。すこし例を挙げてみよう。
 たとえば第1話から第3話までと第4話以後では、絵の具会社を変えたことによってセルの色味がかなり違う……という話は、当時スタッフから聞いて「なるほど!」と思ったことである。しかし、このDVDではそんなことは改めて言わなくても、もう見た目で色味が違って再生されてしまう。古代くんや沖田艦長の肌色は、ピンク色っぽい色調から茶色系に変わるし、島大介の碇マークは黄緑っぽい色味から深緑っぽく変わる。再生条件さえ整えば、セル画自体の違いのままに楽しめるのである。
 トリビアな方向性でもビックリした。セルの重ねの枚数が分かったり、ブラシの質感が判別つくのだ。セル画時代ではボカシの特効(特殊効果)はエアブラシで表現され、普通はセル画の上から吹く。しかし、場合によっては裏から吹く。ガミラス艦の光線などは、白いベタ塗りに裏から一度蛍光ピンクを吹いて、表からもう一度吹いて、透過光に近い表現にしている。それはセルの実物を見れば分かるが、画面では「光ってる」としか分からない。
 今回のDVDでは、カットによってはブラシを表からかけているか裏からかけているか、区別がつくのである。裏からかけるとセルを透過するので少し湿った感じに写るが、表がけのブラシは乾いた感じになる。さらにBセルの上にCセルが乗ると表がけのブラシも艶が出るので、重ねの違いまで再現されてしまう。とんでもない再現性である。
 その分、セル傷とホコリも相当目立ってしまうし(苦笑)、ブラシ傷もはっきり分かるのではあるが、それも含めて「素材を一所懸命組み合わせて、巨大なイメージを作ろうとしている」という感があって、何だか妙に泣けてきた。
 一部の色味やエラーはデジタルで修正されているので、必ずしも完全オリジナルとは言えないところは微妙だが、沖田艦長の襟元のオレンジ色を見て「これだよ、これ! よく知ってるあのオレンジだよ!」という歓喜の前にはかなわない。こうした色の再現性で、あの七色星団の空母・艦載機の鮮烈な色味が、戦闘ビジュアルの作画の激しさとともに楽しめるのだから、本当に良かったなと思う。

 作品のコンテンツそれ自体としては、当然古びた点も多いが、この再現性でやはり「原点の迫力」が浮かび上がってきたように思う。底で支えていた美的センスが補完されることで、作品の新たな魅力が再発見できる。こうしたことも、21世紀的なアニメの楽しさの一貫なのだろう。そんな認識を新たにしたDVD-BOXであった。

P.S.添付された庵野秀明監督によるプラモデルのすばらしさについては充分言及されているので割愛したが、「そもそもプラモだった」という個人的な願望とのシンクロが嬉しかった。また形状的にも「まだまだ完遂できていなかったオリジナル再現への追求」という点で、リマスターと魂レベルで共鳴している点が、何より重要なことなのである。34年も過ぎて、今なお『ヤマト』が「楽しい」「美しい」と思える事実の重みは、この商品化をきっかけに、ますます大きくなっていくのではないだろうか。





●DVD情報
宇宙戦艦ヤマト TV DVD-BOX[初回生産限定]
BCBA-3167/DVD7枚組(約624分)/ドルビーデジタル(モノラル)/4:3
価格:39900円(税込)
初回封入特典:総指揮・西崎義展×監修・庵野秀明による、1/700『宇宙戦艦ヤマト』インジェクションキット 原型制作・真鍋正一 全長約40cmバンダイホビー製・完全新造型
※プラモデル単品でのリリース予定はありません
ライナーノーツ(28P)
発売元:バンダイビジュアル
販売元:バンダイビジュアル
[Amazon]
 


(08.06.03)

 
  ←BACK ↑PAGE TOP
 
   

編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
Copyright(C) 2000 STUDIO YOU. All rights reserved.