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第24回
「時代の証拠たる貴重な映像の数々と板野サーカスの正確な再現!
 四半世紀前の空気がここに!」
(超時空要塞マクロス メモリアルボックス[期間限定生産])

氷川竜介(アニメ評論家) 

 1982年のTVシリーズ『超時空要塞マクロス』は、『ヤマト』『ガンダム』と同様に一時代を築きあげたSFアニメ。今年は25周年ということで新TVシリーズ『マクロスF』もスタートした。
 『マクロスF』には新たなストーリーが進展する一方、原点にあたるこの『超時空要塞マクロス』と韻を踏むような細やかなネタが数多く仕込まれている。その確認の意味も含め、ふたたび一気に鑑賞してみるのも良いのではないだろうか。
 以下、DVD-BOXの「お楽しみポイント」についてレビューしてみよう。

●画質
 『機動戦士ガンダム』と同じ手法でHDプレミアムマスターが作成されている。『宇宙戦艦ヤマト』の1974年ごろは、主に撮影台の都合でオリジナルネガは35mmがまだ主流だった(TV局への納品には縮小プリントを起こす)。だが、コストダウンのために16mmカメラによる撮影が急速に普及し、80年代では大半のアニメ作品が16mm原版となっていた。
 『超時空要塞マクロス』もネガ原版は16mmで、従来のビデオグラムのマスターはそこからのネガテレシネであった。今回は新たに35mmのインターポジを作成し、そこからのリマスターを行っている。
(注:宣伝上では「35mmマスターポジ」となっているが、これは「今後マスターとなるもの」という意味と思われる。制作当時に撮影されたマスターネガは16mmである)。
 旧マスターではネガテレシネの特性上、全体が若干明るめで色も飛び気味、カット毎のバラつきが目立つこともあった。リマスターではポジをプリント時にタイミング(焼き加減)を調整しているらしく、フィルムとして安定していて、しかも色味の再現性が向上している。たとえば第1話と第2話で登場し、主人公たちの出会いの場ともなる複座のバルキリー(VF-1D)などは、茶色にオレンジという絶妙な色味が鮮明に再現されている。全体に紫、緑といった転びやすい色の系統が正確に出ていて、ドラマの臨場感も向上したように感じられて嬉しい。
 ただし、フィルムグレイン(粒状感を中心とした銀塩特有の質感)もよく再現されるようになった。デジタルアニメに慣れた目には違和感があるかもしれないが、このややザラついた感触含めて当時の作品の「味」だと言える。
 なおHDリマスターになった時点で「24P」という仕様で「1秒間=24コマ」のフィルムと同じ状態でDVDに記録になった。旧マスターはフィルムの24コマをビデオの30コマに「2-3(ツースリー)」という技術で移し替えたものなので、正確なコマ送りができなかった。今回のDVDを使えば、「板野サーカス」の画とタイムシートを逆算して起こすことができる。
 これはアニメーションの動きを研究する者にとっては、非常に貴重な資料となるのではないだろうか。

●解説書、ジャケット
 解説書は設定書を中心に当時のビジュアルを網羅。さらに監督・原作協力の石黒昇氏(アートランド)、企画の大西良昌氏(ビックウエスト)へのロングインタビューが掲載されている。過去の商品と比べて、新鮮に感じられた。
 解説書の一部とジャケットには高荷義之氏のイラストが満載で、この点はプラモデル世代の琴線に触れるのではないか。1982年当時、それまで田宮模型の戦車などミリタリー系プラモデルのイラストですでに著名だった高荷氏は、児童向け雑誌「テレビランド」(徳間書店)で、『コンポボーイ』『戦闘メカ ザブングル』など玩具・アニメを材にとり、泥や砂塵にまみれた兵器をリアルに描き出した独特の口絵イラストを続々と発表。
 その流れもあって、『超時空要塞マクロス』でも大量の模型用パッケージイラストを描いている。その主要なものが収録されていて、時代の空気ごと封印されている感じになっているのが良かった。製版処理でデストロイド“トマホーク”の色を原画から変更してアニメ設定どおりにしたというフォローもついているなど、芸が細かい。

●映像特典
 何と言っても今回最大の目玉は、「ゼントラーディ文字でラブレター」のコマーシャル映像である(笑)。ものすごい破壊力! これが収録されただけでも、お手伝いした甲斐があったというものである。
 小学生男子が女子に「きみがすきだよ」と告白するのに、ゼントラーディ文字を使って暗号化するという内容だ。「そんなイタズラしたらマズイだろう」「イタズラじゃなかったら、オタクっぽすぎてなおマズイだろう」と、ツッコミどころ満載のフィルムだ。その他、本放送当時にオンエアされた玩具、模型関係を中心としたCM集も非常に貴重である。
 このCM集は、実は筆者の所持していたベータマックスの本放送録画テープから復刻されたもの。当初は本放送時のオンエア状態を確認したいという依頼で、倉庫から発掘したテープであった。それを再生してみたろころ、思っていた以上にさまざまな映像情報が入っていたので、収録したということであった(CMはこちらからお願いしたのかもしれない)。映像特典関係のうち、「CM集」、「本放送用の第11話」、「第3話OP」、「サンデーアニメスペシャルのテロップ」などが、ウチのベータマックスからのお蔵出し。
 ちなみにベータのデッキは一応まだ所持しているが、稼働するかどうかは不明な状態。万が一、デッキがテープを巻き込んだりすると全滅なので、自宅では確認せずにバンダイビジュアルに直送し、オーサリング会社で確認していただいた次第であった。
 そもそも自分の家で観るために保存していたはずのベータテープが、自分では簡単には観られなくなってしまい、それがなぜかDVD商品に化けてて戻ってきて、それを再生してみて「やっと観られた!」と喜ぶというのは、かなりシュールな経験であった(苦笑)。
 「録っておいて良かった」とは思うものの、「録画して保存するって行為は、いったい何なのだろう」と、心境は複雑であった。

●本放送用の第11話と珍しい映像
 これはオンエア時に制作が間に合わなかった状態の映像である。多くのカットについて動画のない原画部分のみ、または止め絵を撮影したもので代替して本放送に間に合わせたものだ。正式な映像はリテイクしてマスターネガを差し替えてしまったので、ネガ上には現存していない。それゆえ再放送以後の第11話は本来のかたちとなっているので、25年ぶりのお目見えではないだろうか。
 本放送当時にアニメ雑誌でもかなり話題となったもので、記憶されている方も多いと思う。捜索の結果、当時のポジフィルムは結局発見できなかったため、これも同じベータテープからの収録となった。
 大暴れするブリタイ閣下のくだりは、実は、原画部分だけを撮影して中ヌキの動きになった上に、それをコマ落としのようにつないだリテイク前の方が、乱暴なパワーにあふれていて、これはこれで個人的にはものすごく印象深いシークエンスだった。その懐かしくも荒々しい感覚のカットつなぎとも、四半世紀ぶりに再会することができた。制作の当事者からすれば封印したくなるようなものかもしれないが、これも確実にいったんは世に出たもの。時間が経過すればなおのこと、現場の空気を記録した大事な資料となったのではないだろうか。
 また、本放送テープを現存するフィルムと比較したところ、第3話のオープニングが差し替えになってることが今回判明し、それも収録されている。オープニングに関しては、他にもマクロススペシャル用のものと正式版、90年代前半に再放送用として作られたスーパーデフォルメ版など、手厚く網羅的にケアされている(3話以外はマスターからの収録)。
 なお、本放送直前の夏のSF大会で、イベント用としてラッシュフィルムが上映されたことがある。これは板野一郎作画のメカ、エフェクトシーンを中心にまとめたもの。ゼントラーディ艦隊の回り込みカットなど、最終的にはカットバックになってしまっているが、編集前なので一連の映像となってるものや、編集のテンポアップでカット頭・カット尻が削られる前の尺が長い状態の映像満載であった記憶が残っている(本放送で見たとき「あ、カットが短くなってる!」と思ったのだ)。
 このラッシュの捜索もお願いしたが発見できなかったそうで、どこかに現存していないか祈り続けている次第である。

 以上のように、今回のBOXは単にリマスターして詰め合わせたというだけでなく、いろんな観点で「25年前の感動をパッケージ化」したものだ。単にフィルムが保存されていたという以上の「追体験」をお求めの方には、総合的な意味で「最適な商品」と言えるだろう。

P.S.ものすごいプレミアがついていた「フラッシュバック2012」もいっしょに再版されたのは、非常に嬉しかった。



●DVD情報
超時空要塞マクロス メモリアルボックス[期間限定生産]
BCBA-3169/DVD10枚組(本編DISC約909分、特典DISC約81分)/ドルビーデジタル(モノラル)/スタンダード
価格:39900円(税込)
毎回封入特典:特典ディスク
初回放送時のマクロススペシャル(第1話・第2話)と第11話、ノンテロップOP&ED、スペシャル版OP&ED、スーパーディフォルメ版のOPや当時のCMなどを収録。
豪華ブックレット
当時のスタッフのインタビューを中心に、放送当時の商品展開などをとりまとめた、メモリアルブックレット。設定資料も豊富に収録。
描き下ろしアマレーケース&収納ボックス
発売元:バンダイビジュアル
販売元:バンダイビジュアル
[Amazon]

超時空要塞マクロス Flash Back 2012
BCBA-3229/オリジナルアニメ+ミュージッククリップ/30分/リニアPCM(ステレオ)/スタンダード
毎回封入特典:オールカラーブックレット(12P)
価格/3990円(税込)
発売元:バンダイビジュアル
販売元:バンダイビジュアル
[Amazon]
 


(08.06.12)

 
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