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最終回 池田的サトジュンという男 |
えーっと、今回で最終回であります。
5ヶ月かけてこのような連載の機会に恵まれた事で、自分でも新鮮に当時を思い返すことができました。感謝感謝です。
TV本放送、視聴率が1%にも満たなかった時期を考えると、まさか放送終了から2年経った今でも現在進行形でプロジェクト自体が動いている事に驚きを隠せません。あの頃から地道に応援してくれていた古いファンの方達が『カレイド』を“守ってくれた”おかげで、少しずつやりたいことが現実になっていって、少しずつ新しいファンの方々が増えていきました。制作サイドとしては恐らくスタッフ全員が、“支えてもらってるから”頑張れるし頑張らなきゃいけないという共通の意思で、この作品に携わってきました。
創り手側もファンのみんなに負けないくらいの「カレイド馬鹿」ばっかです。
きっと、創り手側とお客さんの“欲しいモノ”や“観たいモノ”が同じで、みんながひとつのところを目指せた結果が、奇跡のサヨナラホームランを打たせてくれたのだと思います。
その原動力となったのはやはり「佐藤順一」という男。
僕はクリエイターではないからテクニカルな部分は素人なので、自分の立場として接したあのオジサンについてちょっと書いてみたいと思います。あんまり褒めると怒られそうですが、まぁこんな機会もあんまりないので思いつくままにツラツラと……悪口も交え(笑)。
●指示
一見、どこにでもいるいつもニコニコしてる普通のオジサン。実際、馬鹿がつくほどのマイホームパパなんですが、馬鹿がつくほどの仕事の鬼でもあります。チャンスをたくさん若い連中にくれて、手を差し伸べてくれるのだけれど、決して馴れ合いも妥協も許してはくれません。
「やってみるか?」
と“やさしく”聞かれ、
「はい。やります」
と答えたら最後(笑)。もちろん的確なアドバイスはしてくれます。それがあまりにも的確すぎて、教えを請うた自分のハードルを高める事もしばしばですが(苦笑)。というのも的確に「指摘」される箇所は「あ、やっぱりそこを言われたか」と、自分でも微妙だと分かっていた箇所。だから納得なんですが、それに対するアドバイスは大抵は具体的なものではありません。これは作画、演出、ライター、役者……全てのセクションに対しても同じです。
「惜しい……」「もうちょい」「もう一丁」
といった感じです。キャラデザの渡辺はじめさんも追ちゃんも、この「惜しい……」には四苦八苦してましたね(笑)。つい先日、我らが総大将・涼さんと酔っ払いながら焼肉をつついている時に、第5話のアフレコの話になりました(詳しくは当コラムの第2回を参照)。
広橋「もうさ、あん時はさ、もうわけわかんねーよ! ねぇ、どーしたらいいのさ? もうダメだ。無理だよ。ああああぁぁぁ〜この監督嫌いだよ(号泣)、って思ってたさ(笑)」
だってさ(笑)>佐藤監督
でも、自分達でも“よくないことは分かってる”から、なおさらに頭を抱えたりしますが、それにより突破できた壁もたくさんあります。
●チャンスとスタンス
チャンスって誰かに与えられるものです。いくら自分が努力しても、結局はその努力を見てくれていた誰かが与えてくれなきゃチャンスはない。でもチャンスって頑張っている人の周りには意外とどこにでもゴロゴロあるものだと思っています。でも、そのほとんどを人間は自分で“まだ早い”と境界線引いちゃって、見て見ぬ振りして自己完結(言い訳に)しちゃったりしてるんですよね。
佐藤監督も「今やらないでどうする?」というスタンスで若い頃から仕事をされてきた方です。「やります」「やらせてください」というスタンス。どんな打球も飛びついてでも、体に当ててでも捕球する勇気ですね。、僕が少年野球時代に恩師(監督)から教わったスタイルによく似ている事が多く、すぐに共感できました。恩師はこう教えてくれました。
「高いバウンドの打球だからといって、エラーを恐れて待って捕る必要はない。そういう打球は待って捕ってもどうせ一塁はセーフだ。頭の上を越されても1ヒット。どっちも1ヒット。どうせ1ヒットなら前に走って捕りにいけ。それで頭を越されても誰も文句は言わない」
佐藤監督も尻込みしてしまうプレイは望んでいません。「失敗なんて恐れるなよ」「もっと自由に」というスタンスは、他のスタッフのモチベーションを上げてくれます。「やってもいいんだ!」と思わせてくれる。佐藤監督は“アニメ屋”です。“アニメ馬鹿”です。だから、その作品に携わる全スタッフにアニメを創る事を苦痛に感じてほしくないのだと思います。もちろんアニメ1本創るのは苦しいです。確かに“苦しい”けども“辛い”と思ってほしくない。「アニメを創るのってこんなに楽しいんだよ」という事を伝道(伝染)してくれるあのスタンスに僕らは魅かれるんでしょうね。
エラー(リテイク)の悔しさを「次は絶対にグゥの音も出ないモノを見せつけてやる!」という発奮材料に変えればいいことなんですよね。そんで次に「どうだゴルァ!」って叩きつけてOKもらったら嬉しいじゃないですか。
……で、なんでこんな話を書いたかというと――。あのオジサンは認めるんですよね、素直に。手前が出したリテイク箇所が手前の想定外のところから上回ってくると、素直に、
「これはカッコイイよ。俺にはできないよ。すごい。参った」
って素直すぎるくらい。どんな若い新人がポツリと言った一言だとしても、自分にできない事だったら素直に「負けた」と言える人です。その負かした瞬間のガッツポーズが気持ちいいのです(笑)。
●名将
佐藤監督は名将と言われますが、監督と一言で言ってもいろいろあります。ホークスを率い、そして世界一に輝いた(号泣)王監督は間違いなく素晴らしい采配をする名監督ですが、王采配とも違う。ダメ虎を猛虎復活へ導いた星野さんとも違う。また近鉄〜オリックスで“マジック”と謳われイチロー選手を生み出した故・仰木さんとも違う。全員スタイルは違いますが、いずれの方も“名将”と呼ばれています。その全ての共通点は「適材適所」と「再生」に尽きます。
限られた環境の中で最大限の布陣を組むのが僕ら(フロント/プロデューサー)の仕事です。そしてその環境の中で最大限の能力と効率を引き出すのが監督の仕事です。
たとえ寄せ集めだとしても、金やネームバリューだけで寄せ集められたチームとは絶対的に違うもの。それが「チームワーク」の確立です。
役者も含め、ファンも含め、一丸となって“たったひとつ”のところを目指す「チームワーク」を創れた事に、カレイドの“今”があるんじゃないでしょうか?
それはメインメンバーだけにとどまりません。演出面で言えば、以前にここでも書いた第43話(ポリスの すごい プロポーズ)担当の井之川さんがこんな事を言ってました。
「コンテ打ち合わせが始まっても具体的な事は言ってくれない。ただ、俺がツマりそうな(苦手そうな)ところだけは指示をくれる。でも俺が得意そうなところは自由にやらせてくれる。『勝手にやって』って(笑)。監督のその見極めに助けられました」
自分ができる事、自分のポジションを全うすること。しかし、それは決して押しつけではなく、自分で志願したこと。『カレイド』に携わらせていただいて感じた事は、当たり前の事なんですが、やっぱりアニメを創るという事は共同作業なんだという事。チームワークに勝る必勝法はない、という事です。ここでも何度か書きましたが、「軸足をぶらさず」に振り切るためにはソレがいちばん重要なんですね。
『カレイド』だけでなく他のサトジュン作品を観ていても感じます。
●サトジュン作品
サトジュン作品はどれもいさぎよい。
あきれるくらいとてもシンプルです。ゴテゴテした見せかけデコレーションがない。
カステラに手を抜いていないからこってり生クリームも活きる洋菓子なんです。
アンコに手を抜いていないから甘党ではない人でも食べられる和菓子なんです。
まぁ、でも、ファンの方が思っているほど“完璧”ではないですよ……あのオジサンの頭の中は(爆)。ああ見えて、かなりその場の直感と“やりながら”でやってますから、計算じゃないです(笑)。だって、池田をカレイドのPに指名した理由もそうです。全く無名の他社のド素人を指名してきた理由をいちばん最初に尋ねたら、
池「どうして僕なんかを……」
佐「ん? ……だって、いちばんやる気ありそうだから」
そんだけでした(苦笑)。
今はあのメンバーはそれぞれ次のステージに立つ準備をしています。
またこのメンバーが揃うステージはもう少し先になると思います。
もちろん大なり小なり同じステージで顔を合わせることはありますが、全員再集結はまだもうちょっと先のお話です。
その時、またみんなでお馬鹿な大騒ぎができたらこんな嬉しいことはありません。
最後にこの連載の機会を与えてくださった小黒編集長をはじめスタイルの皆様と、乱文(散文)におつき合いいただき読んでくださった皆様に、感謝いたします。
翼は夢、そして空へ。
カレイドスター アソシエイトプロデユーサー/池田東陽
■第20回へ続く
●公式サイト
http://www.kaleidostar.jp/
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of phoenix 〜レイラ・ハミルトン物語〜』も好評発売中!
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