もっとアニメを観よう2011
第11回 中座洋次が選んだ
「一生に一度は見てほしい冒険的で貴重なアニメ15本」
出崎統監督の『あしたのジョー2』のような熱い人間ドラマや『宇宙戦艦 ヤマト』のようなSF娯楽作品が本来好きでアニメーターを目指していたのですが、なぜか美術背景業界に身をおくようになりました。今回は私が今まで見たアニメの中で美術背景も含めて、テーマやアクションの表現に冒険的で刺激を受けた貴重な作品を中心に選んでみました。現在の洗練されたアニメも良いですが、今の若いアニメファンや業界の新進クリエイターの方々にぜひ見てほしい作品です。
●『ジャイアント ロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』(1992)
ハイクオリティOVAとはこういう作品という手本のような贅沢で豪華なアニメでした。次の発売巻を毎回心待ちにしていたのを覚えています。小林誠氏のクラシカルなデコ調のメカや美術デザインは今でも古さをまったく感じさせません。時代を超えた娯楽超大作アニメです。ストーリーも盛り上げ方が上手すぎて時間を感じさせないアニメで、魅力的な横山キャラクターが次々と登場し大活躍する見せ方も見事でした。総集編にして映画で公開して欲しいと今でも願っています。
●『BLACK MAGIC M-66』(1987)
AICのOVAでは異色作です。初めて見た時はアクションの見せ方で圧倒されました。次から次へと動きの派手なアクションが続くのが映画「ターミネーター」的で、ロボットと人間の戦いという意味では映画を超えたテンポを感じました。監督・脚本・絵コンテ:士郎正宗、監督・構成・キャラクターデザイン:北久保弘之、 作画監督:沖浦啓之——この人選は今見たら納得でしょう。凄い顔ぶれです。とにかく当時のOVAの中ではアクションの見せ方が抜きん出ていた作品でした。
●『〜太陽の船〜 SoL Bianca ソルビアンカ』(1999)
監督は越智博之氏。実力派・恩田尚之氏の女性キャラがとてもオシャレでセンスがあり、映像も当時のAICのオリジナルOVA全盛期の中では最高水準の出来だと思います。大人がじっくり見て楽しめる人間ドラマとして丁寧につくられていました。3DCGも効果的な使い方で、ソルビアンカ号の攻撃プログラムがアルフォンス・ミュシャ調の女性ホログラムが弓を引くという斬新な表現は今見ても驚くアイデアだと思います。ラストの地球の描き方も新鮮で草薙の美術背景も精鋭スタッフでかなり頑張りました。DVDで是非ご覧ください。
●『ジョジョの奇妙な冒険[第1期]』5話(1994)
亡き今 敏監督の絵コンテ、演出作品。OVAの枠を超え、通常のアニメでは絶対避けるモブシーンのカーアクションの作画表現を、全く逃げないで正面からズバズバ描いていたのが、衝撃的でした。原作も大好きで全て読んでますが、このアニメはずば抜けて素晴らしすぎます。OVAとして、よくここまで描けたなあと、観た時は驚きで震えました。独特な色合いとメリハリが個性的な南郷洋一氏が美術監督です。今敏監督のイメージに合わせるのに当時大変苦労したと聞いた事があります。
●『るろうに剣心 —明治剣客浪漫譚— 星霜編』(2001)
幕末物は昔から好きでドラマや映画はかなり見ているのですが、このTVシリーズは作風が自分に合っていないと思い、見る機会はありませんでした。ある人に勧められてこのOVAを見た時は衝撃でした。暗殺者として生きてきた剣心の悲惨な最後を見事に描き切っていた事が素晴らしかったです。原作者がよくOKを出したとものだと当時思いました。幕末動乱の時代の生々しさと、その後の生き残った浪人達の儚さが十分表現されています。美術監督萩原正己氏の舞台美術の美しさも素晴らしく、確かな技量が分かります。殺陣、音楽、声優、編集、全てのスタッフが全精力を込めて完成させた作品というのが十分伝わりました。古橋一浩監督の造詣の深さと、長年描いてきたキャラクターを自分で締めくくろうという潔さが感じられました。原作ファンにはあまりに悲しすぎる悲惨なラストですが、人斬りとして生きてきた剣心の半生を考えればやはり最後は……。人の業を描いた見事な作品だったと思います。見逃している方はぜひ追憶編からご覧ください。
●『ガンバの冒険』(1975)
出崎統監督としては異色作品になります。画面レイアウト・芝山勉氏の個性と美術背景界の大御所の小林七郎氏の大胆な色とタッチで、時代を超えたアニメ作品になりました。ストーリーは白イタチ・ノロイと7匹のネズミの戦いを描いていますが、仲間、友情、善、悪と、とても深い内容で特に前半の寺山修二調な雰囲気にとても惹かれました。白いイタチと赤い血の、ラストのスローモーションの黒澤明調の戦闘シーンはとても印象に残っています。
●『とんがり帽子のメモル』(1985)
東映動画のTV用オリジナルアニメです。美術背景にこだわって見ていたころの作品で、柔らかい独特なデフォルメ感と爽やかな水彩画風の色彩に打ちのめされました。絵本のような美術背景はとても新鮮で、どうしたらこのような色や形が出せるのか、感動しながら見入っていました。キャラクター原案:名倉靖博氏と美術監督:土田勇氏が作り上げたメルヘン調の世界観。他の誰も描けない独自の個性をTVアニメの世界に持ち込んだ貴重な作品だと思います。
●『赤毛のアン』(1979)
高畑勲監督の不朽の名作です。宮崎駿氏が画面レイアウトをやっている初期エピソードは、特に素晴らしい仕上がりで、高畑勲監督がどれだけこの作品に力を注いでいたがが分かります。ストーリー、作画、背景、声優、音楽とTVアニメでここまで完成された作品は珍しいと思います。私の母も、この作品が今まで見たアニメで一番感動したと良く話してます。親子でぜひ見てほしい作品です。井岡雅宏氏の美術は、設定も含めて素晴らしいの一言です。
●『ノエイン もうひとりの君へ』(2005)
『天空の エスカフローネ』 の赤根一樹監督のオリジナル作品です。岸田隆宏氏のキャラクター、オブジェデザイン:竹谷隆之、コンセプトデザイン:石垣純哉、作画、ストーリー、舞台美術、CGとかなり冒険的な試みの多かった作品でした。北海道を舞台にした時空ものですが、人間ドラマとしても大変よくできています。細かな心情を描くシーン、ダイナミックな戦闘シーンと、見せ場も多く、その画面は一部のアニメーター達に大変喜ばれました。美術背景もリアルで渋いだけでなく異世界空間を独自の色合いで表現するなど工夫を凝らしています。美術監督は草薙の佐藤豪志。
●『火垂るの墓』(1988)
高畑勲監督の日本映画の名作です。内容は、とても辛く悲しくトラウマになるような作品ですが、この作品が日本映画に残した価値は、将来にわたって計り知れない貴重なものがあると思います。妥協をしない山本ニ三氏の美術背景も全て見事で、美術設定、美術ボード、背景の1枚1枚全てが今や日本のアニメの歴史です。「アニメ恐るべし」と原作者の野坂昭如氏がパンフレット言ったのも理解できます。個人的に、この映画が作られた現場に参加できた事は貴重な体験でした。山本氏に感謝です。
●『AKIRA』(1988)
ファーストシーンのバイクアクションは涙もの。世界のクリエーターが驚いたのが分かります。Blu-rayで最近見直しましたが、映像と音楽がピタリとはまって快感でした。水谷利春氏の美術背景もAKIRAカラーとして、ひと目で分かるように表現にされています。当時の「ジャパニメーション」の起爆剤となったのも理解できます。アニメ出身でない大友克洋氏が、劇場長編初監督でこれを作り上げた事も衝撃でした。個人的に、この作品に参加できたことは今でも光栄な出来事です。打ち上げで頂いた大友氏からサイン入り絵コンテ集は今でも大切にしています(笑)。
●『THE IDEON BE INVOKED 発動 篇』(1982)
個人的には『ガンダム』より好きな作品でした。テーマ的にも映像的にもアニメの枠を大きく超えた希有な作品だと思います。この作品でアニメ映像の可能性を感じて、演出家を目指した方も多い気がします。SFロボット物という舞台で真正面から輪廻転生を描いた壮大なラストは忘れられません。この作品を超えられるアニメはもう一生ないのではと思うほど衝撃を受けたラストでした。個人的には同じシナリオで新しいクリエーターとCG技術で世界ターゲットにリメイクして欲しい劇場アニメNo.1です。どなたか企画をお願いします。
●『走れメロス』(1992)
おおすみ正秋監督作品です。美術監督は『魔女の宅急便』の大野広司氏で、美術設定も時代背景を取り入れた世界の再現は見ごたえがあり、貴重な資料となるほどの作品ですので、美術背景に携わっている人には必ずは見てほしい劇場用アニメです。重厚感ある絵画的な質感とメリハリの強調された背景は見事で、大変格調がありました。確かな画面構成は、キャラクターデザインと作画監督を務めた沖浦啓之氏の本領発揮といえるでしょう。人間ドラマとしてはもちろんですが、実写指向のアニメ表現として、とても冒険的で貴重な作品だったと思います。
●『ルパン三世 カリオストロの城』(1979)
宮崎駿監督の、誰でも知っている名作です。ストーリーも演出も当然のことながら全く無駄がなく、冒険活劇の手本になる作品です。小林七郎氏の独特の筆の質感表現と荒い線タッチが、存分に活かされています。その後のジブリの作品と比べると注目度は低いですが、エネルギッシュで若いルパンというキャラクターが活躍する映画の舞台として、効果的なライティングや簡略化した筆のタッチは大変魅力的に見えました。もう一度だけでも宮崎ルパンを見たいのは私だけでしょうか。
●『地球へ…[劇場]』(1980)
竹宮恵子原作、日本映画の巨匠・恩地日出夫監督の異色SFアニメです。当時の若手俳優達を声に使う事も新鮮でしたが、作画による長回しを多用した人間芝居も当時としたら大変珍しかった気がします。美術監督の土田勇氏は『とんがり帽子のメモル』で有名ですが、アニメ美術界では早くから天才と言われていた方です。貝や有機体をイメージしたミュウ側の斬新なデザインや色彩感覚、ライティングは今見ても古さをまったく感じさせません。東映動画の劇場アニメの中で、とても印象に残っています。
●PROFILE
中座洋次 美術背景会社・草薙の代表取締役。草薙は『宇宙ショーへようこそ』『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』『機動戦士ガンダム00』をはじめ、数多くの作品で美術を手がけている。彼のtwitterのアカウントは @nakazayoji 。草薙のウェブサイトは http://www.kusanagi.co.jp/ 。
(10.12.15)