もっとアニメを観よう2011
第21回 藤津亮太が選んだ
「TVシリーズあってこその劇場版10本+隠し球10本」
SIDE-A TVアニメ劇場版編
日本の商業アニメの中心はなんといってもTVアニメ。ただそのままTVシリーズを並べると収拾もつかないので、SIDE-Aでは、「TVシリーズあってこその劇場版」を10本並べてみました。
1)『マジンガーZ 対 デビルマン』(1973年)
『マジンガーZ対暗黒大将軍』(1974)のほうが話題に出ることが多いけれど、個人的にはこちらをプッシュ。シネスコのすみからすみまで使った大胆なレイアウトで見せるビジュアル、不動明と兜甲児という(住む世界が違いすぎる)2人のヒーローのコントラストなど、実に「劇場版」ならではのスペシャル感・お祭り感満載です。
2)『機動戦士 ガンダム』劇場版3部作(1981〜1982年)
改めて説明する必要はないでしょう。『ガンダム』は、TVシリーズの初期構想の時点で、数本の映画を重ねていくイメージでシリーズ構成がたてられており、そういう意味でも『ガンダム』は最初から“映画志向”のTVシリーズではありました。
3)『うる星やつら2 ★ビューティフル・ドリーマー★』(1984年)
『オンリー・ユー』が「でっかいTV」に過ぎなかった反省が“映画志向”の本作を産んだ——というのは、有名なエピソードですが、1月に行う講座「アニメ映画を読む」ではその「差」について考えたいと思っています(朝日カルチャーセンター新宿教室で1月29日に講座「アニメ映画を読む うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」を行います。ご興味あれば是非!)
4)『さくらももこワールド
ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』(1992年)
まる子と絵描きのお姉さんの交流を描いた劇場版第2作。アニメスタイルの読者には釈迦に説法ですが、ストーリーの合間に挿入される音楽シーンが本当に素晴らしい。DVD化されていないことも含め、もはや伝説の一作といってしまってもいいかも。
5)『美少女戦士セーラームーンR[劇場版]』(1993年)
これも説明不要ですね。見ていない人は是非見るよーに。「Moon Revenge」はカラオケで十中八九歌っていますし、LDは幾原監督の解説動画が入っていてうれしかったです(単なる感想にもなってない)。
6)『映画 クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望』(1995年)
キネマ旬報の企画に参加した時も書いたのだけれど、『嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』や『アッパレ!戦国大合戦』も傑作だけれど、個人的にはこれをプッシュ(次点は『ブリブリ王国の秘宝』『暗黒タマタマ大追跡』)。『クレヨンしんちゃん』的な「くだらなさ」と、劇場版らしい活劇が一体となっているところが魅力。
7)『劇場版 ポケットモンスター ミュウツーの 逆襲』(1998年)
人気シリーズを劇場版にする際はテーマの設定が難しいわけですが、本作は人間とポケモンの関係を軸にするという真っ向勝負に挑んでいます。まずそこが素晴らしい。この「劇場版という企画に真っ向勝負を挑んでいる」という姿勢は、このほかの9本を選ぶ時にも基準のひとつになってますね。
8)『劇場版 NARUTO 大激突!幻の地底遺跡だってばよ』(2005年)
アクションと友情で綴る直球勝負のエンターテインメント。見応えがあります。こういう作品にはあまり言葉はいらないでしょう。
9)『劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』(2005年)
前シリーズの後日談を描いた劇場版。ナチスが台頭しつつあるドイツを舞台にするという設定からして「真っ向勝負」。そういう厳しい時代を背景に、「夢/現実」「どこか/ここ」「逃避/対決」といった要素が複雑に絡み合うドラマが展開する。直感的な表現で申し訳ないが、「ものすごく本気なアニメ」だと思います。
10)『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX
Solid State Society』(2006年)
現代日本に通じる「少子高齢化問題」をエンターテインメントの中に取り込んでドラマの仕掛けとし、公安9課の各メンバーにアクション映画としての見せ場をつくるという盛りだくさんの内容。1980年前後にあった「リアル」志向の正統な後継者と思います。
※ホントは『名探偵コナン』『ドラえもん』の劇場版から1本選びたかったのだけれど、いろいろ難しくて断念しました。
SIDE-B 俺の隠し球!
こちらは「実はおもしろいんだけどあまり知られていないんで機会があればプッシュしてる作品」を10本、順不同でご紹介+一言コメント。
1)『小さな恋のものがたり チッチとサリー初恋の四季』(1984年)
平田敏夫監督。チッチ役の伊藤つかさの声がホントにかわいい。
2)『風と木の詩 SANCUTS—聖なるかな—』(1987年)
安彦良和監督。原作のデリケートな部分を見事にアニメに。
3)『X電車で行こう』(1987年)
りんたろう監督。スタイリッシュ。
4)『紫式部 源氏物語』(1987年)
杉井ギサブロー監督。実は『INNOCENCE』と似ている。
5)『暗黒神話 餓鬼の章/天の章』(1990年)
安濃高志監督。原作の雰囲気がちゃんとアニメになっているのがすごい。
6)『真ゲッターロボ 対 ネオゲッターロボ』(2000年)
川越淳監督。「マンガまつり」的なロボット・バカ騒ぎがひたすら楽しい。
7)『どれどれの唄』(2005年)
田辺修監督。同名曲のPVだが、擬人化した昆虫を題材に生老病死を描いてしまうのがすごい。
8)『ぼのぼの』(1993年)
いがらしみきお監督。人生と運命について考えてしまう。
9)『マクダル パイナップルパン王子』(2004年)
トー・ユエン監督。香港で人気の子豚を主人公にしたアニメの劇場版2作。母子家庭で育ったマクダルに母が語って聞かせる「お父さん=パイナップルパン王子」の物語。個人的には実写映画の「トト・ザ・ヒーロー」と並ぶ、泣ける映画。ソフト化を望む!
10)『ブラック.ジャック KARTE10 しずむ女』(2000年)
出崎統監督。人生の残酷さとそれでも生きる意味。劇場版『AIR』は本作の再話では?
●PROFILE
藤津亮太 アニメ評論家。新聞記者、雑誌記者を経て現在に至る。著書に「アニメ『評論家』宣言」「チャンネルはいつもアニメ」がある。ブログはこちら(http://blog.livedoor.jp/personap21/)。Twitterのアカウントは @fujitsuryota 。
(11.01.11)