もっとアニメを観よう2011

第18回 高橋望が選んだ
「真のSFアニメ」ベスト10

  1. 『サイボーグ009[TV第1作]』(1968)
  2. 『0テスター』(1973)
  3. 『宇宙の騎士 テッカマン』(1975)
  4. 『アローエンブレム グランプリの鷹』(1977)
  5. 『無敵超人 ザンボット3』(1977)
  6. 『サイボーグ009[TV第2作]』(1979)
  7. 『ザ・ウルトラマン』(1979)
  8. 『機動戦士 ガンダム』(1979)
  9. 『蒼き流星 SPTレイズナー』(1985)
  10. 『トップをねらえ! Gun Buster』(1988)

 日本においてSFは、高度成長経済の一時期には小説として強い存在感があった。その理由は長くなるので省くが、その後やや沈滞気味になっていった活字SFに代わって、SFをリードしたのは、マンガ及びアニメに代表される映像メディアである。ただ、振り返ってみると、「SF的」なアニメは数多く、いや話題になった作品のほとんどが広義のSFだと言ってもいいくらいであるが、本格的なSFアニメと呼べる作品は数少ない。SFだからいいとか悪いということではもちろんないのだが、SFの醍醐味を映像で味わわせてくれるアニメ作品を見たい、という欲求はSF好きとしては当然のことだろう。今回は、その観点で10本の作品を選んでみた。TVに限ったわけではないのだが、結果的にほとんどがTV作品(それもオリジナル)となった。

10 『トップをねらえ! Gun Buster』(1988)

 いきなり結論だが、僕は真のSFアニメと呼べるのは、『トップ』だけだと考えている。単にSF的な世界設定を借りてアクションをやる、あるいはSF的なガジェットが登場する、というだけではなく、SFならではのアイデアを物語の基本設定にすえ、最終的にSFでなければ絶対にありえない大きな感動に結びつけた、という点で他に例がない。未見の人のために詳細は省くが、最終話(オリジナルビデオアニメなので全6話なのだが)のラストは、今も涙なくして観られない。「恋人とか肉親が難病で死んで悲しい→泣ける映画」みたいなモノに飽き飽きしている人には、ぜひこの作品で本物の「感動」に出会ってほしい。

1 『サイボーグ009[TV第1作]』(1968)

 で、結論はそういうことなので、そこにいたるまでの過程の作品から、部分的にでもSF色が強い作品をあげていきたい。まず、日本のTVアニメ黎明期の白黒作品から『サイボーグ009』。この時代は、日本SF自体が青年期だったせいもあり、現役バリバリのSF作家達がアニメの現場にかかわっていた。そのため、SF的なアニメは数多い。その中でこの作品を代表としてあげさせてもらう。シリーズ全体を通じては、ヒーローアクションものの域を出ないが、何本かすばらしい話がある。原作がよいものは当然でもあるので、オリジナルエピソードで注目作を以下に提示しておく。

#2「Xの挑戦」

 基本はメロドラマだが、サイボーグゆえの悲哀を描いた。音楽を含め、演出がすばらしい。

#16「太平洋の亡霊」

 戦争と日本人の問題を扱った異色作。この時期にすでに、日本人にとって戦争が遠くなっている、ということにびっくりする。

#24「非情な挑戦者」

 科学の進歩と人間性の関係。00ナンバーサイボーグが持っている「武器」の正体には泣ける。

#26「平和の戦士は死なず」

 人間の「悪」の本質は何か。原作にも通じるテーマだが、この話ではなんともいえない「世界のゆがみ」感覚が表現されており、ゾッとする。

2 『0テスター』(1973)

 初期作品の中では、特筆されるべきもの。スタッフに『ガンダム』など後年のサンライズ系ヒット作に関係する人が多いのも見逃せない。ロボットアニメやスーパーヒーローもののバリエーションとしてではなく、ストレートなSFを企画自体が志向していたというきわめて珍しい作品。その分、エンターテインメント性が低く、シリーズ全体としては迷走気味なのだが、エピソード単位では「SF色」が強くしかも傑作と言えるものが何本もある。

#27「秘密テスター機Z-1」
#28「人工島がおそわれた!」

 2部作。新しく作られた機体のテストパイロットに、正規のゼロテスターではなく、訓練の途中で落とされていた、別の隊員が任命される。その新しいテスター機「Z1」は、恐るべき性能を秘めていたが、その性能ゆえに大きな悲劇をもたらす、という話。要するに、どんなにすごい科学技術であっても、人間が使いこなせないものは意味がない、というのがテーマ。もともとこの作品自体が、科学が進歩して肉体の改造を重ね、人間性を喪失したアーマノイド星人が、「新鮮な肉体」を求めて地球を侵略してきた、という設定だった。この基本設定そのものをテーマとして、新型メカの登場や、隊員間の確執などのドラマを交えて描いたシリーズ屈指の傑作。Z1のデザインや人工島のバリヤの表現など、映像的にも秀逸である。

#49「試煉のゼロフライト」

 これは、とんでもSFみたいな話。テスター機が超高速で機動することで、量子論的効果(だかなんだか)が生まれて、あらゆる場所にテスター機が同時に存在しているかのように見え、全方向から一度に敵を攻撃できるという戦法(?)が出てくる。こういうのは他で見たためしがない。

#55「幻のゼロテスター」
#61「少年ロボット・ユウキの秘密」
#64「恐怖のサイボーグ計画」

 いずれも、ロボットやサイボーグを扱った作品、根本に流れるのは「科学技術は決して人を幸せにするとは限らないし、新たな悲しみが生まれることもある」という上記『009』とかと共通のテーマである。数多いSFのテーマの中で、日本SFは伝統的に(『8マン』の時代から)ロボットやサイボーグテーマを得意としてしてきた。日本人と親和性が高いのかもしれない。
 ちなみに、アニメージュの編集部には、『0テスター』のフィルムは「少年ロボット・ユウキの秘密」しかないらしく、何かというとこの話が誌面に登場していた。が、決してこれがシリーズの最高傑作というわけではない。

3 『宇宙の騎士 テッカマン』(1975)

 タツノコプロの作品は、故・小隅黎さんがSF考証を担当していたため、アイデアや表現面では、(SFとして)しっかりしている作品が多い。『テッカマン』は、『宇宙戦艦ヤマト』と同時期に登場した、本格的な宇宙テーマのヒーローアクションである。
 近未来、地球が環境汚染で滅亡しかかっている、という設定や、第2の地球を目指して探索に出るというラストなどもよいが、注目してほしいのは、むしろ細かい表現(演出)のほうである。
 わざとテッカマンが上下逆で敵の宇宙船に取りついている画面とか、投げた槍がそのまま飛んでいってしまうので、ムチを投げていちいち手繰り寄せる、など(『ガンダム』以前に)宇宙を「無重力の空間」として描いた画期的な作品だった。また、宇宙船の操縦ひとつとっても、ロボットもののいい加減な操縦方法ではなく、音声認識コンピュータとタッチパネルで行うなど、ちゃんと「未来」を描いていた。

4 『アローエンブレム グランプリの鷹』(1977)

 前半は、レースをめぐる人間ドラマ、父と子の葛藤などを非常にリアルに描き出した傑作だが、ここで注目したいのは後半(#27以降)。
 レース界では完全に後発だったアメリカとソ連が、国の威信をかけてF1に乗り出すが、歴史あるレースの世界ではなかなか結果が出せない。そこで、レギュレーションがまったくない、「なんでもあり」のレースとして新たに「F0(エフゼロ)」というカテゴリーを生み出す。
 轟鷹也が所属する日本の香取モータースチームには、とてもF0の世界に挑戦する資金がない。なにしろ、米ソが企んでいるのはレースの世界で冷戦をやる、その技術的バックボーンとしては米ソが得意としている宇宙開発のノウハウをつぎ込む、ということなのだ。
 しかし、悩む香取社長のもとに、大日向財閥のトップが訪れる。ちなみにこの人物は、前半にレース中の事故で死んだライバル・大日向勝の父親である。彼は香取社長に「日本の銀行界が全力で資金を供給します。F0に挑戦してください」と伝える。もし、F0への進出をあきらめてしまえば、日本の自動車産業自体が競争力を失い、ひいては日本そのものが経済的に危機に陥るから、というのだ。そして「日本人の心」を込めた新マシン「F0 サムライ」が生まれるのだった。
 SFは自然科学だけを相手にしているのではなく、社会派SFというようなジャンルも生まれていた。この『グランプリの鷹』後半は、国際政治や経済をテーマにシミュレーションを加え新しい物語を生み出す、ポリティカルフィクション(PF)とも言うべきSFの新しい要素を取り込んだ珍しい意欲作だと思う。

5 『無敵超人 ザンボット3』(1977)

 これは、富野監督の出世作として有名なので詳しい紹介は省く。僕が注目するのは、最終回で明らかになる「敵」の正体である。「はるか昔にガイゾックによって作られたコンピューターが、『悪しき心』に反応して甦り、当初のプログラムに従い人間を絶滅させている」というもの。これは、「バーサーカーテーマ」だと思った。古典的なSFの名作に「バーサーカー皆殺し軍団」という作品があり、ただ人類を殺戮するためだけに作られたマシンとの絶望的な戦いを描いたものなのだが、設定があまりに魅力的なので、その後に多くの影響をもたらしたのである。
 「侵略宇宙人との戦い」みたいな陳腐な設定を一気に飛び越えた作品である。物語の核にSF的アイデアがある、という意味では、僕は『ガンダム』よりもこちらのほうが、SF度が高いと思う。

6 『サイボーグ009[TV第2作]』(1979)

 原作ものは結局、『サイボーグ009』しか選んでおらず、しかも2作品も入れている。ちょっとバランスを欠いている気もするが、やはりこれは外せない。ここで、注目なのは第1話「よみがえった神々」である。
 チームが一度戦いを終え月日が経った。その後迫った危機に対処するため、平和に暮らしていたメンバーが再度招聘される、というプロットはよくあるが、演出のリズムがものすごくよく、このプロットとしては「見本」のような出来のよさである。で、いろいろあって再び集ったメンバーが戦う新たな敵、なんとそれは人知を超えた「神々」なのだ!!
 僕はSFの最終テーマは、「人間とは何なのか」「神は実在するのか」という根源的な問いに迫ることだと思う。日本で小説としてこのテーマに接近した代表作は山田正紀の「神狩り」だが、他にも、ややアプローチは違うが「幻魔大戦」や「デビルマン」などがあげられるだろう。当時は、何とTVアニメでもこのテーマに正面から挑む作品が登場した、とTVの前でひっくり返ったものだ。
 ちなみに、残念なことに2話以降は完全な竜頭蛇尾で、物語としてきちんと決着はつけられていない。が、この1話だけでも、果敢な挑戦として高く評価したい。

7 『ザ・ウルトラマン』(1979)

 本来は、ウルトラマンのアニメ版として企画されたはずだが、中盤に「ウルトラの星へ主人公が行く」という展開を入れたことで、非常に特異なSFアニメとなった。

#19〜21「これがウルトラの星だ!!」3部作

 当時、「スペースオペラ的な展開」と称せられたのだが、今ひとつピンとこなかったが、後で見返して意味がわかった。要するに、当時流行っていた「スター・ウォーズ」のイメージが強いのである。美女に招聘されて宇宙の平和を守る軍の一員となり、悪逆卑劣な敵と宇宙の彼方で戦う、というようなことである。
 僕は、そのこともそうだが、地球に戻ってきた主人公(ヒカリ)は、ウルトラの星での記憶を消されている。元の隊員たちと再会し「いったい何があったの」ときかれたヒカリが「遠い目」をする、というラストシーンになんともいえないセンス・オブ・ワンダーを感じた。
 ちなみに、こういう(異世界にいきなり飛ばされ、そこで大活躍する)プロットは、確かにSF、それもスペースオペラの典型といえ、古くはハミルトンの「スター・キング」から、ごく最近では映画「アバター」にいたるまで、繰り返し使われている。が、日本のアニメでは珍しいと思う。
 なお本作品では、最終回近くでまたウルトラの星が登場し、さらにパワーアップした宇宙戦闘ものが展開されることになるが、まあ基本は#19〜21でやりきっていると思う。

8 『機動戦士 ガンダム』(1979)

 とてもここで語りつくせないが、日本のSFアニメの金字塔である。ただ、僕は、『ガンダム』は、ピュアなSFというより、SFの設定やガジェットを巧妙に使いこなした上で、歴史ものや戦記ものを作った、というイメージでとらえている。
 もちろん、「銀河英雄伝説」がすばらしいSFであるということと同程度かそれ以上にはSFではあるのだが、たとえば、後半のニュータイプのくだりが未消化であることなど、ちょっと物足りなさも感じる。
 まあ、そんなことを言っても仕方ないし、その後の日本のアニメにとてつもない影響を与えた大傑作であることは明らかだ。
 ちなみに、僕が一番好きなエピソードは、#2「ガンダム破壊命令」から#3「敵の補給艦を叩け」あたりの、軍事SF的にかっこいい展開の部分だ。

9 『蒼き流星 SPTレイズナー』(1985)

 で、『ガンダム』の大成功があったことで、日本のSFアニメは新時代を迎える。単純な勧善懲悪ものではなく、思春期以降の若者を相手にしたより見ごたえのある作品を生み出せる土壌が整ったのである。その上に立って、ロボットアニメというジャンルから、『ガンダム』のフォロワー的な作品が数多く生まれた。ざっとあげても『バイファム』『ボトムズ』『マクロス』など多くあり、SFとしても楽しめる作品だった。ただし、結局は『ガンダム』を越えるものが生まれなかったのも周知のことだ。
 その「ガンダムフォロワー」的作品の中から僕が1本あげておきたいのが『レイズナー』である。僕が非常に惹かれたのが、主人公達が、火星での修学旅行中に宇宙人からの攻撃に巻き込まれていく、という展開である。
 火星の人工都市への子供たちの宇宙旅行というプロットに、僕自身が子供の頃に読みふけった「ジュブナイルSF」のイメージを濃厚に感じたのだ。ジュブナイルSFは大人のSFとは一線を画したジャンルであり、もちろん『ガンダム』にも『バイファム』にもその要素は入っているのであるが、『レイズナー』はよりピュアに取り入れていた。この「感じ」は他にはないものだ。

 ということで長々書いてきたが、『ガンダム』以後のこの時期の様々なチャレンジを経たことで、ロボットアニメをベースにした日本特有のSFアニメが準備され、『トップをねらえ!』で結実した、というのが僕のSFアニメ観というわけである。

 本稿では、あえて1990年代以降の作品を扱わなかったが、もちろんその中にもいいSFアニメはあるだろうとは思う。ただ、僕自身があまり網羅的に観ていないこともあるし、情報も新しいわけなので、その部分の評価は、みなさんにお任せしたいと思う。

●PROFILE
高橋望 プロデューサー。現在は日本テレビに所属。代表作に『海がきこえる』『猫の恩返し 』『サマーウォーズ』などがある。かつてはアニメージュ編集部に編集者として在籍。『新世紀エヴァンゲリオン』第拾壱話に登場した高橋覗のモデルでもある。

(10.12.27)