もっとアニメを観よう2011
第27回 荒川直人が選んだ
「押井守ベスト20+1」
1984年公開の劇場アニメ『うる星やつら2 ★ビューティフル・ドリーマー★』(以下、『うる星2』)の洗礼を受け、人生が変わったという押井ファンは多いと思いますが、かくいう僕もその1人。そんなリアルタイム世代のセレクションです。
押井守監督が果たした功績をひと口に説明するのは難しいのですが、強いて言えば「アニメを“映画”にした」点にあると、僕は思っています。
例えば、『うる星2』のメインタイトルが本編のどこで登場してくるか。そうした演出ひとつを見ても、それまでの劇場アニメの語り口と大きく異なることがわかります。映画の世界では決して珍しくありませんが、マンガの映像化として子供や家族向けにやさしく作られてきたアニメの世界において、それはある一線を超えた瞬間だったと言っても過言ではありません。
もちろん『太陽の王子 ホルスの大冒険』『銀河鉄道999』『エースをねらえ!』『ルパン三世 カリオストロの城』など、『うる星2』以前から優れた劇場アニメが制作されてきたのも事実です。ですが、よくできたマンガ映画の枠組みを飛び越え、「“映画”としてのアニメ」の可能性を初めて広げてみせたのが、押井守監督のエポックだったのではないでしょうか。
というわけで、前半は必見の傑作群をランキング。後半は他にも観てほしいタイトルを発表年代順で並べました。また、企画意図に反するようで恐縮ですが、押井ワールドを語る上でどうしても実写作品を外すことができず、ラインナップに加えてあります。
1)『機動警察パトレイバー2 the Movie』(1993年・劇場)
モニター越しの戦争を描く押井演出はいまなお鋭い切れ味で、ニュース映像のモンタージュなど異様な迫力。「こんなのパトレイバーじゃない」と嘆かれた公開当時の不評を思うと、オウムや9.11という時代の潮流を経て、“映画”の価値がいかに変化するかを実証している。
2)『うる星やつら2 ★ビューティフル・ドリーマー★』(1984年・劇場)
“映画”とは何か、自問自答した押井守の導き出したひとつの結論。「夢オチ」を逆手にとった仕掛けが見事で、終わりのない学園祭に憧れた者は数知れず。一般にも訴求する普遍性を獲得した傑作。これ以降、「虚構と現実」は押井ワールドに欠かせないキーワードとなる。
3)『御先祖様万々歳!』(1989-1990年・OVA)
押井守自身が原作・脚本・監督を務め、どこを切っても押井印という濃厚な味わい。アニメでありながら登場人物が舞台で演じるようなスタイルが斬新だ。長回しを多用するカット割はアニメーター泣かせの演出だが、それに耐えうるスタッフの力量が素晴らしく、芝居がいい。
4)『GHOST IN THE SHELL[攻殻機動隊]』(1995年・劇場)
『AKIRA』と並んで日本のアニメを世界中に知らしめ、「マトリックス」でその影響力を裏づけた映画史に残る一作。『パトレイバー』で構築したレイアウトシステムによる演出術は、アニメのリアルを大きく前進させた。従来の川井節を封印した音楽の革新性も特筆に値する。
5)『機動警察パトレイバー』(1989年・劇場)
完全犯罪に挑むミステリー仕立ての脚本が秀逸。再開発が果てしなく続く東京の都市論の視点も面白い。青春ドラマやレイバーアクションにも目配せして、みんなで幸せになった名作中の名作。1998年にアフレコをやり直した5.1ch版も音響演出の変更など、個人的には意欲作として評価したいところ。
以下、発表年代順です。
- ●『DALLOS』(1983-1984年・OVA[鳥海永行共同監督])
- ●『天使のたまご』(1985年・OVA)
- ●「紅い眼鏡」(1987年・実写)
- ●『迷宮物件 FILE 538』(1987年・OVA)
- ●『PATLABOR MOBILE POLICE』(1988年・OVA)
- ●「ケルベロス 地獄の番犬」(1991年・実写)
- ●「Talking Head」(1992年・実写)
- ●『人狼』(2000年・劇場[原作・脚本/沖浦啓之監督])
- ●「Avalon」(2001年・実写)
- ●『ミニパト』
(2002年・劇場[脚本・音響プロデュース/神山健治監督]) - ●「KILLERS」(2003年・実写[「.50 Woman」監督])
- ●『INNOCENCE』(2004年・劇場)
- ●『立喰師列伝』(2006年・劇場)
- ●『スカイ・クロラ』(2008年・劇場)
- ●『Je t'aime』(2010年・PV)
あと、企画凍結のために観ることはできませんが、フィルモグラフィとして重要な一作なので、番外でこちらも入れておきます。
- ●『G.R.M.』(1997年・アニメ版パイロット)
●PROFILE
荒川直人 1965年北海道生まれ。さっぽろ映画祭1986実行委員として押井守監督と出会い、『紅い眼鏡』の札幌公開に尽力。それが縁で親交を深める。1992年に大手映像メーカー入社後、パッケージ制作・宣伝等を通じて押井作品を多数担当。筆名はCD「K-PLEASURE Kenji Kawai Best of Movies」楽曲解説をきっかけに使い始める。現在、フリー。Twitterアカウントは @nao_arakawa 。
(11.02.03)