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REVIEW
CD NAVIGATION[早川優]

第3回 
「TVアニメ『IZUMO 猛き剣の閃記』オリジナル・サウンドトラック」
繊細なインシデンタル・スコア・アルバム 
〜今こそ、あなたの力が必要なのです……〜

 今、日本のサントラ界では女性作曲家の活躍が顕著である。こんな書き方をすると差別発言として睨まれかねないが、一昔前まではポップスの分野を除いて、いわゆる「作曲家」という職業人の大半が男性だった。これは、クラシックのいわゆる「大作曲家」の中に女性がみられないことでも分かるだろう。それには当時は女性が才能を伸ばす機会が滅多に与えられなかったという歴史的な背景があるわけだが、ここは男女職業差別を語る場ではないので詳細は省こう。
 要は、ここのところシンガーソング・ライターやアーティストというカタカナ表記ではなく、漢字でバッチリと「作曲家」という看板を背負って活躍している女性たちが、日本のサントラ・シーンを熱いものにしているということが言いたいわけ。大作映画を中心に相変わらずの多作ぶりを発揮している大島ミチル、コアなファン層を集める作品にジャンルを問わず曲を提供する菅野よう子といったベテラン勢に加えて、劇場で公開中の「戦国自衛隊1549」に大抜擢された若手のShezooまで、多彩な才能が我々の耳を楽しませてくれている。
 今回ご紹介する日本神話の世界観をベースにした人気ゲームのテレビ・アニメ化作品『IZUMO 猛き剣の閃記』を手掛けるmyuも、女性作曲家のニューカマーの一人である。短大で音楽を学んだmyuは、CMやゲーム音楽へ楽曲を提供する傍ら、ヴォーカル・ユニット“refio”としても平行して活動を続けている。インディーズのアーティストとしては同人ゲームへの楽曲提供している時点から知名度の高かったrefio。その名前をアニメ・ファンに一気に知らしめることになったのが、2004年の『Rozen Maiden』のエンディング・テーマ「透明シェルター」だった。ここでは作詩・作曲、それに霜月はるかとのコラボによる歌唱を担当(作詩のみmyu、他はrefio名義)し、定評ある幻想的な詩にマッチした美しいメロディで人気を博した。同人音楽を出発点として、ネットを中心にした活動で人気を博すなど、その出自はいかにも今日的だ。
 そのmyuが作曲家として初めて本格的にアニメの背景音楽を手掛けたのが本作『IZUMO』。テレビ・シリーズの背景音楽は初挑戦ながら、ゲーム音楽で鍛えた技を活かして手堅くまとめ上げている。デジタル音源の使い方もさすがに堂に入ったもので、ギター等の生楽器を随所に用いつつ、日本の神話世界をベースにした異世界に展開する活劇譚を盛り立てる。
 音楽メニューはシンセに軽やかな響きのギターが絡む日常学園描写の音楽、サンプリング音源による笙など和楽的な響きを取り入れた神話世界の音楽、打ち込みのリズムを主体にした戦闘曲、それに各種の情感表現等から成る。中でもストリングスの繊細な旋律が胸に迫る「悼み」などは、myuの持ち味が最大限に発揮されたナンバーだろう。最終回近辺用に用意されたと思しき清楚なコーラス曲「永久の愛」も素晴らしい。なお、本盤には番組のために録音された全楽曲が収められているとのこと。サントラ愛好者には見逃せないポイントだ。
 アルバムにはオープニング、エンディング主題歌「Romantic Chaser」「最新Dream」をテレビ・サイズで収録。myuによるそれらのノーブルなインスト版も1曲ずつ収める。解説書内には、四聖獣役で「最新Dream」も歌う4名の女性声優によるユニット“クローバー”が、自ら他の出演者や監督・冨永恒雄、プロデューサー・井上博明、音響監督・飯塚康一にインタビューした楽しい対談記事が掲載されている。惜しむらくはサントラとしての性格を考えると、myuご本人の登場がないこと、楽曲の録音データが掲載されていないことぐらいか。
 ともあれ、myuの映像音楽への次なるステップが楽しみになる1枚である。
(執筆/早川 優)

■DATA
TVアニメ『IZUMO 猛き剣の閃記』オリジナル・サウンドトラック
全41トラック 収録時間:63分30秒
ランティス LACA 5394
2005年6月22日発売 定価3000円(税込)
[Amazon]


■執筆者からの一言
 女性作曲家つながりでちょっとご紹介させていただきたいのが、本文でも触れた大島ミチル女史の最新の映画音楽のお仕事「オペレッタ狸御殿」。鈴木清順を監督に迎え、現代にあの「狸御殿」ものを蘇らせた。今が旬のチャン・ツィイー演ずるヒロイン・狸姫以下、オダギリジョーらが歌うミュージカル・ナンバーはとことんゴージャス&ドリーミー。脚本の浦沢義雄が作詩していることもあって、何か「うたう!大龍宮城」気分である。音楽プロデューサーは東宝ミュージックの北原京子。大島とのコンビでは「×ゴジラ」3作や、森田芳光監督の「模倣犯」「阿修羅のごとく」といった作品を送り出している。今回も充実した音楽映画の完成に大いに貢献していると思われる。
 一方、歌曲の助っ人作曲者としてムーンライダーズの白井良明が参加しているのだが、そのペンによるナンバーが傑作揃い! 1980年代タヌキ顔アイドル代表格の薬師丸ひろ子フィーチャーの2曲、由紀さおり演ずる“びるぜん婆々”が辞世の句とばかりに歌う大バラード、一般にはうっかり八兵衛、アニ・ソン派には『マッハGoGoGo』コロムビア・カバーや「兄弟拳バイクロッサー」主題歌でお馴染みの高橋元太郎が変わらぬ美声を聞かせる「快羅須山の極楽蛙」など、一度聞いたら忘れられなくなること必至。劇中、美空ひばり御大をデジタル映像で出演させ、合成音声で新曲まで歌わせてしまったというのもスゴイ。これもサントラにしっかり収録。東京スカパラダイスオーケストラによるハッピーな劇中曲も揃え、これ以上何を望めというのか。
 首都圏での映画のロードショー公開はすでに終了しているが、未見の方にも幅広く手に取って頂きたい痛快盤である。CDは(有)ピー・エス・シーより発売。規格番号はMTCA1020。
 余談だが、たまたま観に行った映画館で近くに座ったカップル。「狸御殿」の映画史的な位置づけについて語る男性に対し、女性は「バカ殿みたいなもんでショ」と一言。違うと思うぞ。
 

●第4回へ続く

(05.06.23)

 
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