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REVIEW

CD NAVIGATION[早川優]

第37回
「山本正之電影ワールド 黄金戦士ゴールドライタン オリジナル・サウンドトラック」
〜黄金のオール初音盤化! 全89曲〜


 『タイムボカン』から『逆転イッパツマン』へ至る「タイムボカン・シリーズ」6作に続き、「山本正之電影ワールド」ブランドの最新盤として発売中なのが本作『Gライタン』だ。
 変型超合金玩具をヒーローキャラに据えたタツノコのロボットアニメ『闘志ゴーディアン』と『Gライタン』 の「ゴーゴー・シリーズ」2作は、本放映中に製作者側が本来想定していた視聴者より高い年齢層のアニメ・ファンから注目を集めた。しかしながら、当時の両作品の関連音楽アイテムはいずれも主題歌シングル・レコードのみという寂しさだった。『Gライタン』が現在の作品なら、ライタン軍団それぞれの声優さんにイメージ・ソングを歌わせ、オリジナル・ドラマと組み合わせたマキシ・シングルとか、超合金の別塗装バージョンの購入券付の企画盤などが山ほど出ていた……かもしれない。
 月並みな表現にはなるものの、『タイムボカン』という格好の牽引車を経て、山本正之の映画音楽を商品化しようという試みが、ここまでたどり着けたことに感慨を禁じ得ない。
 今回のアルバムには、山本正之と『ヤッターマン』等でコンビを組む神保正明の手による本作の背景音楽(いわゆる劇伴)が、「ハッピー・バースディ」などの3曲の既成楽曲のアレンジを除いて全曲収められている。正副主題歌のTVサイズも今回が初出だから、CDの帯にもあるように収録の89曲すべてが初めてのお蔵出しとなる。
 筆者もアルバムに拙文を書かせていただいているが、執筆時に初めて『Gライタン』の音楽を音楽単独で聴いた時の感想は、記憶以上に軽やかさと朗らかさに満ちている、ということだった。実際、本作品の企画時にはライタンたちに関わる子供グループ「わんぱくレンジャー」(音楽マスター・テープの表書きによれば、当初は“アバレンジャー”と呼称される予定だったらしい)の日常を完成作品以上に前面に押し出すことを想定していたようで、音楽もその趣向に合わせた陽性のナンバーが多く並ぶ。主人公のヒロこと大海ヒロシのトランペットがメロディを取る活動的なテーマ音楽とバリエーションは、『Gライタン』を一度でも観ている人なら絶対に耳にしたことのある、本作の明朗さをイメージづけた代表的な音楽といえるだろう。
 今回のCDシリーズに関わらせていただいて強く感じたことは、山本・神保両名のコンビによる映画音楽作りが実に巧く機能しているということ。山本正之の書く音楽は基本的に歌が乗ってもおかしくない、もしくは彼の頭の中にはすでに詩が存在する歌曲的な趣向が強い。もちろん、山本自身による主題歌のアレンジ曲の存在も、その傾向をより強くする。
 一方の神保正明の筆による楽曲は、山本正之のものに比べて器楽曲に寄った作りである。自分やほかのシンガーが歌うことを想定した「歌う」メロディというよりは、器楽でメロディを奏する演奏寄りの旋律・譜割りになっている。アレンジも演奏者のセッション性を重視した面が多い。
 前者をメンタル寄りの音楽とすれば、後者はよりフィジカルな音楽と見ることができる。その両面の音楽が別の才能によって紡がれ、一つの作品の中に自然に同居していることが、「タイムボカン」シリーズの音楽面の成功につながったのだろう。
 『Gライタン』の音楽も両者の特性が溶け合って、実に豊かな音世界を味わわせてくれる。ストリングスが歌うムーディな宇宙のテーマや平和な情景のためのワルツ、ドスの利いたメロディが雰囲気満点の「メカ次元のテーマ」、そして主題歌・副主題歌のメロディ・アレンジを筆頭とする軽快なアクション音楽まで、メニューは多彩だ。
 収録楽曲の演奏時間は30秒から1分以内の曲が大半を占める。しかも、山本正之が手がけた一連のアニメ音楽の例に漏れず、同一メロディを多用するのではなく、各曲に異なったメロディを割り当てるスタイルという選曲方式の映画音楽の理想的な形を採っている。ちなみに本作の録音日は1981年の2月8日。ひと月前の1月10日に『ヤットデタマン』の録音が行われている事実を考えると、近接した作曲時間の間で別作品の音楽をしっかりと書き分ける山本正之の才覚のほどが分かる。
 アルバム・スタッフに目を移せば、構成と解説は腹巻猫が担当。全話の音楽使用状況を精査して上での曲配置に隙はない。CD企画の旗振り役を勤める貴日ワタリのこだわりによる1曲ワントラックの方針もあって、HDDオーディオへの取り込みや一発選曲も容易である。作品を熟知したファンや山本正之のファンは言うに及ばず、音楽を聴く楽しみを知る人であれば、最初から最後まで決して飽きることのない至福の1時間を過ごさせてくれる1枚である。
(文中敬称略。執筆/早川優)

■DATA
「山本正之電影ワールド 黄金戦士ゴールドライタン オリジナル・サウンドトラック」
全89トラック 収録時間: 55分45秒
ビースマイル
BSCH-30050
2006年11月15日発売 定価2600円(税込)
[Amazon]

■執筆者から一言
 昨年は、マサユキ前線、リクエストショーと、山本正之さんのライブを2回聴かせていただいた。時にハーモニカを織り交ぜたギターと歌によるシンプルなスタイルで、氏が生み出す世界の広さと色彩感に圧倒された。特に「嗚呼太平洋傷痍軍人夜曲月光大脱走」には涙。不勉強ながら、山本さんの生演奏を初めて聴き、優れた映画音楽と「歌心」の密接な関わりを改めて痛感した次第。
 また、リクエストショーのアンコールで披露された「逆転イッパツマン 3C」は、富山敬・鈴置洋孝両氏への追悼の意を込めて書き下ろした3コーラス目を加えた新バージョン。こちらは、ジェネオンから2月23日に発売されるニュー・アルバム「才能の楽園」(BBCA-3006)に収録されるとのこと。
 さらに、「山本正之電影ワールド」の「タイムボカン」シリーズから代表曲を集めたサンプラー的ベスト集「ベスト・オブ・タイムボカンシリーズ」(KICA-1435)も3月にリリース予定。『Gライタン』と合わせ、これらも是非。
 

●第38回へ続く

(07.01.26)

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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