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REVIEW
CD NAVIGATION[早川優]

第9回
「レディメイド・ディグス・ディズニー」2&3
米・ディズニーランド・レコードに残るレア音源を集めた好コンピ盤!
〜小西康陽監修による“よりぬきディズニー”コンピレーション〜


 レコード・メディアの主役がCDになって以来、アニメのマニアックな音楽集は、とにかく録音された素材を可能な限り詰め込むのが吉、という考え方が根強く支持されてきた感がある。いわゆる“歌もの”については、収録時間に余裕があるCDの特性を活かして、様々なコンピ盤が各社から発売されているのに対し、サントラに代表されるインストものになると一転して寂しい状態なのが現状である。
 1980年代後半のアナログ・レコードからCDへの過渡期に、歌と背景音楽(BGM)を混在させたユニークな企画盤が特撮作品を中心にリリースされたことを思い返すとき、現在のアニメ特撮サントラの状況は、ちょっと企画的に硬直化しているような印象を受ける。私自身もそんな状況に対して、過去にはコロムビアで「名作劇場」と「魔女っ子」作品のベスト・サントラ集を立案させていただくなど微々たる抵抗を試みてはいるのだが、どうしても現在の音楽市場の趨勢は――これはアニメ分野に限らず――ヴォーカル曲にあり、インストの地位向上は一筋縄でいかないことを実感している。
 そんな中、ディズニーに関連した目の醒めるような好コンピレーションがエイベックスから2タイトル発売された。「レディメイド・ディグス・ディズニー」と題されたアルバムの2、3集である。監修は、元ピチカート・ファイブのメンバーであり、J-POPのソング・ライターとしての活躍の他、忘れられた映画のサントラ等のレア音源を、知る人ぞ知るオシャレな音楽として紹介、新たな生命を吹き込んできた小西康陽が担当。シリーズのボリューム1は誰もが知るディズニー系の名曲を、水森亜土、ムッシュかまやつら、アニメ・ファンにも馴染みのゲストをフィーチャーし新録音したトリビュート盤だったが、今回ご紹介の2&3集は、飛び切りマニアックな内容となった。現在のキャラクター・ビジネスの基礎を半世紀も前に作り上げたウォルト・ディズニーが、自らのマジック・キングダムを構成する要素として映像分野、テーマ・パークとともに育て上げた音楽部門「ディズニーランド」レーベル。ここが保有する莫大な音源から、タイトルの有名無名の別は問わず、楽曲の純粋な完成度本位で集めたのがこのCDだ。
 普通、ディズニーランド・レコードというと、ディズニー製作・配給による作品のサントラ盤か、ディズニーランドのパーク内音楽を集めたアルバムを連想しがちである。たしかに、それも重要な位置を占めている。が、このレーベルはさらに奥深い魅力に満ちたカタログをもっている。
 たとえば、映画主題歌・挿入歌を様々な趣向でカバーした作品がある。はたまた、TVの「ミッキー・マウス・クラブ」からデビューしたティーン歌手アネットに代表される契約アーティストのアルバム。そして、ディズニーのキャラクターを用いた教育のためのレコード(実際、Vol.2には『ピノキオ』のジミニー・クリケットが歌うキャッチーな「九九の歌」を目玉として収録)など、実にバラエティ豊か。
 そうした巨大なカタログを前にシェフとして腕を振るった小西康陽は、さすが年季の入ったレコード蒐集家の1人として、単なるベスト盤的な方向性は一切狙わず、俄然聴き手のコレクター熱を最大限に煽るようなレア音源を中心にしたサンプラーに仕上げている。曲間もクラブDJ感覚の直結状態で、矢継ぎ早に繰り出されるグルーヴィーなディズニー音楽に浸るうち、1時間はあっという間だ。ライナーによれば、選曲に当たっては自前で確認済みの音源に加え、ディズニー・レコードの倉庫に眠っていた200枚近くのレコードを取り寄せて吟味したそうな。うん、さぞや嬉しい悲鳴だったことだろう。
 それぞれの盤を構成する上での明確な指針は示されていないが、ドナルドがジャケットの2巻はラウンジ色の豊かな落ち着いた仕上がり、ミニーの3巻はソフト・ロックを中心にした選曲でポップなテイストになっている。いずれの盤も、本家パーク音楽あり、TV「ミッキー・マウス・クラブ」のキャッチーな楽曲の数々あり、ディズニーランド・レコードの音楽監督的な存在だったトゥッティ・カマラータのアレンジによるインスト・ナンバー、マイク・サムズ・シンガーズがスゥィートに歌う『おしゃれキャット』ほかの主題歌等々、ズラリと並んだ宝石箱を順不同で空けていくかのようなゴージャスなリスニング体験が待っている。
 パッケージもふたつ折りの紙ジャケに、収録曲すべての初出アルバムのアートワークをミニ・サイズに縮小して綴じ込むという、大変に手間のかかった仕様である。「ディズニーランド」ブランドのロゴが誇らしげに輝くCDレーベル面共々、小西のレコード愛が横溢する素晴らしき仕事である。コンピレーションという点では近い分野で仕事をさせてもらっている私としては、羨望の念を交えて盤を手に取ったことも白状しておこう。
(執筆/早川 優)

■DATA
レディメイド・ディグス・ディズニー2
全29トラック 収録時間:61分23秒
エイベックス AVCW12426
2005年3月30日発売 定価2600円(税込)
[Amazon]

レディメイド・ディグス・ディズニー3
全24トラック 収録時間:55分00秒
エイベックス AVCW12435
2005年7月13日発売 定価2600円(税込)
[Amazon]

■執筆者からの一言
 カリフォルニアのディズニーランドが今年で開園50周年ということで、これを記念したCDが何種類か発売されている。日本でも2枚組のバランスの取れたアルバムがリリースされているが、その中の目玉といえる大物が、今のところ本国のパーク内ショップと通販サイト“DISNEY DIRECT”だけで販売している6枚組のボックス・セットだろう。って、つい買っちゃいましたよ。
 CDは全曲マスター・テープに立ち戻って集められた音源から構成されており、メイン・ストリート、フロンティア・ランド、ファンタジー・ランドなど、パークのカテゴリー別にレビュー音源やアトラクションのサウンドトラックが満載されている。単独のサントラCDもちらほら出ているものの、カリブの海賊、ホーンテッド・マンション、スプラッシュ・マウンテンなどの場内音源がほぼノーカットの形で一同に会しているのは壮観。確かに、リニューアル・オープンしたばかりのスペース・マウンテンのマイケル・ジアッチーノ(『Mr.インクレディブル』) による音楽とか、スター・ツアーズなどの背景音楽は前述のハイライト盤などにも収録されてはいるが、「魅惑のティキ・ルーム」とか「カントリー・ベア・ジャンボリー」などが30分前後の大ボリュームで聴けるのは、大型ボックスならではだ。
 とかなんとか言っているうちに、英国のアーティスト、ジェフ・ウエインが1976年に手がけたロック・ミュージカル・アルバムの名盤「宇宙戦争」のメイキングDVDつき6枚組「COLLECTOR'S EDITION」を買っちゃったりして。うーん、CDはこういう形で付加価値をつけて生き残っていかなければならないのではないか、と自問自答の日々である。
 

●第10回へ続く

(05.08.17)

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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