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REVIEW
CD NAVIGATION[早川優]

第11回
「劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者 オリジナル・サウンドトラック」
ハガレンの物語世界を総括する大島ミチルのスコア!
〜劇場版のために書き下ろされた「鋼」の集大成となる楽曲を完全収録!!〜

 『鋼の錬金術師』は、ポルノグラフィティ、L'Arc〜en〜Cielら実力派のJ-POPアーティストが提供した主題歌を筆頭に、音楽的にも多くの幸福な出会いを重ねてきたシリーズである。そのサウンドトラックの核を成すのが大島ミチルによるスコアだった。大島は舞台となる世界の空気感と肌触りを表現すべく、クラシカルな管弦楽の書法を用い、演奏をモスクワ・インターナショナル・シンフォニック・オーケストラに委ねた。その成果はテレビ版の3枚の音楽集にまとめられ、多くのファンに好評をもって迎えられている。
 そうしたTVシリーズの音楽的成功を受け、番組の最終回を受けた後日談として描かれた劇場版の音楽設計は、『鋼錬』スコアの総決算的な色合いを帯びることになった。
 もちろん、映画版でも耳に馴染んだ幾多のモティーフが再び奏でられる。エドのここぞという活躍シーンで高らかに鳴る錬金術のテーマは嬉しいし、建設業を営むアームストロング登場シーンで流れる異国風の「街路」テーマなど、いずれも絶妙の采配でファンの耳を楽しませてくれる。
 一方、前述のL'Arc〜en〜Cielは2曲の主題歌「Link」「LOST HEAVEN」を提供。物語のテーマに沿った両曲はオープニングのタイトル・バックと、エンディングのクレジット・ロールに使われている。hydeのペンによる両曲の歌詞の物語とのシンクロ度も高いだけに、これらがサントラ・アルバムに未収録というのは、ちと残念である。
 あらかじめメニューに沿って汎用性のある音楽を録音するTVシリーズと異なり、映画の音楽はひとつひとつのシーンに合わせて作曲・演奏が行われるのが常である。本作も例外ではなく、水島精二監督と三間雅文音響監督によって音楽プランが立てられ、大島はこれに従って作曲を進めた。その注文がいかに細やかなものだったかは、サントラを聴くだけでもよく伝わってくる。
 今回のサントラのトラック数は非常に多い。TVの『鋼錬』アルバムに比較して短めの、10数秒から30秒という演奏時間の音楽がざっと40数曲。通常のサントラ盤であれば、何曲かをまとめて1トラックに仕立てることもよく行われるが、ここでは潔く各キュー(映画音楽のダビング用語における楽曲)をそのまま手を加えずに収めている。このストイックに惚れた。筆者も映画を一度見た限りなので100%の確証はないが、アルバムには映画の全楽曲が使用順に収録されているようだ。
 さらに感心させられたのはその曲名である、映画鑑賞前にサントラを聴く方にストーリーのネタバレを招いたり、その楽曲が流れる場面を下手に想像させたりしないよう、すべて英語でタイトルづけされていることである。例えば『さらば宇宙戦艦ヤマト』のサントラに「古代と雪、超巨大戦艦への特攻」などというタイトルの曲があって、それを映画鑑賞前に目にしてしまったとしたらどうだろう。本作のサントラの曲名の配慮は、ファンへの心遣いが感じられるものだ。
 さて、お馴染みのモティーフが要となる箇所にちりばめられている他、今回の作品の特徴的な音楽的要素がふたつある。ひとつは、今回の作品の舞台が我々の世界のドイツ……このあたり、『鋼錬』の世界をパラレル・ワールドと位置づけた脚本の會川昇の着眼点の勝利だ……それも、第二次大戦前夜であるという点を受けての趣向。エドの故郷となる世界をロシアのオケならではの音色と個性がマジカルに彩っていくのに対し、こちらは暗い現実世界の質感を担う必要があった。戦争前夜のドイツ人民の心に跋扈したナチズムを表現すべく、大島は混声合唱を取り入れた重く沈鬱なモティーフを設定。これが映画全体の通奏低音の役割を果たす。
 もう一方は、故郷から飛ばされたエドの立場を、やはり国家を持たないジプシーに準えるという映画の構造ゆえに要求された音楽要素だ。まさに心はジプシーといったテーマに対し、大島が選んだのはケーナやウードなどの個性的な民族楽器を取り入れたワールド・ミュージック的な書法だ。ジプシーの娘・ノーアの心情曲「Soul Slides Away」などは、聴いていて思わずハッとなるような鮮烈な音の輝きを放っている。この録音セッションは日本でなされたが、各楽器の音の粒立ちも明瞭な高品質録音となっている。
 音楽設計のこの部分に関しては、冒頭でジプシーたちの歌う現実音楽として使われたFerenc Snetberger書き下ろしによる「KELAS (LET'S-DANCE)」も見逃せない。「KELAS」は裏の主題歌と言えるほど、ジプシーの未来透視よろしく作品の終着点を暗示する効果を上げているが、これと呼応する大島のスコアが「Requiem」。本曲こそ、本作のテーマと本質を集約した渾身の楽曲であり、これが流れたエンドシーンでは、その設計の奥深さに全身鳥肌が立つのを禁じ得なかった。
 普段は映画のサントラ盤は作品鑑賞後に聴くことに決めている筆者だが、今回はこの原稿を書く予定があったこともあって、映画を観る前にサントラを通して聴いた。が、先の英語タイトルの恩恵もあって、大まかな映画の流れのイメージは掴めこそすれ、ネタバレになることは一切なかった。その上で音楽の構成やメニューは頭に入っていたので、映像と音楽が合体することで起こる化学反応のあれこれを吟味しつつ映画を楽しむことができた。ドイツ兵に追われるノーアを救うシーンの演出と一体化した「Automated Right Arm」の高揚感や、エドとアルとの束の間の再会の場の「Harmonized Feeling」の切なさ等々。
 そして、映画を観終わった後で改めてサントラを聴くと、映画の細かい場面が自分でも驚くほどに脳裏に蘇ってきた。これはサントラによる良い意味での予習復習効果であり、至極当たり前のコトなのだが、サントラの醍醐味を改めて実感した次第である。
 映像に付帯していた音楽を単体で聴くことで、映画自体を観返す場合とは異なった追体験が行われる。この状態を経た上で作品に立ち返る時、表面的には描ききれない人物の心情や、シーンの奥底に隠された意味合いなどの滋養をたっぷり含んだ音楽はより鮮明なものとなって、作品のより深い鑑賞への案内者となる。だから私は思うのだ。サントラはいいねぇ、と。
 音楽がもつ効果はそれほど絶大なのである。『鋼の錬金術師』の熱狂的な追跡者ではなかった筆者でも、映画の鑑賞中には落涙を押さえるのに苦労した。熱心なハガレン・ファンの皆さんであれば、この音楽の魔法力はさぞかし絶大な働きをしたことだろう。
 本作の劇場での上映はほぼ終了している。が、映画をすでに観た方も観逃した方も、大島ミチルがエドやアルたちへの限りない共感を等価交換して作り出した高純度のサウンドトラックを、DVD発売までの復習・予習としてとことんまで味わってほしい。 (文中敬称略)
(執筆/早川 優)

■DATA
劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者 オリジナル・サウンドトラック
全46トラック 収録時間:65分7秒
ANIPLEX SVWC 7270
2005年7月20日発売 定価3150円 (税込)
[Amazon]

■執筆者からの一言
 ハガレンと同じくANIPLEXさんが音楽制作を行う『交響詩篇 エウレカセブン』を手掛けている佐藤直樹さんは、今、最も注目を浴びる作曲家の一人だ。
 テレビも大ヒット中で劇場版第2作も控える『ふたりは プリキュア Max Heart』。今年上半期の邦画中でも最大の話題作だった「ローレライ」。そして、TVシリーズを経て劇場版第2作に期待が高まる「海猿」など、スケール感のあるオーケストレーションと胸を打つメロディ・メイクで、そのファンは急増中である。
 かくいう筆者もその一人。島本和彦『逆境ナイン』の玉山鉄二演じる不屈闘志がメンバーを危機から救うべく疾風怒濤の活躍を続けるシーンで、彼のマカロニ風テーマ音楽がワンダバ・コーラスをともなって鳴り響いた時は、至福の映画音楽的快感に酔いしれたものだった。
 先日、その佐藤さんの『エウレカセブン』の追加録音の現場を見学させてもらう機会に恵まれた。追加分の音楽は、大編成のオーケストラが奏する豊かな響きを第一義とするものだった。
 初めて拝見した佐藤さんの音楽録音の進め方は、とても繊細なものだった。佐藤さんは調整卓から細やかな指示を指揮者の方へ出される。最初は演奏者の所見に任せたリハーサルを行い、それを受けて細部に修正を加えていくのだ。場合によっては微妙なニュアンスだけでなく、ハーモニーの効果を高めるために音符を変えることもあった。
 たとえば弦とオーケストラが豊かに歌うM-53という楽曲は、当初は強弱に大きなメリハリをつけない形の演奏だった。これをメゾピアノの入りから次第に高まり、再び消え入るように閉じられるという劇的なスタイルへと、現場で形を整えていく。指揮を受け持つ■島公二(■はくさかんむりに配)氏も要求に即応してオーケストラを率いていく。その結果、リハで演奏されたものとOK分とでは、まったく聴いた印象の異なる仕上がりになった。
 レコーディングで音を作り込んでいく、録音芸術としての映画音楽の神髄に触れたような思いだった。
 その次に演奏されたM-54/61は、打ち込みによるパーカッションに乗った勇壮感ある旋律が印象的だった。自分が映画に提供する音楽には定まったスタイルはなく、スタッフからの要求に応じたものを提供するだけ、と発言されている佐藤さんの職人気質は気持ちいい。が、そうした中に着実に佐藤さんならではの、人の心を捉えて止まない熱情的な楽音の香りは形成されつつあるように感じられた。
 待望の『エウレカセブン』のサントラは、アニプレックスより11月2日にリリース予定。追加録音曲の収録は来年発売予定のセカンド・アルバムになるという。今から本当に待ち遠しい。
 末筆ながら、ミーハーな見学者を寛大に迎えてくださった佐藤さんご本人をはじめとする『エウレカセブン』音楽チームの皆さんと、録音取材をご案内くださった劇伴倶楽部の腹巻猫氏に感謝します。
 

●第12回へ続く

(05.09.15)

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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