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REVIEW

CD NAVIGATION[早川優]

第32回
「BLACK LAGOON ORIGINAL SOUND TRACK」
疾走感とアンビエントな響きで構築されたバトルチューン


 すでに第2シーズンの制作も進行中のアクション作『BLACK LAGOON』。そのサントラが、DVD第2巻のリリースに合わせてついにお目見えした。音楽担当は『勇者指令ダグオン』などを手がけたEDISON。正直、最近は名前をアニメの分野で見る機会が少なかっただけに、本作の仕上がりの高さは嬉しいし、その音作りの実力を改めて実感した。ここでの采配は、アクション・シーンをドライブ感あふれるロックンロールで、心理・情景描写をアンビエントなアコースティック・サウンドで、と明確な2本柱を立てての設計。こと作品を観る限り、派手なアクション描写とともに鳴る前者の要素に耳を奪われがちだが、こうしてサントラとしてまとめられた形でじっくり耳を傾けてみると、後者の静かな響きが実に細やかな神経で作られており、作品に流れる独特の異国感を醸し出していることに気づかせられる。
 アンビエントな響きのスコアに注目してみると、「Tear Drops to Earth」では中心となる響きは各種ギター系楽器と、ピアノ系シンセによって組み立てられている。楽曲によってはマリンバの音が合いの手として加わり、フォークロア調のメロディが美しいロベルタのテーマ「El Sol se Recuesta」におけるアコースティック・ギターの二重奏に至るまで、撥弦楽器の音色がスコア全体の主要な要素になっている。本作が海を主要な舞台とした作品であることを考え合わせると、これら立ち上がりの鋭い音が、あたかも水面に落ちる水滴が波紋を広げるがごとくイメージを伝えてくるのは面白い。快調に海上を進むブラック・ラグーン号の姿を想起させる「Seasonal Wind」でメロディを務めるケーナ風の素朴な音色や、『ファインディング・ニモ』「アメリカン・ビューティー」などの米国人映画音楽作曲家、トーマス・ニューマンが得意とするパーカッションの積み重ねで独自の音空間を作っていく手法をちょっと思わせる「Tadpole Dance」もいい。
 もちろん、アルバムの最大の聴きどころがロック系チューンにあることは論を待たない。戦闘音楽のメインメニューであるデジ・ロック「Don't Stop!」はアルバムの開幕早々から脳天を刺激してくれるし、サイケ味をたたえた渋いファズの音色も心地よい「Don't Let Me Join Now」から、アンニュイな「Foxy Doll」、バトル・チューンの「Rock the Carnival」へ続いていくアルバムのクライマックス感もゴキゲンだ。
 主題歌「Red fraction」のTVサイズ、エンディング・テーマの「Don't Look Behind」はもちろんのこと、第5話「Eagle Hunting and Hunting Eagles」で強烈なインパクトを残した挿入歌「白人社会主義団結党党歌」が収められているのは嬉しい。聴き込むほどに、また作品を観返したくなる好盤である。
 なお、作品の公式サイトの「制作日記」ブログには、片渕須直監督が音楽についても現場ならではの視点から書き込みされていて興味深い。同盤を手にされるファンの方であれば釈迦に説法とは思うが、是非ともCD鑑賞時には参照されたいと思う。
(執筆/早川優。文中敬称略)

■DATA
「BLACK LAGOON ORIGINAL SOUND TRACK」
全98トラック 収録時間:64分07秒
ジェネオン エンタテインメント
GNCA-1102
2006年8月30日発売 定価3000円(税込)
[Amazon]

■執筆者から一言
 汐留の日本テレビ・日テレPLAZAへ、公開終了間際の岡本太郎の壁画「明日の神話」を観に出かけた。メキシコのホテルのロビー用に描かれ、ホテルの建設中止とともに行方がしれなくなった幻の壁画に、よもや対面できる日が来るとは感無量である。
 広島・長崎の原爆被害を主題にしつつ、その災厄の中から狂おしいほどのエネルギーをもって再生する人間の姿を捉えた作品は、残されていた4点の原画で馴染みのものだったが、やはり、修復された実物が訴えかける力は凄い。修復を手がけた吉村絵美留が腕を振るい、鮮やかに甦った色彩は目に痛いほどだし、画面中央の骸骨がレリーフとして浮き出している効果はやはり絶大である。
 岡本にとって大阪万博の「太陽の塔」と同時期の作品ということもあり、両者間に様々な点で共通性を見出すファンは多い。かくいう私も試みに「太陽の塔」の内部展示のための音楽をiPodに入れて持参し、鑑賞中のサウンドトラックとして流すことを試みた。作品の展示場所が日テレのイベント広場で、周囲の音が喧しいということも、それを思い立った理由の一つだったが。
 さて、音楽を流してみると、黛敏郎の「生命の讃歌」(太陽の塔・塔内展示の音楽)もさることながら、松村禎三の「祖霊祈祷」(同・地下展示)がしっくりきた。松村のバーバリズムあふれるパーカッションと男性コーラスの饗宴は、「明日の神話」をさらに立体的に味わう一助となってくれた。
 観覧の翌日、絵から放射するパワーを受けすぎたか、高熱で断続して寝込むことになってしまった。どうやら、これがアラーキーの言う「太郎熱」らしい。
 

●第33回へ続く

(06.09.11)

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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