web animation magazine WEBアニメスタイル

■第20回
■第21回
■第22回
■第23回
■第24回
■第25回
■第26回
■第27回
■第28回
■第29回
■第30回
■第31回
■第32回
■第33回
■第34回
■第35回
■第36回
■第37回
■第38回
■第39回
■第40回

 
REVIEW

CD NAVIGATION[早川優]

第29回
「Ergo Proxy OST opus01」
池頼広のスコアは「ロムド」に漂う香水のごとく


 現代の日本のアニメーションにとってサイバーパンクは一つのお家芸となっている作品ジャンルだ。WOWOWで放映中の『Ergo Proxy』は、ゴス的な趣向で纏められたヒロインの造型、緻密に構築された未来の管理社会の世界観、そして、タイトルに象徴される哲学的テーマの隠し味もあって、類似の作品と一線を画す個性の発揮に成功している。
 音楽担当は、ベーシストとしての顔も持つ作・編曲家の池頼広。本コラムにて紹介済の『BLOOD+』では、ハリウッド・コンポーザーと日本の現場を繋ぐ助っ人に徹していた池だが、ここでは自身の個性をフルに発揮したスコアを聴かせてくれる。『かみちゅ!』『BLOOD THE LAST VAMPIRE』などのアニメ作品の他、「女王の教室」「野ブタ。をプロデュース」など日本テレビ土曜9時台のドラマの音楽で、その映像音楽作曲者としての名は大いに高められた感がある。
 そんなドラマの仕事では、欧州の映画音楽を思わせるメロディを小編成のオーケストラで鳴らすという試みもあるが、本作の音楽は全編シンセを用いたソリッドな仕上がり。といってもサウンド志向に偏ることなく、ゆったりとした旋律にエッジの効いたリズムが常に寄り添って、デジタルなグルーヴ感を一定して醸し出しているあたりが、優れたプレイヤーでもある池ならではの個性だろう。
 日本のTVアニメでは、前もって音響監督の発注メニューに沿った作曲・録音が行われることは周知の事実だが、選曲方式ならではの音楽と映像との予期した以上の相乗効果を上げることも少なくない。画面の完成後に音楽を書く方が、映像と音楽の結びつきは堅牢なものになることは確かだが、画面の切っ掛けに囚われ過ぎることで、音自体の力が削がれてしまう例は多い。『Ergo Proxy』の1枚目のサントラに収められた楽曲は、いずれも画面と切り離されても単独で成立する完成度を保っており、ある意味で選曲方式の旨味を最大限に活かす形に作られていると言えそうだ。
 実際の作品の選曲を見ると、音楽の使い方は実にストイックで、本当に限られた場所にしか入れていない。第1話などは、ほとんど1曲だけだったように記憶する。が、逆に音楽の流れる瞬間は真に効果的なものになっている。また、作品の主要舞台となる「ロムド」の情景に通奏低音のように流れる池の音楽は、単なるBGMとしてのサウンドトラックの役割を超えて、未来の管理社会の空気を直に表現するものとなっていた。
 今回のアルバム収録曲では、中世の教会音楽を思わせるコーラス使いが神々しい「new pulse」「Fellow Citizens」(後者の前半は予告用音楽)、ヒューゴー・ガーンズバックの古典SF小説のタイトルを引用した第7話サブタイトルと同題の「RE-L124c41+」における重層的リズム感、ストリングスによるクールなメロディとシンセのリズムが最高に心地良い空間を描出する「centzontotochtin」などが光を放っている。
 第3話から使用されたオープニング曲「kiri」の収録は当然として、監督の村瀬修功、脚本の佐藤大のたっての希望でエンディング曲としての使用が実現したというRADIOHEADの名曲がしっかりトリを務めてくれるのは嬉しい。それにしても「PARANOID ANDROID」とは曲名からして、まるで本作のためにあつらえたようなナンバーではある。
 その後の映像作品における未来社会の描写を一変させた米映画「ブレードランナー」等の作品に愛着を抱き、そうした作品に流れるシンセ系の音楽に懐かしい響きを感じ取ったと語る池。本作の音楽にもノスタルジックな響きを取り入れることに専心したという。早くも7月21日にリリース予定の第2弾アルバムが楽しみだ。
(文中敬称略。執筆/早川優)

■DATA
「Ergo Proxy OST opus01」
全19トラック 収録時間; 60分42秒
ジェネオンエンタテインメント GNCA-1078
2006年5月25日発売 定価3150円 (税込)
[Amazon]

■執筆者から一言
 ギックリ腰の再発でしばしのお休みを頂戴してしまいました。仰向けに寝ることすらままならず、靴下ひとつ履くことに一苦労。部屋の中の書籍やCDの山を見るにつけ、資料出しのための日常作業となっている荷物の移動が腰にかける負担を考えると、バリアフリーな収納環境の構築が急務であることを思い知った今日この頃であります。
 

●第30回へ続く

(06.06.29)

 
  ←BACK ↑PAGE TOP
 
   

編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
Copyright(C) 2000 STUDIO YOU. All rights reserved.