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第26回
「おもちゃのチャチャチャ 越部信義の音楽」
2枚のディスクにたっぷり詰まった越部音楽の精髄を聴けっ!!
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「おもちゃのチャチャチャ」は、日本の「イッツ・ア・スモール・ワールド」だよなぁ。CDの冒頭を飾る同曲の日本語、英語、中国語歌詩による3連発を聴いていて、そんな思いを新たにした。
高度経済成長期に育った日本人にとって「おもちゃのチャチャチャ」は、生まれた時にすでに存在した名曲。越部信義という作曲家を知らずとも、この曲がフジテレビの音楽番組「ヤマハ・タイム」から生まれた事や、作詩を手がけたのが作家の野坂昭如である事を知らずとも、「おもちゃのチャチャチャ」は耳にした事があるはず。ある意味で国民的な愛唱歌である。
一方で、越部信義の名前に特別な感情を抱くアニメ・ファンは、もうロートルの範疇に入る世代に限定されるだろう。筆者の個人的な越部音楽体験を紹介させていただければ、『マッハGoGoGo』『昆虫物語みなしごハッチ』等のタツノコ・アニメでその存在を知り、遡って『鉄人28号』における至極の名曲「進め正太郎」も越部の作だった事に気づき、やがて、新時代のアトムとして華々しく登場した『ジェッターマルス』の夢のような音楽にノックアウトされる……という流れだった。
今回のCDは、越部信義の仕事の全貌を広範囲にわたって発表してきた歌曲を中心にまとめた画期的な企画である。越部は子供の音楽の分野で優れた創作活動を続けてきた功績により2004年度の第39回エクソンモービル児童文化賞を受賞。本盤にはそれを記念する意味合いが込められている。
アニメ音楽ファンが抱く越部信義のイメージは、歌心にあふれる上質なアニソンや“子どもの歌”を作らせたら右に出る者のない名匠とでも表現できるだろうか。『紅三四郎』等の初期作品を別にすれば、くだんの『ハッチ』をはじめ、『けろっこデメタン』『風船少女テンプルちゃん』と、タツノコでも優しげなファンシー路線の作品を専ら手がけてきた事も、そんなイメージの醸成に一役買った。逆に言うと強烈な個性を発揮する作品が少ない分、マニア層は別にして広く一般のアニメ・ファンの注目を集める機会は少なかった。ある意味で知る人ぞ知る、いぶし銀のごとき魅力を備えた越部の音楽世界が作品集にまとめられた事は、本当に1人のファンとして本当に喜ばしい。
アルバムは2枚組。ディスク1は子どもの世界、ディスク2は叙情の世界とそれぞれ題され、ディスク1にはアニメーションや「おかあさんといっしょ」などの子ども番組のために作られた歌曲が、ディスク2には「みんなのうた」の楽曲を皮切りに、映画や舞台ミュージカルのレアな音源も織り込みながら、越部ならではのロマンティシズムあふれるナンバーが取り揃えられている。
本稿としては、まずはディスク1のアニメ主題歌のセクションに注目せねばなるまい。アニメセクションは「進め正太郎」(CDのインデックスには本曲に歌がなかった時期からのタイトル『正太郎マーチ』として記載)からスタート。サンデーコミックス時期からの“遅れてきた”鉄人ファンである筆者でも、この曲にはテーマ・ソング以上の思い入れがあるし、耳にする度に鉄人の活躍に燃えた少年時代にタイムスリップして血湧き肉躍る気分にさせられる。筆者同様にこの曲に思い入れのある向きは多く、庵野秀明監督は『彼氏彼女の事情』の粗筋紹介のバックで驚きの選曲をしてみせたし、新作のアニメ・シリーズでも効果的に使われた事は記憶に新しい。
続いてはタツノコ・コーナーとなり、『マッハGoGoGo』(こだわりのSE入りTV用音源を収録)、『紅三四郎』初期主題歌(ミッチ歌唱の新主題歌は演歌の大御所・和田香苗の筆)を皮切りに、『ハッチ』『樫の木モック』『デメタン』の主題歌が矢継ぎ早に繰り出される。改めて並べてみると、タツノコ感動路線作品はコロムビアの学芸部が誇る少女歌手たちの独擅場だった事に感銘を受ける。島崎由理がハスキーに歌う「ハッチ」、小野木久美子の清楚な「モック」ときて、ミッチこと堀江美都子が満を持して「デメタン」で登場すると、コロムビア・アニソン黄金期のパワーに圧倒されて目眩を覚えるほどだ。さらに、嬉しくも日本テレビ動画版『ドラえもん』の主題歌を挟んで、『テンプルちゃん』のエンディングで大杉久美子が堂々の存在感を聞かせるといった具合。
この他、ディスク1には、1960年代に幼少時を送った者なら感涙必至のNHK「うたのえほん」「なかよしリズム」初出の名曲群や、屈指の人気を誇ったぬいぐるみ劇「にこにこぷん」放映時期を中心にした「おかあさんといっしょ」名曲選、ミッチと兄貴がそれぞれコロムビアでカバーした「ひらけ!ポンキッキ」の「はたらくくるま1」「ぼくは電車」まで、越部の卓越したソング・ライティングの技術を堪能させてくれる楽曲がズラリと並ぶ。
2枚目の「叙情の世界」は、これまた高度経済成長期のキラキラ輝いていた日本の真っ直ぐな未来への夢が結晶した名曲「地球を七回半まわれ」をトップに据える素晴らしい構成。1965年の作曲だが、後年「みんなのうた」で流れた際の、手塚キャラが乗り込んだオープンカーが走り回るアニメも思い出深い。その他、毛利厚によるアーティスティックな表現のアニメが浮かぶ、イカロスの神話に材を採った「勇気一つを友にして」他の「みんなのうた」絡みの曲をはじめ、先にも記したようなミュージカルや各種企画のためのレアな楽曲もたっぷり詰まって、最後の1秒まで楽しませてくれる。筆者的には、ギリギリ小学校卒業間近の運動会で耳にしたコロムビアの運動会用教材曲「ゆかいな仲間」が猛烈に懐かしかった。「進め正太郎」に始まり「マルスのマーチ」へと続く、明朗快活な越部マーチの系譜に連なる傑作である。また、運動会用の教材曲として作られた「クラリネット超特急」等のインストゥルメンタル曲も、聴く者の心をときめかせずにおかない心地よさだ。
かように本盤は、ベスト・オブ・ベストの越部ミュージックが満載された音のおもちゃ箱。アニメ関連曲の収録比率は全体の1/5弱ほどだが、アニソン・ファンには是非とも越部の豊かな音楽世界を堪能してもらいたいと思う。そして、筆者としては、次なるステップとして『サザエさん』に代表される越部の背景音楽の発掘も進めてほしい、などと欲をかいてしまうのである。
(文中敬称略。執筆/早川優)
■DATA
「おもちゃのチャチャチャ 越部信義の音楽」
DISC 1
全32トラック 収録時間:76分30秒
DISC 2
全24トラック 収録時間:76分32秒
越部信義音楽事務所(企画・販売)
コロムビアミュージックエンタテインメント(製造)
SOLID RECORDS(発売) GES-13097→98
2005年11月19日発売 定価4000円(税込)
[Amazon]
■執筆者から一言
相変わらず新作が多く、アニメだけに限ってもすべての作品の音楽をチェックする事は不可能に近い。発掘リリースされる旧作洋画サントラも追いかけるのがやっとというありさま。増える“積ん読”CDを横目に見つつも、「スーパー少年 ジョー90」の公式サントラCDが英国から届くのが待ち遠しい今日この頃である。
さて、本稿の次回更新では、今回紹介したCDに関連した特別編を企画している。お楽しみに。 |
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