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REVIEW
CD NAVIGATION[早川優]

第8回
「YUJI OHNO “Yuji Ohno, You & EXPLOSION Band-Made In Y.O.-”」
大野雄二が、豪華ゲストとともに代表作を新録音した初のベスト・アルバム!!
〜あの頃、いつも僕らの耳には大野サウンドが響いていた〜

 これぞ、マスト・アイテムというべきだろう。
 アニメ・ファン、いや一般の音楽ファンの間にも『ルパン三世(新)』の音楽を作曲した人物としてつとに有名な大野雄二の映像音楽を中心に編んだベスト盤である。『ルパン三世』のOPテーマ、ED曲「ラヴ・スコール」をはじめとして、『カリオストロの城』の主題歌「炎のたからもの」『キャプテン フャーチャー』『スペースコブラ』『マリンエクスプレス』といったナンバーがインデックスにズラリと並ぶ樣は誠に壮観。しかも2枚組! 演奏者名義もズバリ、“You & EXPLOSION Band”ですぜ、お兄さん。ユー・アンド・エクスプロージョン・バンド! この響き、涙チョチョ切れるねェ。
 このアルバムは旧音源を集めたものではなく、全曲、新録音によるセルフ・カバー集になっているところがポイントだ。大野の映像音楽の聴きどころをまとめたアルバムがリリースされるのは意外にも初であり、旧音源のコンピでも相当な需要は見込めたはずだが、あえて安易な道を選ばず、お金も時間もたっぷり遣ってリーダー・アルバムを仕上げたのは、作曲家であると同時に昨今はジャズ・プレーヤーとしての演奏活動に力を注ぐ大野の面目躍如たるところだ。
 一時は作曲に専念するために自ら遠ざけていたというジャズ・ピアニストの顔。近年の大野は、作曲の仕事は『ルパン三世』など継続している仕事などを除いてほとんどセーブ、プレイヤーとしての活動に足場を移している。ほぼ連日のように都内のジャズ・クラブへのピアノ・トリオで出演(時折、客席には一ファンとしてグラスを傾けつつジャズに浸る出崎統監督のカックイイお姿も!)する傍ら、今やホームグラウンドとなったVAPから『ルパン三世』をキーワードに、時にクールに時にホットに大野ジャズを聴かせる「LUPIN THE THIRD JAZZ」シリーズを定期的にリリース。近年の大野の創作姿勢は、「映像音楽」という言葉があるとして、「映像」と「音楽」の比重が、若干後者に移ったものと捉えると分かりやすい。その割り切りは、本来、その音楽自体が映像に勝るとも劣らぬ存在感を示していた大野の音楽に、再び力強いパワーを漲らせる切っ掛けとなった。
 その成果は、たとえば毎年のTVスペシャル版『ルパン三世』の音楽に明らかだ。一時期は画面の展開に音楽を執拗に合わせることに専念するあまり、音楽自体の自由度が失われていた部分は否めなかった。これが「LUPIN THE THIRD JAZZ」シリーズを経た2001年の『アルカトラズ・コネクション』あたりからガラッと様変わりした。全体の音楽を過去のスペシャルの音楽ストックを交えた選曲方式として、新録音分は新作が要求する特有テーマに絞ることで、音楽はそれ自体の輝やきを強める結果となったのだ。
 過去をいたずらに振り返らないことでも知られる大野。その大野が、自身の集大成を、周囲の声に気を配りつつ最大限ファンの希望に応えた形のベスト選曲で自ら綴るのだ。これで興奮するな、というのは無理な話。
 さて、アルバムでは再演奏についても趣向が凝らされている。
 まず、『ルパン三世』関連の楽曲など、比較的オリジナルのテイクが手に入りやすいものについては、意外な人選のゲスト・プレイヤーを交えて遊び心一杯に大きく変化させたアレンジを施す。一方、NHKの朝の連続テレビ小説「マー姉ちゃん」(長谷川町子の自伝のドラマ化した作品という意味では、これも本コラムの読者に無関係ではあるまい)などの入手が難しいものは、ソリストを含めてオリジナルに近い編曲を行うというもの。これによって、アルバムの幅はぐっと広がった。2枚組の構成が時系列ではなく、あくまでコンサートのセット・リストを最大限効果的に組むような音楽的な効用を重視した並びになっているのもいい。
 CDは、数ある「ルパン三世のテーマ」のヴァリエーションの中から、ビブラフォンが効果的にメロディを取る最もジャズィな「'80」の“2005 VERSION”(ややこしい)で開幕する。放映されたばかりの最新TVスペシャル『天使の策略 〜夢のカケラは殺しの香り〜』のテーマとしても使われたテイクだ。続いては一世を風靡した勃興期の角川映画3部作から、「野生の証明」の主題歌「戦士の休息」。ここでソロ・ヴォーカルを務めるのは、何と石井竜也(ex.米米CLUB)だ。改めて石井の表現力と存在感を感じさせる素晴らしいテイクに聞き惚れた後には、1980年代をアニメ・ファンとしてブラウン管を友達に過ごした世代人であれば、懐かしさに身をよじらせること必至のオンワードのCM曲「ミスティ・トワイライト」。さらに、前述の最新TVスペシャルの新曲にも参加したシンガー・DOUBLEによる「ラヴ・スコール」のカバーと続き、至福の内に2枚のアルバムを聴き終えてしまう。
 聴きどころは本当に満載だ。ソロ楽器を三味線に換え、より和的なミステリー・サウンドに仕上げた「犬神家の一族」のテーマ音楽。サーカスが絶妙のコーラス・ワークとハーモニーを聴かせる『スペースコブラ』の「シークレット・デザイアー」。タケカワユキヒデを再びフィーチャーした『キャプテン フューチャー』の「夢の舟乗り」。同じくタケカワと、オリジナル・シンガーのトミー・スナイダーによるダブル・ヴォーカルで、気分は正調ゴダイゴ・ヴァージョン状態の『マリンエクスプレス』などなど、はっきり言って全曲が聴きどころと断言して差し支えない。個人的には変わらぬグルーヴに満ちた「大追跡」のテーマや、初期「24時間テレビ」のメイン・テーマ音楽に心躍らされた。演奏時間12分を超える新作のジャズ組曲「Made In Y.O.」も必聴もの。
 ブックレットには山本圭三による作品解説を完備。外装紙箱にCDケースと別に同包される写真集には、セッションの間に多彩なプレイヤーと大野とが見せた表情を追った素敵な写真が満載されている。
 大野は3ヶ月にわたってライブ活動を封印してレコーディングに当たり、この仕事を見事に完成させた。次なるステップとして、フル・バンドを率いて代表作を演奏するコンサート・ツアーが企画されたら本当に素敵だ。
 さて、この充実作を前にした時、オリジナル音源によるベスト盤も欲しい、などという野暮はとても口に出せない。筆者としても、まさに一生ものの宝である。本稿をご覧の諸兄には、何はともあれ真っ先に手に取っていただきたい必携盤だ。
(執筆/早川 優)

■DATA
YUJI OHNO “Yuji Ohno, You & EXPLOSION Band-Made In Y.O.-”
DISC1
全10曲・12トラック 収録時間:53分56秒
DISC2
全10曲・10トラック 収録時間:45分53秒
VAP VPCG-84811
2005年7月21日発売 定価各5000円 (税込)
[Amazon]

■執筆者からの一言
 先日、怪獣友達で選曲の宮葉勝行さんのご好意で、「魔法戦隊マジレンジャー」の劇場版「インフェルシアの花嫁」の音楽録音を見学させていただいた。たとえCDの構成という大義名分がある時でも、直接作品に関係のない――オタク・ライターとして録音スタジオへお邪魔する時は申し訳ないオーラ全開なのだが、今回は本当にご好意での見学。何かの機会を見つけてサントラと映画をPRしないと、単なる物見遊山に終わってしまうため、この場をお借りしてちょびっとご報告する次第。
 音楽の山下康介さん、より編成の大きいオーケストラを受けて、TV版以上にダイナミックに鳴らしまくる。定番音楽のバージョン・アップ版は言うに及ばず、耳にするだけでついつい一緒になって見栄を切ってしまうアクション・テーマが、本作でのシチュエーション曲に流れていくくだりなど、画面展開に完璧シンクロした音楽は、映画音楽ならではの醍醐味を味わわせてくれる。
 ラブ・テーマのピアノ演奏には、ゴージャスにも山下氏の師匠であるハネケンこと羽田健太郎さんを起用! 旋律を独自の装飾音で膨らませて仕上げていく様は、本当に名人の技を垣間見た思いだった。
 劇場版「戦隊シリーズ」の音楽が完全に画合わせで録音されるようなった歴史は実はまだ浅く、2002年の「劇場版 爆竜戦隊アバレンジャー DELUXE アバレサマーはキンキン中!」から。宮葉さんも、TVのお馴染みの音楽をどこでどう使うかなど、メニュー書きがひときわ楽しいと語る。これも、劇伴を愛して止まないコロムビアの八木ディレクターの頑張りのお陰だろう。
 アニメと映画音楽を愛する皆さん、是非、今年も戦隊音楽を聴きに劇場へ! サントラも忘れずに買ってちょ。

■執筆者からの一言 オマケ編
 TBSテレビ放送50周年記念・戦後60年特別企画「ヒロシマ」を観た。劇中に流れる音楽は久石譲の手による。番組中繰り返し用いられる主要テーマの旋律には、『千と千尋の神隠し』のメイン・テーマが使われた。あの曲が「あの夏へ」という題名だったことに気づいたとき、底知れぬ優しさの裏側の哀しさが溢れる旋律の力と相まって、落涙するのを禁じ得なかった。
 クロージングでは、このメイン・テーマに詩を乗せた「いのちの名前」(『千と千尋の神隠し』のシングルCDのカップリング曲が初出で、オリジナル・シンガーは木村弓)を、癒し系のヴォーカリストとして絶大な支持を集める平原綾香が歌った。映画音楽が一つのスタンダードとなり、オリジナルに込められた意味合いを踏まえた上で別の場所で高い効果を挙げることはままあるが、近年の日本の作品でそれが実現したことは嬉しかった。とくに、有名な「いつも何度でも」は優れた曲と認識しつつも、本来的には「いのちの名前」こそが『千と千尋』という作品を締めくくるに相応しい楽曲と固く思っていた者としては、この名曲が新たな居場所を見つけたことに感動させられたのだった。
 

●第9回へ続く

(05.08.09)

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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