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REVIEW

CD NAVIGATION[早川優]

第27回
「BLOOD+ ORIGINAL SOUNDTRACK 1」
ハリウッドのメジャー作曲家の底力を体感させてくれる充実の1枚
〜重厚かつ壮大な楽曲と共にたどる、宿命の道程〜


 フル・デジタルでの制作作品として2000年に劇場公開された『BLOOD THE LAST VAMPIRE』を、装いも新たにTVシリーズ化した『BLOOD+』。そこに流れる音楽は、才能豊かなハリウッドの血に委ねられた。
 作家の名前はハンス・ジマーとマーク・マンシーナ。ジマーは今や、押しも押されぬ ハリウッドのトップ・コンポーザー。公開待機中の最新作には「ダヴィンチ・コード」にヒット作の続編「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」があり、「バットマン・ビギンズ」「サンダーバード」などジャンル映画の仕事も多い。アニメ部門を要するドリームワークスで音楽監督を務めていることもあり、フィーチャー・アニメーションのスコアも数多い。『ライオン・キング』以外には、『プリンス・オブ・エジプト』『エル・ドラド/黄金の都』『スピリット』『マダガスカル』等の作品がある。
 片やマンシーナは、ジマーにアカデミー賞作曲賞をもたらした『ライオン・キング』で挿入歌のアレンジを手がけるなど、ジマーのサポートを通 じて頭角を現わした。単独では「スピード」「ツイスター」などのアクション系の作品にインパクトのある楽曲を提供している。『ライオン・キング』以来ディズニー作品との繋がりも深く、フィル・コリンズが主題歌・挿入歌を担当した『ターザン』(グラミー賞を受賞)と『ブラザー・ベア』でスコアの作曲を行っている。
 ドリームワークスとディズニーという米国メジャー・アニメ・スタジオの音楽を多数手がける両者が、音楽プロデュース(ジマー)、作曲(マンシーナ)という形で参加することになった『BLOOD+』は、放送前の段階からサントラ・ファンの注目を集めていた。そして、“フランス編”がクライマックスを迎えるという絶好の時期に合わせて、ついに待望のサントラ・アルバムが発売された。
 果たして完成したアルバムは、1曲目の「Saya's Victory」(メイン・モティーフは予告編に流れる曲)から、ジマー率いる音楽制作グループ「リモート・コントロール」(かつてはメディア・ベンチャーズと呼称。以下RC)ならではのケレンとスピード感に打ちのめされずにおれない快作であった。
 ジマーは単独でも映画音楽作曲家として活躍するが、近年は上記のRC主催者としての側面 に注目が集まっている。最新のデジタル音響技術抜きには語れない現代の映画音楽では、昔日以上に複数の専門スタッフが関わる集団作業の面 を強くしている。それを早い時期からシステマティックに実践しているのがジマーなのだ。RCには多くの作家やアーティスト、エンジニアが参加しており、『STEAM BOY』を手がけたスティーヴ・ジャブロンスキーもその1人だ。
 ジマーのアクション音楽のスタイルは完全に一時代を築いてしまった感がある。それを言葉で表現するなら、大オーケストラの音圧とデジタルのビート感とを両立させた音楽、ということになるだろう。綿密に構築されたシンセのリズムが激しくビートを刻む中、生オーケストラが主に半音進行のヒロイックなメロディを逆にゆったりと奏していくというのが一つの黄金パターンで、これはデジタルFX全盛の現代のハリウッド大作の映像にこの上なくマッチした。一つの趣向が当たりとなると他も追随するハリウッドの傾向もあって、ジマーのスタイルはたちまちハリウッド・アクション音楽の典型となった。メロディが悲壮感のような味わいがあるのも、いわゆる“ジマー節”とされるものの特徴で、本人の「ザ・ロック」や、本人プロデュース、クラウス・バデルト作曲の「パイレーツ・オブ・カリビアン」(第1作)などは、その代表格といえるだろう。やがて、ジマーとRCの音楽スタイルは他国にも飛び火し、「シルミド」などの一時期の韓国のアクション映画はジマー流に染まってしまったし、我が国の佐藤直紀による「ローレライ」などは、あからさまにジマー的アプローチを狙った音楽設計だった。
 能書きが長くなってしまったが、本家ジマーとマンシーナを直々に招くという本作の音楽プランが、どれだけ画期的であり、かつ高い期待値を呼び起こすことだったかはお分かりいただけたと思う。もちろん、実際の放送では、全話でジマー=マンシーナによるアクション音楽が全開で奏でられるわけではない。それが、作品の掉尾にヒロイックなテーマを高らかに鳴り響かせられる劇場映画と違うところで、連続シリーズの場合はエピソードの連なりの中にクライマックスを配置していかねばならず、あるエピソードの見せ場では音楽をあえて弱めにつけることで、次のより大きな局面にテーマのメイン・ヴァージョンをぶつけるという演出が成り立ったりもする。
 そういう意味で、本作の放映開始直後は意外にジマー的な聴きどころが多くは見出せず、ファンからも「最もRC的なのは予告編音楽」などと揶揄する声が上がったこともあった。やがて、物語の舞台が沖縄からロシアへと移るに従い、ストック音楽の量 が潤沢になってきたのか、音楽の総体の大きさが次第に明確になっていくのだが。
 そして、満を持してサントラが登場した。ここには、ジマーとマンシーナが『BLOOD+』の音楽を手がけると耳にしたファンが期待する音楽のあり方が、期待度を何倍も上回る形で濃縮されている。先に記した小夜の闘士としてのメイン・テーマを核に、ハリウッド大作もかくやと思わせる激しい戦闘を主題とした音楽が次々に登場。ジマー、マンシーナのファンならずとも鳥肌ものの勝利のモティーフ「BLOOD+ Grand Theme」をクライマックスに、末尾はマンシーナ自身も気に入っていると語る清楚なアリア「Diva」が締めくくる。
 本盤を聴くことで、脳内にこれまで見続けてきた『BLOOD+』の物語が1本の劇場映画として鮮やかに再現されることだろう。
(文中敬称略。執筆/早川優)

■DATA
「BLOOD+ ORIGINAL SOUNDTRACK 1」
全15トラック 収録時間:46分38秒
Aniplex Inc. SVWC7345
2006年4月26日発売 定価3150円 (税込)
[Amazon]

■執筆者から一言
 『BLOOD+』の音楽プロデュースを依頼されたジマーは、当初、仕事を進めるに当たってフィルムができ上がってくるのを待っていたらしい。映画音楽の最前線で活躍してきたジマーにとって、フィルム・スコアリングは完成した作品の場面 尺に合わせて作曲するのが普通だった。アメリカではアニメを含むTVシリーズでも基本的に1話ごとに音楽を録る。日本のTVシリーズのために1話ごとに音を作る準備をしていたジマー、恐るべし。
 マンシーナは、あらかじめ書かれたメニューに沿って音楽を作曲・録音、これを選曲ではめていくという日本流のやり方に方向転換。ディズニー・スタジオで仕事をこなしてきたマンシーナにとっても、このスタイルは初めてであり、アニプレックスの落越友則が用意した音楽の発注リストの詳細さに驚かされた、とCDのライナーで明かしている。
 この日本とハリウッドをつなぐ音楽プロジェクトに陰から尽力したのが、『BLOOD THE LAST VAMPIRE』の作曲者であり、『かみちゅ!』『Ergo Proxy』など、このところアニメ分野でも目覚ましい活躍を続ける池頼広だ。CDには“Adviser”と控えめにクレジットされるのみだが、マンシーナが慣れない日本の音楽作りの中、最大限に自己のサウンドを鳴らせることに果たした役割は大きい。本作を通じてRCの面々と太いパイプを持つに至った池の、今後の活躍も大いに楽しみである。

 なお、前回の本稿で予告した「越部信義の音楽」に関連した特別企画については、別途日を改めて掲載させていただくことになった。ご了承のほどを。
 

●第28回へ続く

(06.05.17)

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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