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第36回 2006年のアニメ音楽を振り返って
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2006年もアニメーションの豊作ぶりは続いた。恥ずかしながら、筆者もそのすべてに目を通し……あるいは耳を傾け……たわけではない。その中で極々大雑把に2006年のアニメ音楽シーンを振り返るなら、劇場用作品の音楽の充実振りが際立った年と見ることができそうだ。『ゲド戦記』『ブレイブストーリー』『時をかける少女』と、3本の話題作が華を競った夏季興行の印象が記憶に新しいことも、その印象を強めている。
思えば本稿の今年の1回目に取り上げたのも、劇場版『ブラック・ジャック』の『ふたりの黒い医者』だった。そこでベテラン冨田勲が聴かせてくれたスコアは、口笛をメイン楽器に用いるという今ではほとんど省みられなくなった手法であり、その印象的な旋律とともに、効果的な映画音楽作りにおけるベテランならでは采配の味を堪能させてくれたものだった。
正月映画では、『ブレイブストーリー』の前哨戦的なイメージで大々的に公開されたGONZOの『銀色の髪のアギト』の音楽が印象に残る。岩崎琢(←正式には旧字体)によるスコアは、画面の細かなきっかけに合わせたフィルム・スコアリングの王道を行くもので、映像と音響が高次元でシンクロする妙味に溢れていた。
夏の3作については、三者三様の音楽アプローチで存分に楽しませてくれた。バグパイプ等の特殊な楽器の音色で異世界の雰囲気を出し、ロマンティックかつ雄大なメロディで大作感を味わわせてくれた『ゲド戦記』の寺嶋民哉。ピアノを中心にしたミニマムな編成で感傷的な音世界を広げた『時をかける少女』の吉田潔。意外だったのは、「マトリックス」等の作品への楽曲提供で知られるダンス・ミュージック系のグループ、ジュノ・リアクターを起用した『ブレイブストーリー』。仕上がった音楽が、スロヴァキア・ナショナル・シンフォニー演奏する、大作アニメの王道をいくオーケストラ・サウンドだったことにも驚かされた。
さらに時間を先に進めて公開中の作品では、今敏監督とは『千年女優』『妄想代理人』に続くコラボレーションとなる平沢進が独特の音楽世界を開陳する『パプリカ』、イギリスのエレクトロニカ・バンドPlaidのドライブ感溢れる楽曲が画面の疾走感に鞭を入れる『鉄コン筋クリート』の2作が、作品自体に対する高評価を裏打ちするごとく音楽的にも興味深い仕上がりである。
さて、『ブラック・ジャック』を除き、単発の劇場用作品についてのみ触れてきたが、『映画 ドラえもん のび太の恐竜2006』(音楽・沢田完)、『ONE PIECE THE MOVIE カラクリ城のメカ巨兵』(田中公平)等、TVシリーズから派生した劇場映画に関しては、シリーズの基本ラインを押さえつつ、劇場作品ならではのゴージャスな味つけを施した安定した音楽がつけられていた。テレビ作品からの繋がりで言えば、“新訳”『Ζガンダム』が春の第3作『星の鼓動は愛』で完結した。音楽はTVシリーズと同じ三枝成章で、3作ともに新作画シーンを中心に新曲が書き下ろされているが、TV版からの楽曲と地続きになるよう、21年前の楽曲に立ち返ってメロディやアレンジに工夫を凝らしていたのが印象的だった。
安定、という意味では毎年恒例の『ルパン三世』のTVスペシャル最新作『セブンデイズ・ラプソディ』における大野雄二の仕事も、実に安心感ある仕上がりだった。特にここ数年は、歴代スペシャル作品からの音楽流用を前提に、楽曲単体で成立し得る高ポテンシャルの音楽をシーン尺にこだわらず追加録音するスタイルになっており、アルバムとしての聴き応えもアップしていることは特筆しておきたい。
CS、BSに加え、ネットのオンデマンド配信も加わり、シリーズ作品の初出形態はより賑やかになった昨今。シリーズ作品に目を転じ、印象に残った作品を思いつくままに挙げていくなら、小松崎茂の絵物語に材を取った『Project BLUE 地球SOS』(大島ミチル)、女声スキャットが心地よい『ひぐらしのなく頃に』 (川井憲次)、題材に即したヨーロピアンなサウンドで人気を集めた『ARIA The NATURAL』(妹尾武他)、クノ一を題材にしたラブ・コメというコンセプトとテクノ系の音色の合致がユニークな『ひまわりっ!!』(妹尾武、羽岡佳)、御大・菊池俊輔を作曲に迎えた劇中内作品の主題歌「超空戦隊スターレンジャー」につい目を奪われつつ、高木隆次による軽快なスコアも忘れがたい『無敵看板娘』、そして、グルーヴ感溢れるアクション系の音楽では筆者的に最大のツボだった『009-1』(岩崎琢)等々といったところ。大島ミチルの起用がまさに打ってつけと言える『シュヴァリエ』、多田彰文の清楚な音選びに感心する『砂沙美 魔法少女クラブ』といったWOWOWアニメも好調で、ロボット・アニメ好きとしては来年3月放映開始の『REIDEEN』において池頼広がいかなる采配を振るうかが待ち遠しい。と、こうして書き連ねて見ると、いかにきちんとした紹介をやり損なっている作品の多いことか。来年は更新のテンポ上げに真剣に取り組みます。
旧作音源の復刻はあまり進まず、そんな中、年末にDVD-BOXのリリースに足並みを揃え、いずみたくによる旧『ゲゲゲの鬼太郎』の音楽が完全な形でCD化されたことは喜ばしい。その一方で筆者もライナーに参加した『どろろ』(冨田勲)は、諸般の事情から発売見送りの憂き目に遭ったことは残念である。洋盤では、スコット・ブラッドリーによる『トムとジェリー』の1950年代の音楽を集めたアルバムがリリースされた。海外での旧作音源の積極的な発掘は目覚ましく、見習わねばならないと強く感じる。
2006年は文化人・著名人の訃報が相次いだ。アニメ・ジャンルに活躍した作曲家も伊福部昭を筆頭に、宮川泰、宮内國郎らが鬼籍に入った。海外でも『スーパーマン アニメ・シリーズ』『バットマン/マスク・オブ・ファンタズム』等を手掛けたシャーリー・ウォーカーが11月末に亡くなった。オーケストレーターとして多くの作品に携わった才媛であった。
さて、不況が伝えられる音楽業界で、「のだめカンタービレ」効果によってクラシック・ジャンルが例年にない活況を呈していることが明るいニュースとして報じられている。来年早々にアニメ版の放映も始まる「のだめ」。映像作品にハマり、そこに流れていた音楽を単独で聴くことの喜びが広い層に広がる契機のひとつになればありがたいのだが。
(文中敬称略。執筆/早川優)
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