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REVIEW
CD NAVIGATION[早川優]

第7回
「バジリスク 甲賀忍法帖 ドラマ&サウンドトラック 音絵巻〜第一章〜」
映像と音楽との最高のコラボレート。中川孝の熱き時代劇サウンド!!
〜アニメBGM&オリジナルドラマを収録した超豪華アルバム第1弾!〜

 「今」を舞台にした娯楽活劇を生み出しづらくなっている日本で、空想の翼を自由に羽ばたかせられる時代劇は貴重なジャンルである。一方でお茶の間の家族向けテレビ時代劇が往年の勢いを失っている状況はあるものの、ヤングアダルト層をターゲットとしたエンタテインメントとして、時代劇はアニメや実写映画の格好の題材になっている。
 その時代劇の中でもいわゆる「忍者」ものはひとつのサブ・ジャンルを形成する定番ネタとして、原作つき・オリジナルの別を違わず、その黎明期からアニメ化の俎上に上げられてきた。今回ご紹介の『バジリスク 甲賀忍法帖』は、忍者たちが忍法を駆使して争う様を一気呵成たる筆致と、SFと見紛うばかりの破天荒な設定で描いて人気の山田風太郎の忍法小説の代表作を、コミック経由でアニメ化した作品。山田作品のクノイチが女人ならではの忍法を駆使する有名な描写を思い起こす時、映画やVシネならいざ知らず、こうしてアニメ化されることには隔世の感がある。
 さて、『バジリスク』の音楽は中川孝が担当。1995年に2本立てで劇場公開された円谷映像の「女囚処刑人 マリア」「白衣のアマゾネス」で映像音楽の作曲家としてデビューした中川は、WEBアニメ『あじむ 〜海岸物語〜』の仕事もあるが、やはり圧倒的に実写畑の作家だ。その作品歴を思い返して感じるのは、やはりシンセ使いの手腕の高さである。Vシネや深夜枠のドラマなど、中川が主に活躍してきたフィールドでは、主に制作予算との兼ね合いから必然的にシンセによる曲作りが前提となっている。が、そうした中で中川が見せた仕事は、仮に出発点は予算面だったとしても、各々の作品が真に必要とした響きを与えたものと実感させる巧妙なものだった。デジタルで構築された硬質な響きや、正確無比なリズムセクション、そして特有のメロディ・ラインの美しさを伴って構築されたコンポジションには、オケの代用物としての響きはない。
 時代ものの映画音楽にはいくつかの「手」がある。中でも定番は和風の音階を用いること、和笛や鼓などの「日本」を感じさせる和楽器を取り入れることだろう。今回、中川はどちらのパターンにも安易に偏ることなく、サンプリングによる和楽器の音をキメの箇所で取り入れつつ、シンセで重厚かつ奥行きある楽曲を紡ぎ、オリジナリティに満ちた映像音楽を作り出している。器楽編成的には、情感曲等に主人公・甲賀弦之介をイメージする篠笛が、アクション系の音楽には律動感を倍加させるギターが、それぞれ生音でダビングされている。
 音楽集の1枚目となる本盤では、中川のロマンティックな曲想が楽しめる「春夢」等のナンバーに惹かれるが、何といっても最大の聴きどころは甲賀・伊賀の俊英同士が死力を尽くして激突するシーンの音楽「殲 其ノ弐」だろう。三味の音色を加えたストリングス系のリズムがミニマルに響く中、シリーズ構成のむとうやすゆきによるwordsを16人編成のヴォーカリーズが呪詛風に謡ってゆく陶酔感あふれるナンバーである。なお、ボーカルには本作の音響監督を務める塩屋翼も参加。ここで忘れないうちに蛇足しておくと、塩屋はアルバム収録のドラマ「春嵐前夜」では、風待将監の孫役! で特別出演。ロートルなファンとしては、塩屋といえばついトリトンに代表される少年キャラをどうしても連想してしまうのだが、ここでは聞くからにオゾマシイ(失礼)赤ん坊のはしゃぎ声を出していて楽しませてくれる。
 そして、本作の音楽の最大のトピックスは、通常のTVアニメとは異なり、すべての音楽がエピソードごとに画面に合わせて作曲・録音されているということだ。これは監督の木崎文智の「アニメ音楽ではなく、映画音楽を作って欲しい」との注文によるもので、実際に放映作品を観ていると、画面の展開と音楽とが絶妙にシンクロし、選曲方式では充分に得られない、映像と音響の相乗効果に圧倒される。
 1話ごとに音楽を新録音するのは音響演出的には理想ではあるが、TV番組では放送スケジュールの関係で実現は中々難しい。が、中川は「真・女神転生 デビルサマナー」等、ドラマの分野でこの試みを何度も行っており、本作でも監督の注文に見事に応えることになったのだ。実は音楽をオール・シンセで構築する選択には、完全オーダーメイドの音楽をテレビ番組で実現する手段という側面もあるのである。
 本アルバムには、第1話から8話までのエピソードのために録音された全74曲・トータルで3時間半分のスコアの中から選び抜かれた楽曲を収録。それぞれの楽曲はアルバム用にリマスタリングを施され、より音楽的な奥行きを手に入れている。また、一部には組曲的に再構築されたと思しきトラックもあり、サントラとして聴き応えのある作品に仕上がっている。
 CDには、山田風太郎を愛してやまないグループ・陰陽座による主題歌「甲賀忍法帖」のTVサイズも収録。ライナーには陰陽座リーダーの瞬火による山田作品への愛情が満載された寄稿を掲載。
 さらにドラマ・パートは、アニメーションの前日談となる前述の「春嵐前夜」に加えて、甲賀衆の面々の設定を学園に置き換えた「私立 バジリスク学園」をおまけ収録! キングの面目躍如たるパロディ篇は、『バジリスク』ファンへの最高の贈り物だろう。
(執筆/早川 優)

■DATA
バジリスク 甲賀忍法帖 ドラマ&サウンドトラック 音絵巻 〜第一章〜
全20トラック
収録時間:75分51秒
販売:キングレコード
KICA-700
発売日:2005年6月22日
価格:2800円 (税込)
[Amazon]

■執筆者からの一言
 『バジリスク』の音楽プロデューサーは、GONZOの音楽出版部門の長を務める藤田純二が担当。藤田氏といえば、かつてキングでスターチャイルドを立ち上げ、ファースト『ガンダム』他の錚々たる作品をディレクターとして手がけてきた人物。その後、東芝傘下のユーメックスの社長として『ふしぎの海のナディア』等のヒットを放ったことも記憶に新しい。
 その藤田氏の名前が音楽プロデューサーとしてクレジットされたアルバムが、今、こうしてキングからリリースされたことに深い感慨を覚えずにはおれない。
 

●第8回へ続く

(05.07.26)

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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