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第19回
2005年のアニメ音楽を振り返って |
アニメの新譜CDのレビューをお届けする本コーナーも開始から半年、早くも年末を迎えることになった。今回は2005年のアニメ音楽シーンを簡単に振り返ってみたい。ただ、筆者の趣向から背景音楽中心の回顧となることはご了承願いたい。
作曲家全般では、女性陣の一層の活躍が目立った年だった。今や大御所となった大島ミチルは『鋼の錬金術師』で引き続き確固たる映像音楽の世界を広げた。多岐にわたる仕事の中でも、その劇場版『シャンバラを征く者』における音楽と映像の細やかな協奏ぶりは、映画音楽ならではの興奮を観る者に与えてくれた。
アーティストとしてますます脂の乗った仕事ぶりを見せている菅野よう子もアニメ音楽の分野で活躍した。今年の新作の中では、保刈久明と共同で手がけた『創聖のアクエリオン』がやはり白眉と言える。主題歌もスマッシュヒットを記録、音作りの底力と揺るぎない人気を証明した。アーティスト兼コンポーザーとして、菅野に近いスタンスで仕事をこなす梶浦由記も、『ツバサ・クロニクル』という大型作品で健闘した。
女性作家という観点では、実写作品ではあるが「戦国自衛隊1549」に抜擢されたShezooが注目された。ただ、音楽予算が比較的ミニマムなものだったため、作品のスケールに比して編成が小振りであり、本来の力を活かし切れなかったきらいが残る。今後の活躍に期待したい。
もちろん、男性のベテラン勢も安定した仕事をものにしている。佐橋俊彦は『ガンダムSDESTINY』「仮面ライダー響鬼」という強力なフランチャイズ作品で、それぞれまったく異なった方法論の背景音楽を生み出してみせた。前者では前作の方法論を発展させた高密度の音楽が圧巻であり、後者では当初の打楽器だけで音楽を構築するという実験性に驚かされた。
千住明も実写映画からイベント音楽まで相変わらずの引っ張りだこだったが、アニメの分野ではNHKの『雪の女王』において、千住節とも言える清楚なタッチのテーマの他、童話に根ざした作品カラーと出崎統監督の意向を受けた北欧的な楽曲を生み出しているのが印象深い。
若手作曲家の中では、何と言っても佐藤直紀の躍進振りを特筆しておかねばなるまい。昨年からメキメキと存在感を増していった佐藤は、2年目に入ってますます好調の『ふたりはプリキュア Max Heart』と『交響詩篇 エウレカセブン』で大いに気を吐いた。中でもテクノ系の挿入歌・挿入曲と真っ向から対峙しつつ、一歩も引けを取らないオーケストラ曲を提供した後者のスコアは素晴らしい。実写作品でも「逆境ナイン」での茶目っ気や「ALWAYS 三丁目の夕日」の叙情など、作品ごとに違った顔を見せてくれた。
昨年、満を持して公開された大友克洋監督の『スチームボーイ』では、音楽にハンス・ジマー率いる音楽制作事務所“リモート・コントロール”(旧メディア・ベンチャーズ)の若手、スティーヴ・ジャブロンスキーが抜擢されて話題となった。その渾身の管弦楽スコアは作品を見事に上昇気流に乗せていた。この流れに続くものとして、今年はジマーのプロデュース、マーク・マンシーナ(『ターザン』他)作曲による『BLOOD+』の放映がスタートしている。海外作曲家の起用は実写のジャンル作品に顕著で、ゴジラの最後のお努めとなった「GODZILLA FINAL WARS」は、かつて『HARMAGEDON 幻魔大戦』も手がけたキース・エマーソンが担当。超能力テーマつながりで、変わらぬシンセの響きを聞かせてくれた。また、昨年から今年にかけてのフィクション界の旋風児・福田晴敏原作による「亡国のイージス」はトレバー・ジョーンズが担当。これも映画音楽ファンに好評をもって迎えられた。
アニソン的な話題性では『魔法先生ネギま!』に止めを刺そう。麻帆良学園中等部の生徒を演じる声優諸氏を曲ごとに編成し、毎月連続リリースした主題歌「ハッピー☆マテリアル」は、リリースされるたびにチャートを賑わした。楽曲自体のポテンシャルの高さもあり、J―POPファンを巻き込んで今年の音楽界の大きな話題となったことは記憶に新しい。
リリース面での話題に関しては廉価再発が花盛りだ。コロムビアのANIMEX1200シリーズはタイトル数を着実に増やし続け、イメージ・アルバム・タイトルへも手を広げるに至った。特別枠として他社音源もカタログに加わり始めたことで、今後がますます楽しみなシリーズになった。
一方のアニメ音楽リリース元の雄・キングレコードのスターチャイルドも、作品ごとに主要歌曲を網羅した「スタまに」シリーズを開始させている。願わくば、スタチャのシリーズが同社に多く眠る傑作サントラ・アルバムも復刻の視野に入れんことを。
11月には山下毅雄、有澤孝紀というアニメ音楽ファンには馴染み深い2人の作曲家の訃報が相次いで伝えられた。中でも有澤氏は54歳という働き盛りで病に倒れており、その早過ぎる死は本当に惜しまれる。同時期には『明日のナージャ』他でアニソン分野にも功績を残す本田美奈子の急逝もあり、ショックを受け続けだった。
最後は湿っぽい話題となったが、総じて2005年のアニメ音楽シーンには活力があったように思う。果たして2006年にはどのような響きが得られるか、大いに期待して待ちたいと思う。それでは、皆様、よいお年を。
(執筆/早川 優) |
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