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REVIEW

CD NAVIGATION[早川優]

第23回
「TVアニメ ガラスの仮面 サウンドトラック」
寺嶋民哉が紡ぎ出す硬質でメンタルなサウンド世界は、まさに『ガラスの仮面』の本質を突いた仕上がり!
〜世代を超えたベストセラー「ガラスの仮面」のTVアニメ版サウンドトラック!〜


 放映中のTVアニメ・シリーズ『ガラスの仮面』の音楽は、寺嶋民哉が担当している。『ガラスの仮面』を追いかけているファンであればよくご存じのとおり、寺嶋が『ガラスの仮面』のアニメに音楽を提供するのは、1999年のOVA版に続いて今回が2回目となる。さらに筆者も知らなかったのだが、今回のサントラのブックレットに掲載されている寺嶋と原作者・美内すずえとの対談記事によれば、かつて寺嶋は美内に請われて彼女の友人の舞踏家のために「紅天女」を題材にした舞踏曲を書いてもいるそうなので、これは寺嶋にとって3度目の『ガラスの仮面』への挑戦となったわけだ。
 今回の『ガラスの仮面』の第1回をオン・エアで観た時に筆者は、音楽の作り方が慎ましげであるように感じた。「ガラかめ」初のアニメ化となった1984年のエイケン版にせよ、前述のOVA版にせよ、その音楽は「演劇」というキーワードがもたらすところの華やかさを表現すべく、生楽器を主体にした、言ってみれば「ゴージャス」な響きが当てられていた。それに比して本作の音楽は、シンセを中心に構築したミニマムなサウンドだったからである。ピアノやシンセのヴォーカリーズの導きで淡々と進行していく音楽は、筆者の予想していたものとは異なる方向性をもっていた。
 しかし、回を追うごとにこの試みが意図的なものであり、演劇という静かな対決の場で雌雄を決する2人のヒロインを描く上で、この静謐な音楽が実に効果的な役割を果たしていることに気づかされていった。実際、CDのブックレットの対談内で寺嶋は、「ヒーリング系というか、おとなしめに音楽を付けたいという意向もあり」「起伏が多くない音楽の付け方」をした、と語っている。
 当初、演劇の世界を舞台にしたスポ根作品的な肌触りをもっていた原作漫画は、ヒロイン・マヤが「紅天女」主役獲得を目指すクライマックスが具体的に見えてくるにつれ、より内面描写に力が注がれていった。そして、アニメ、実写版はおろか、原作でさえもまだ到達していない「紅天女」を巡る物語に、ある一定の決着をつけることを標榜した本作において、この音楽設計は最善の方策だったと思う。
 CDの1トラック目は、各エピソードのラストシーンをはじめとして頻繁に使用される静謐な「千の仮面」。ピアノとシンセによる木管楽器の響きが、この世ならざる美しさを秘めて流れていく。この心地良さ。静かな曲調の中に、自ら選んだ道をつき進むマヤの限りない強さをも内包した、本作のメイン・テーマといえる楽曲だ。以降、硬質なシンセの響きを活かした楽曲が続く。中でもストリングス系の音色でクラシカルにまとめた哀歌「Spice of Feel」、劇中では往年の大女優にしてマヤと亜弓の師・月影千草にベールのように纏いつく音として使用されることの多いアンニュイな「慟哭」、シンセのピッチカートが巧みな焦燥感を煽っていく「懊悩と焦燥」、華やかなシンセのアンサンブルがマヤの喜びを広げていく「Fountain」、ストリングス音源によるメロディ(予告編音楽にも使用)が宿命感の表現に効果を上げるエンディング曲「Time healed my sorrow」などは、耳に馴染みある楽曲ということもあり、一際大きい存在感を伴って響く。
 総じて、本作における寺嶋の音楽は、シンセの音色が醸し出す透明感と硬質感という意味において、まさに音による“ガラスの仮面”の構築である。過去の『ガラスの仮面』のための音楽が、作品のフィジカルな面に傾注して書かれたものであるとするなら、まさに今回はメンタルな側面が音として結晶したものと言えよう。寺嶋自身によるOVAの音楽と比べても、作品への接近度という観点から、さすがに本作には一日の長がある。旋律面の進歩も顕著で、OVA版ではオーケストラ・サウンドの充実ぶりに対してメロディ面の弱さが感じられたが、ここではフランス印象派を思わせる巧みなメロディ・ラインを駆使し、豊かな音世界を堪能させてくれる。
 アルバムの末尾には、これからクライマックスに至る作品の展開に即して、それぞれ「風」「火」「水」「土」と題された「紅天女」のための組曲も収録。すでにアニメではマヤたちが月影先生から与えられる困難な課題に立ち向かう場面で使われ始めている。いずれも題材に合わせて笛や鼓等の和楽器の響きを取り入れた力強い音楽で、前述の舞踏曲を素材に発展させたものということだ。そんな背景から、本作が美内すずえ公認「ガラかめ」音楽であることも分かる。放映中の番組を観ている視聴者の方ばかりでなく、広く『ガラスの仮面』ファンの方に聴いていただきたいアルバムだ。
(執筆/早川 優)

■DATA
「TVアニメ ガラスの仮面 サウンドトラック」
全29トラック 収録時間:73分17秒
発売元 サイトロン・デジタルコンテンツ株式会社
販売元 キングレコード株式会社
KDCA-0049
2006年1月25日発売 定価3150円(税込)
[Amazon]

■執筆者から一言
 「マガジンZ」誌にて連載中の新名昭彦先生のコミック「マジンガーエンジェル 魔神天使」。コロムビアさんによる、そのイメージ・アルバム企画に携わりました。イメージ・アルバムと言ってもかなり変則的なもので、原作が永井豪先生のマジンガー・シリーズの要素を自在に再構成し、新たな作品として成立させているように、旧作音源を「マジンガーエンジェル」のイメージで選曲、構成することで新しい価値を見出せないかというアイディア。
 マジンガー・シリーズの各ヒロインのテーマ・ソングと旧作インスト曲をコンパイルすることによって、錬金術的に「マジンガーエンジェル」の姿が立ち現れますかどうか、さあお立ち会い! アルバムには挑戦的に「オリジナルBGMコレクション魂」なるサブタイトルも付いていたりして。音源コレクター的な需要も見越して、インスト曲はすべて、ユーメックス=東芝EMIのアルバム「渡辺宙明グレイテスト・ヒッツI」(TYCY-5250)で新録音された「マジンガー組曲」の音源を使用しています。
 永井豪、宙明両先生が詩・曲を書き下ろし、ミッチ歌唱による新曲「マジンガーエンジェルのうた」も収録されますので、スーパーロボットな魂をお持ちの方には是非、是非、お手に取っていただきたいとお願いする次第。3月22日、イン・ストアです。
 

●第24回へ続く

(06.03.13)

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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