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REVIEW
CD NAVIGATION[早川優]

第13回
「NHKアニメ劇場 雪の女王 オリジナル・サウンドトラック」
〜千住明が紡ぎ出す清楚なメロディの数々。
              名作となることを宿命づけられた音楽たち〜

  いわゆる「名作もの」として括れるジャンルがある。そこには、やはり名作の誉れを感じさせる音楽が不可欠だ。「名作」の元祖たるズイヨー〜日本アニメーションによる一連の作品に流れる渡辺岳夫の仕事は、その代表作といっていいだろう。
 では、僕たちに「名作」を感じさせる音楽とは何だろう。これを言葉で表現するのは実は難しい。それは東映の長編動画や上記の名作アニメを通じて、自然にファンの中に形成されていったものだからだ。強いていうなら、音楽的にはオーソドックスな形を取り、作品の舞台・時代背景を盛り込んだスタイルで、物語に対して出しゃばり過ぎない奥ゆかしさをもつ反面、必要なところでは感動を大きく謳い上げる力をもつ……といったところだろうか。
 千住明がNHKアニメ『雪の女王』のために書いた音楽は、まさに生まれた時から「名作」であることを宿命づけられた楽曲である。オープニングが主題歌ではなく、インストゥルメンタル曲「スノーダイヤモンド」であることも意表を突いた趣向であると同時に、作品に他とは一線を画する風格を冒頭から漂わせることに成功している。楽曲も、一度聴いたらすぐに口ずさめること請け合いの印象的なメロディで、千住ならではの気品とロマンに溢れる。演奏は千住の妹の千住真理子。愛用のストラディバリウスによって奏でられる響きは、この人ならではのもの。楽曲を完全に自己薬篭中にした者だけがなし得る自信に満ちた運弓ぶりは、兄妹による作曲・演奏作品ならではの所産だろう。
 2人のコラボレーションによる映画音楽としては、NHK朝の連続テレビ小説「ほんまもん」のメインテーマ「君を信じて」が先にあるが、この「スノーダイヤモンド」は、これに続くスタンダードとなることだろう。アルバムには番組用のショート・サイズはもちろんのこと、鑑賞用のフルサイズ、千住真理子のソロ・バイオリンによるバージョン、千住明本人によるピアノ・ソロ・バージョンと、変奏曲が豊富に収められているのが嬉しい。
 『雪の女王』の音楽は、このメインテーマを柱に、ヒロイン・ゲルダのテーマと雪の女王のテーマを加えた三位一体を核に構築されている。ふたつのキャラクター・モティーフに関しては、CV担当の川澄綾子と涼風真世によるヴォーカル・バージョン「夢であえるね」(川澄)、「ホワイト・アンド・ブルー」(涼風)も収録。「ホワイト・アンド・ブルー」の共同作詞者は出崎統監督本人なので、出崎ファンも要注目だ。こうした明確な意図を持って作られた挿入歌の存在も、「名作」ならではの趣向である。
 この他、劇中に現実音として流れる幾多の音楽も『雪の女王』ならではのコンセプトを貫いて作られている。代表例は何と言ってもラギが詩を口ずさむ場面のための陰影に満ちたギター(欧州の民族楽器を使用)の調べと、祝祭シーンにながれる陽気な民族音楽的ナンバーだろう。「草原の風、収穫の夜宴」の題名で収録された後者は、先だって放映された第21話「3つのくるみ」冒頭の春祭りのシーンでも使用され、ここでは出崎監督ならではの趣向として、登場人物の「ラセー、ラッセー」という威勢のいい掛け声が加わることで、また一味違った音楽効果を生み出していた。
 さて、ここのところ、大ヒットしたドラマ「砂の器」、実写とCGの合成が話題になった劇場映画「HINOKIO ヒノキオ」、閉幕した愛・地球博でも屈指の人気パビリオンとなった三井・東芝館の「Grand Odyssey」と、充実した仕事を矢継ぎ早にこなしている千住明。千住といえば、昨年は自身も強い思い入れを抱いていた『鉄人28号』のリメイクをアニメ・実写映画ともに手掛け、オリジナルの主題歌、挿入歌の旋律を用いつつ、明朗な冒険アクション音楽を生み出していたのは記憶に新しい。
 その『鉄人28号』の充実した印象が覚めやらぬ内に、新たな千住アニメ音楽が聴けることは、一人のファンとして嬉しい限りだ。過去には『機動戦士Vガンダム』『アリーテ姫』等、アニメ分野でも大きな業績を残している千住だが、フィルモグラフィーにおけるアニメの割合はそう多くはない。上記のように活躍の舞台は幅広いものの、「家なき子」等の野島伸司脚本のドラマやメガヒットとなった劇場映画「黄泉がえり」など、映画音楽の作曲者としては圧倒的に実写畑の印象がある。
 『Vガンダム』の作曲について千住は、(当時の時点で)自分の中にある音楽的な材料をすべて出し尽くした旨を語っている。実写作品の音楽がアニメのそれに較べて軽いということではないが、後者が前者に比して音楽の役割が大きいことは確か。TV作品同士を較べた場合、特撮ものは別にして、アニメで求められる音楽のメニュー数は実写ドラマの数倍に及ぶことは常識だ。アニメの音楽を作曲するためには実に多大なエネルギー必要とし、それが千住のかつての発言に繋がっているのだ。そういう意味で、千住の限られたアニメのための仕事からは個々に彼の全力投球ぶりが伝わってくる。
 今回の『雪の女王』のサウンドトラック・アルバムも、非常に力のこもった聴きどころ満載の作品に仕上がっている。先に記したメインテーマの素晴らしさだけでも、これを手元に置いておく価値は充分にあると断言しておこう。(文中敬称略)
(執筆/早川 優)

■DATA
NHKアニメ劇場 雪の女王 オリジナル・サウンドトラック
全28トラック 収録時間:63分02秒
東芝EMI株式会社 TOCT 25667
2005年6月15日発売 定価3000円(税込)
[Amazon]

■執筆者からの一言
 とても気になりつつ、物理的に行きそびれてしまったコンサートがある。10月27日に洗足学園前田ホールで行われた「夢きらめくオーケストラ」がそれで、学生オーケストラによって玉木宏樹(『アニマル1』「怪奇大作戦」)編曲による「交響詩《鉄腕アトム》」が演奏されたのだ。何でも25年ほど前に東京交響楽団の委嘱によって書かれたものとか。やはり有名な高井達雄のメロディをオーケストラ用に編んだものなのだろうか。実に気になる。同時演奏曲は、山本直純の「オーケストラ・デモンストレーション」。サントラ・ファンには改めて書くまでもなく、山本、玉木の両氏は師弟関係にある。何とも興味津々のプログラムではないか。おまけに入場無料ときた! うーん情報を得たのが遅すぎた。行かれた方の情報を激しく求む次第。
 

●第14回へ続く

(05.10.31)

 
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